時代劇名優一覧(男優編)・石山律雄/闇を斬る!大江戸犯科帳 第20話:流人の島から来た娘(製作著作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)

時代劇名優一覧(男優編)・石山律雄/闇を斬る!大江戸犯科帳 第20話:流人の島から来た娘(製作著作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)

かつて八丈島を島抜けして江戸に潜入、無住寺であった下谷の妙源寺に住み着いて慈光などと名乗り、何食わぬ顔で和尚に成りすましている盗賊「弁天の儀三郎」役で登場する石山律雄先生。善の顔と悪の顔を完全に使い分ける冷酷非情な名うての盗っ人を、お得意の「石山節」全開で見事に演じ切っておられます。

 

序盤、廻船問屋の駿河屋に押し入り、主人(和田昌也)を殺害したうえ千両箱三つを強奪して逃走する赤鬼の五郎蔵(阿波地大輔)一味を、北町奉行所同心・北見礼四郎(長谷川恒之)率いる捕り方が追跡するシーン。

一味を追って礼四郎らが路地に入ると、五郎蔵に捕まって匕首を突き付けられた状態で石山先生が登場。か細い声で「お役人様・・・拙僧には構わず、どうかお縄を・・・」と健気に宣う石山先生。

時代劇名優一覧・石山律雄

そして無抵抗であったにも関わらず、左腕をしこたま匕首で刺し貫かれてしまう可哀想な石山先生。

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もちろん、仲間の五郎蔵たちを捕り方から逃がすための狂言芝居であります。

 

翌日、そんな事とはつゆ知らず、礼四郎と共に妙源寺を訪れた北町奉行の小笠原泰久(西郷輝彦)は、町方の不手際を慈光に詫びます。恐縮した様子で、元はと言えば自分が通りがかったせいで盗賊に逃げられてしまったなどと頭を下げる石山先生。

「お詫びをすべきは、拙僧の方でございます」

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差し出された見舞金で、寺子屋に通う子供たちのために筆や硯を買ってやりたいなどと殊勝なことを言う慈光に小笠原が感服します。例によって舌の上で言葉を転がすような耳に心地よい「石山節」を吟じながら謙遜して見せる石山先生。

「御仏の教えに従っているだけでございます」

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終始その口調は穏やかで、立ち居振る舞いに至るまで善人オーラ満開の石山先生。このシーンを見ていて、結末も知らずにほっこりした気分になってしまった視聴者も数知れず(のはず)。

 

場面変わって。

十年前に八丈島を島抜けした際、儀三郎は漁師の後家・お浪(前川恵美子)にその手伝いをさせ、共に八丈島を後にしたのですが、お浪の娘・お妙(西村香織=子役)は、その現場を見ていました。例の捕り物騒動に出くわして十年ぶりに儀三郎を見かけたお妙(佐藤忍)は、母親の手がかりを求めて妙源寺を訪ねて来ます。

お妙やお浪という名前に覚えがあるはずだと迫るお妙にお茶を振舞いながら、静かな語り口ですっとぼける石山先生。

「たぶん、お人違いをなさっていらっしゃるのでしょう」

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それでも強気のお妙は、母親はどこにいるのかと食い下がります。もちろん素知らぬ顔の石山先生。

「拙僧には、そなたの仰ることが皆目分かりませんので・・・」

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和尚は十年前まで八丈島にいた儀三郎ではないのかとしつこいお妙。「そうなんでしょう?」と決めつけてかかる(正解なんですが・笑)お妙に、諭すように告げる石山先生。

「生憎ですが、八丈島など行ったことはありません 儀三郎と名乗ったこともない」

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そして「(寺子屋で)子供たちが待っておりますので」と体よくお妙を追い払う石山先生なのでした。

 

さらに場面変わって。

礼四郎の調べで儀三郎と五郎蔵はかつて兄弟分であったことが判明します。幼少期に儀三郎が寺に預けられていた事を知り、慈光の正体が儀三郎である事に気付いた小笠原は妙源寺へ。

現場ではシブい低音ボイスで格調高くお経を読んでる(吹替えですが)石山先生。

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背後の小笠原に気付いて振り向く石山先生。

「あ、これはお奉行様」

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いちいち手まで合わせて恭しく小笠原を迎える石山先生。

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たぶん台本には、そこまでしろとは書いてないと思う・・・笑

