斬られ役列伝・福本清三編/長七郎江戸日記(第1部) 第33話:影討ち(制作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)

このお話、エンドクレジットには名前も出て来ず、ラス立ちでもちょこっと姿が確認できるだけの福本清三名人。実は作品の出来不出来を左右する極めて重要なパートで、プロフェッショナルな職人芸を披露されています。
多くの藩では既に廃止された「影討ち(表沙汰にすることのない上意討ち)」を未だに行っている陸奥棚倉藩。物語の序盤、江戸家老・出石主水(勝部演之)の愛人でもある側室・お市の方(長尾深雪)にそそのかされ、当主・丹羽左京大夫(伊東達広)は、納戸役・浅尾清之助(島田順司)に江戸留守居役・平戸源兵衛(淡路康)の影討ちを命じます。
般若の面で素顔を隠した浅尾は平戸の駕籠を襲撃、従者を含め皆殺しにするのですが、殺害場面を、たまたま通りがかった長七郎(里見浩太朗)やおれん(野川由美子)に目撃されてしまいます。
影討ちの現場を見た者は生かしておいてはならない、という掟に従い、長七郎に猛然と斬りかかる浅尾。
この一連のシーンにおいて、島田氏の吹替えとして、般若のお面をかぶって刀を振るっているのが福本清三名人。
特に長七郎と1対1で斬り合うシーンにおける太刀捌きが非常に美しい。
まずは正面から・・・
真向斬りを繰り出す福本名人。
長七郎の反撃に合い、間合いを取って上段に構える福本名人。
と、すかさず中段に構え直して一歩前に出る福本名人。
薙ぎ払うように一の太刀を繰り出すが、躱される福本名人。
二の太刀は高めの突き。
右手に払われる福本名人。
三の太刀は逆サイドから高めの突き。
左手に払われる福本名人。
四の太刀は一歩踏み込んでからの真向斬り。
受け流される福本名人。
長七郎に突きで反撃され・・・
回転しながら・・・
後退する福本名人。
暫し睨み合いの後・・・
逃走する福本名人。
四手連続で福本名人が手を繰り出すのですが、そのしなやかな太刀筋の美しさもさることながら、下半身が安定していて上半身が全くブレないですね。構えの移行についても長めの間を取ったかと思うと一瞬で次の構えに移るなど、時間軸における緩急の使い分けが見事です。
本作の擬斗担当は上野隆三翁。江戸日記シリーズを通じて、これだけ長い福本名人と里見氏の一騎打ちというのは、本作以外には記憶にないのですが、福本名人の持ち味を十二分に堪能できる素晴らしい立ち回りに仕上がってますね。
ちなみに福本名人、物語の終盤、左京大夫の弟・左馬助(北條清嗣)の影討ちを命じられたものの、藩の行く末を案じて実行することが出来ない浅尾に対して、左京大夫が放った第二の「影」の吹替えも担当しておられます。
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