時代劇名シーン一覧/忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」(制作/日本テレビ 制作著作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)より

時代劇名シーン一覧/忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」(制作/日本テレビ 制作著作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)より

85年に放送された、日本テレビの年末時代劇シリーズ第一弾。当時、時代劇でよく見かけた準主役クラスの俳優陣をかき集めて構成された豪華キャストで話題を呼びました。

素材としては既に使い古された感のあった「忠臣蔵」、あらすじも観る前から分かっているわけですが、そこはそれ。古より人々の心を捉えて離さない珠玉の名シーンの数々がおなじみの俳優さんたちのお芝居によって再現される楽しみもあってか、紅白歌合戦の裏番組にあたる時間帯の放送にも関わらず(後篇)高視聴率を記録したとか。

 

脚本を担当したのは杉山義法氏。以後、「白虎隊」「田原坂」「五稜郭」を含む、同シリーズ7作品の脚本も担当されました。いろいろな意見はあるでしょうが、個人的にはこの「忠臣蔵」が最も話のテンポがよく、登場人物のキャラも明確に描かれていて一番好きですね。

 

何度観ても心を打たれるいくつかのシーンの中から今回ピックアップするのは、大晦日に放送された「後篇」より、吉良邸討ち入り当日、大石内蔵助(里見浩太朗)が今生の別れの挨拶のために、浅野本家に引き取られていた内匠頭(風間杜夫)の元正室・瑤泉院(多岐川裕美)のもとを訪問するシーン。

 

しんしんと降る雪のなか、下僕1人をお供に三次(みよし)の浅野家下屋敷へと向かう内蔵助。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

単におじさん2人が歩いてるだけのシーンなのですが、何とも絵が美しい。これぞ時代劇!

 

浅野家下屋敷では、侍女から不意に大石の来訪を知らされ驚く瑤泉院。

「大石殿が妾に会いに参ったのか?」

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

「聞き違えではあるまいの?」と戸田局(野川由美子)。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

内蔵助は内匠頭の仇討ちのために江戸に出て来たに違いない、と舞い上がる浅野ガールズ。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

「早くお通しするのじゃ」と瑤泉院に言われ、畏まる侍女・楓(清水めぐみ)。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

急にそわそわしながら、身なりが見苦しくないかなどと気にし始める瑤泉院。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

杉山氏の脚本は、どこかお姫様気質の抜けない瑤泉院の人柄を巧みに描いてみせます。

 

一方、瑤泉院の待つ部屋へと案内される内蔵助は、初めて見る楓に興味津々。

「いつから瑤泉院様のお傍に?」

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

 

二人の待つ部屋に通されて平伏する内蔵助。「この雪の中を、ようお訪ね下されましたのぅ」と戸田局が労えば、「内蔵助、早よぅお顔を見せてくりゃれ」と瑤泉院。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

まずは「麗しきご尊顔を・・・」の挨拶の後、江戸出府が遅れたことを瑤泉院に深く詫びる内蔵助。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

「そのような堅苦しい挨拶はもう良い」と瑤泉院。しかし大歓迎ムードも束の間、気の急くあまり、早くも「此度の出府の趣を話してたもらぬか?」と切り出す瑤泉院。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

ガールズの期待に反して内蔵助の返答は、改易となった赤穂藩の残金、五百両を瑤泉院の「お化粧料」として持参したというもの。あからさまに失望の色を顔に浮かべる瑤泉院。

「妾の化粧料とな?」

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

さらに藩金使途の明細や領収書も持参したから併せて受け取りを、と付け加える内蔵助。瑤泉院に「出府の趣はそれだけか?」と聞かれ・・・

「瑤泉院様には・・何か、ほかに・・?」

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

その場に流れる気まずい空気(笑)

ここで思い出したかのように瑤泉院に目配せをする戸田局。意を汲み取った瑤泉院に「下がりゃ」と言われ、いなくなる侍女たち。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

3人きりになったところで戸田局、「おなごが口を差し挟むことではないとは思いまするが・・」と前置きしつつ、「何ぞ心に決めたことがあるなら、どうぞ瑤泉院様にお打ち明け下さりませぬか」と内蔵助に迫る。