開口一番、十年前に慈光が寺に住み着いた際の話を持ち出し、その前はどこにいたのかと尋ねる小笠原に、修行のため諸国を転々としていたと応える慈光。すかさず小笠原は「八丈島にも行ったであろう?」と畳みかけます。もちろんとぼける石山先生。

「八丈島?いいえ、一度も行ったことはございませんが、何故・・・?」

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満を持して、十年前に儀三郎という流人が八丈島から島抜けした話を持ち出した小笠原を前に、顔色が変わる石山先生。

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さらに小笠原は、自分がその儀三郎であるなど、あまりに突飛な話だと笑い飛ばしてその場を逃れようとする慈光の衣の袖を捲ります。露わになる怪しい火傷の跡(笑)

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「入れ墨を消した跡ではないのか?」と小笠原に詰め寄られ、「滅相もない、これは若い頃の火傷の跡でございます」と言い逃れるのがやっとの石山先生。

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最後に「仏の目は御見通しだぞ」と決め台詞を残して立ち去る小笠原を・・・

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もはや見送る事も出来ない石山先生。

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この対決シーン、石山先生のお芝居もいいのですが、お相手役の西郷氏も激しくカッコイイです。名場面!

 

今度は、とある料亭での1シーン。

二年前、寺社奉行・佐伯伊賀守(遠藤征慈)の見察によってその正体を見破られて以降、佐伯のために盗み働きをしている儀三郎が、佐伯の腹心の侍(真田実)に恭しく袱紗包みを差し出します。

佐伯から「いつも造作をかけるな」と労いの言葉を頂き、すっかり恐縮する石山先生ですが・・・

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金額を確認した佐伯に「少ないのぅ」と凄まれ、しどろもどろの石山先生。

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これまた名演技(笑)

 

さらに場面は変わり・・・。

儀三郎の名でお妙を呼び出した石山先生。

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母親に会わせるなどと言葉巧みに、お妙を人気のない長屋に連れ込みます。

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「こんなところに?」と戸惑うお妙の背後に忍び寄る五郎蔵と子分(山田永二)。

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その他二人の子分(西村正樹/佐々木紳二)も登場したところで「こいつらがお前ぇをおっ母さんのところへ連れてってくれるのよ」

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悪い顔・・・(笑)

そして改めて十年前のお浪の功績を讃える石山先生。

「お前ぇのおっ母さんは本当によくやってくれたよ」

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お妙、万事休す。

 

最後はラス立ちシーン。

対立する若年寄の久世相模守(五味龍太郎)の御用商を五郎蔵らに次々と殺害させて資金源を絶ったことで、次期老中の座は自分の元に転がり込んで来るなどと佐伯がほくそ笑んでいるところに一色由良之助(里見浩太朗)が登場。

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斬り合いが始まって間もなく一色にロックオンされ、震えあがりながら五郎蔵の長ドスを取り上げようとした挙句・・・

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一太刀・・・

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また一太刀と浴びて・・・

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絶命する石山先生でした。

時代劇名優一覧・石山律雄

 

善人に見えたキャラが実は悪人でした、というのは時代劇、現代劇問わず定番のパターンですが、だいたいその役を担当する役者さんは、善人のシーンでは自然な演技を、悪人の正体がバレたら「いかにも悪人」といった演技をするものです。石山先生が他の役者さんと一線を画しているのは、善人役の役作りさえもが半端ない点ですね。

それでいて悪人をやらせると、並大抵の役者さんなど到底足元にも及ばない凶悪な人格の悪人を演じてくれます。あまりに悪っぷりが常軌を逸し過ぎていて、先生は視聴者を笑わせようとしているのかと思ってしまうほど。

 

この「大江戸犯科帳」シリーズは、里見浩太朗氏の火曜日日テレ枠最後のシリーズだったと記憶していますが、脚本もよく練られているほか、悪役の俳優さんのお芝居をしっかり見せくれる会が少なくなく、ロングヒットを飛ばした「長七郎江戸日記」シリーズにひけを取らない名シリーズだったと思います。本作はスペシャル版を除くと最終話になるのですが、石山先生の名演技によって、締め括りにふさわしい不朽の名作となったのではないでしょうか。