それを受けて内蔵助・・・

「せっかくの戸田殿のお執り成しなれど、格別心に決めたことがあるわけでなし・・・ これは、困りましたな・・。」

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

唖然とする戸田局。

「ならば、仇討ちのことは考えておらぬと・・・?」

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

「いかにも」と即答する内蔵助に「それはまことか!?」と食ってかかる瑤泉院。戸田局と共に、浪士たちが江戸に集結しているのは仇討ちのためと江戸市中では噂で持ち切りだ、などと内蔵助に食い下がりますが、内蔵助はこれも一蹴。

かつてはそのような事を企てた者もいる、としながら、既に御家再興の望みもなく「今はもう、そのような無駄なことを口にする者は・・・」。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

「無駄なこと」と聞いて気色ばむ瑤泉院。

「そなた、亡き殿のお恨みを晴らすことを無駄だと言いやるか!」

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

しかし瑤泉院の怒りなどどこ吹く風、「そのようなことはもう一日も早くお忘れになり、お心静かにお暮し下さいませ」となだめすかしつつ、ついには、幕府からのお咎めが浅野本家に及ばなかっただけでもラッキーと思え、と説教を始める内蔵助。

「この内蔵助、明日は江戸を発ち、山科に帰って、土いじりでもしながら余生を送るつもりでございます」

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

「えぇぇい、お黙りなされ!」とそれまで抑えていた怒りを爆発させる戸田局。

「そのようなふやけた事を、よもや大石殿から聞こうとは思いませなんだわ!」

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

そんな戸田局を叱りつける瑤泉院。

「戸田!もうよい!」

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

「誰がどう変わろうと、内蔵助こそはあっぱれ忠義の士と思うていた妾が愚かであった」とあてつけの一言を内蔵助に浴びせ、「殿がこの世にあればこそ恩の忠義のと・・・」と人の縁の儚さをつらつらと嘆く瑤泉院。

手をついたまま、じっと黙って聞いている内蔵助。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

「もう其方と会うこともあるまい!」と席を立つ瑤泉院。と、それまで黙っていたが、ひときわ強い調子で「瑤泉院様!」と呼び止め、目で何事かを訴えんとする内蔵助。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

思わず立ち止まるが、もはや内蔵助とは目を合わせようともしない瑤泉院。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

持参した袱紗包みを手に取り「お納めを!」と迫る内蔵助。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

瑤泉院に代わって受け取ろうとする戸田局に、「手をつけてはなりませぬ!そのようなもの、見るのも汚らわしい!」と言い放って部屋を出て行く瑤泉院。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

後を追うように戸田局も退出し、一人残される内蔵助・・・。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

意を決したように仏前に袱紗包みを供え、静かに部屋を後にするのでした。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

 

瑤泉院に対して心にもない言葉を終始平然と並べ立て続けていた内蔵助が、最後の最後に瑤泉院との永遠の別れを今まさに迎えんとしたそのとき、それまでの言動が嘘のように何とか真意を伝えようともがく姿が心に響きます。大事の決行を前に冷徹であり続けるべき内蔵助が、どうしても人の心を隠し切れなかった瞬間ですね。

 

屋敷を去りしな、玄関先で「瑤泉院様にはお風邪など召さぬよう、頼みますぞ」と見送りについて来た楓に語りかける内蔵助。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

「大石様も道中お気をつけあそばして」と優しい言葉を返す楓。

もちろん、この人が裏切り者(笑)

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

内蔵助が仏前に供えた袱紗包みを盗み見ようとしたところを戸田局に見つかった楓、駆け付けた他の侍女たちともみ合ううちに・・・

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

袱紗包みを落としてしまいます。するとスルスルスル~っと巻物が開いて、討ち入りに参加する浪士たちの連判状であることが分かるというお決まりの演出。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

取返しのつかないことをした、と既に屋敷を後にした内蔵助に涙ながらに詫びる瑤泉院でした。

忠臣蔵 後篇「我、一死もて大義に生く」

 

当時、直近では松平右近、松平長七郎と、徳川家のプリンスばかり演じていた里見氏が「小藩に仕える忠義の家老」を演じた本作、何事も明晰な頭脳と超人的な剣の技で解決してしまう右近や長七郎とは異なる、苦しみ悩みに充ちた一人の侍を演じる里見氏の姿をたっぷり堪能することが出来ます。

戸田局役の野川さんもいいですね。長七郎江戸日記のおれんや桃太郎侍のつばめ太夫といった、気風のいい姉御肌役のイメージが強い女優さんですが、本作では、直情型の瑤泉院と内蔵助との間を何とか取り持とうとする思慮深い老女役を好演なさっています。