時代劇名優一覧(女優編)・佐藤友紀/新選組血風録 第3話:沖田総司 剣と恋(制作/テレビ朝日・東映)

時代劇名優一覧(女優編)・佐藤友紀/新選組血風録 第3話:沖田総司 剣と恋(制作/テレビ朝日・東映)

近藤勇役に渡哲也氏、土方歳三役に村上弘明氏を起用して98年にテレビ朝日系列で放映された「新選組血風録」。僅か10話のみという短編でしたが、司馬遼太郎氏の原作をベースとする脚本は、松竹系時代劇の「必殺シリーズ」で知られる吉田剛氏をメインとする作家陣によってよく練り込まれており、地味ながら印象に残る佳作だったと思います。

 

第3話は中村俊介氏演じる沖田総司の儚い恋模様を綴った物語。相手役をつとめる佐藤友紀さんは、テレビ時代劇ブームが下火になり始めた90年代半ばからよくお見かけするようになった方ですが、単に美人だとか演技力がどう、というだけでなく、時代劇特有の伝統的な奥ゆかしき「日本人女性像」を自然に体現する雰囲気を醸し出す、得難い魅力をお持ちの女優さんでした。

本作での役どころは、会津藩ゆかりの医師・半井玄節(大出俊)の一人娘・お悠。

 

まずは沖田との出会いの場面。

近藤や土方に玄節の診療所を訪ねるよう厳命された労咳持ちの沖田ですが、近藤らの言う事を聞かず、川のほとりに座り込んで懐紙で船を折り、吐いた血を拭き取ったばかりの紙屑を乗せて川に流したりして遊んでいます。

と、川下に流れて来たその船を手に持ったお花で止めようとする少女みたいな・・・(笑)

時代劇名優一覧・佐藤友紀

佐藤友紀さん。

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川上の方を見やり・・・

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沖田と目が合い、微笑みを浮かべる佐藤友紀さん。

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んー、可愛らしい・・・

何気ない一場面にも見えますが、意地の悪い見方をすると少々わざとらしいこのシーン、さも自然に演じてのける事の出来る女優さんを、ちょっと他に思いつきません。

 

で、診療所に行くのをさぼっている事が近藤にバレてしまった沖田は近藤に呼び出され、今度こそは診療所に行く約束をさせられます。

(玄節の診療所の)入り口まではやって来たものの中に入れずにいる沖田に、「何か御用で御座いますか?」と話しかける女性あり。「いえ」とだけ言って帰りかける沖田ですが・・・

時代劇名優一覧・佐藤友紀

ジャーン! 川のほとりで見かけた友紀さんと運命の再会・笑

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にしても美人だなー。

この後、お互いの自己紹介に加えて、お悠が沖田に女中のおとよ(富永佳代子)を紹介したりといった軽いやり取りが交わされます。

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それにしましても佐藤友紀さん。身振り手振りとか、ちょっとした仕草まで含む所作振る舞いが、およそ若手女優の範疇を超越したレベルで何とも美しい!

 

さて数日後、(目的はともかく)ちゃんと玄節の診療所を再訪した沖田は、またしても入り口でばったりお悠と出くわします。

「御養生の方、しっかりなさっておられますか?」と沖田を気遣う友紀さん。

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「はい」と答える沖田に満足げな友紀さん。

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むー、やっぱりキュート(笑)

「では」と立ち去りかけたお悠の頭上にノウゼンカズラの花が一輪落ちて来て(何でや?)沖田がすかさずキャッチします。

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思わず身をすくめてから振り返り・・・

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何が起きたかを理解してから暫し沖田と見つめ合い・・・

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それからゆっくり半歩下がって、もじもじしながら友紀さん。

「ありがとうございます」

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初々しさ漂う恥じらいのお芝居もよいのですが、加えてその上品な一連の所作が完璧過ぎます。佐藤友紀さん、やはりただ者ではないです。

 

さて、お悠や玄節とのやり取りから、お悠が毎月「八」の日は茶を点てる水を汲むために寂念寺へと出かけることを知った沖田。お悠の顔見たさに寂念寺近くの茶店へせっせと出かけるのですが、そんな沖田の定期的な外出を不審に思った土方に後をつけられてしまいます。

茶店で土方に捕まった沖田が、身体に良かれと寂念寺の水目当てに通っているなどと苦し紛れの弁明をしているところへお悠登場。

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お悠に見とれている沖田と、沖田をからかう土方に気付く友紀さん。

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笑顔を浮かべて・・・

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近づいて来る友紀さん。

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おとよさんも含めて四人でお茶をすることに(笑)

開口一番、「このようなところまでお出かけあそばしていいのでしょうか?」と沖田の療養具合を気遣う友紀さん。

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「たまには気晴らしを・・・」と答える沖田に念押しする友紀さん。

「いつもはお休みになっておられるのですね?」

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「はい」と答える沖田に満足げな友紀さん。

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で、「ご気分直しにはいつもこちらへ?」と世間話程度の質問をしてしまうお悠ですが・・・

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不意に真剣な表情に変わる沖田に当惑の色を浮かべる(地雷を踏んでしまった・笑)友紀さん。

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そして「八の日の、この刻限に・・・いつも来ます!」という沖田のいきなり核心を突く返答に顔色が変わる友紀さん。

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これまた、いい表情するな~・・

暫く見つめ合った後、悲し気に沖田から目をそらす友紀さん。

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空気を読んだおとよに促され、「御養生を」とだけ言い残して立ち去る友紀さんでした。

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結局、お悠の心情はよく分からないですね~。途中までは二人ともいい感じに見えたんですが・・・。

その後、お悠には他に縁談もなければ許婚がいるわけでもない事を知った近藤が玄節邸に乗り込んで行って、娘を沖田によこせ、と玄節に脅迫まがいの談判に及ぶシーンがあるのですが(近藤さん無茶苦茶・笑)、その際に玄節は嫁にやるなら医者に、と言って沖田との縁談を断ります。お悠もそんな父親の思いに薄々気付いていた、という設定なのかもしれません。

ま、深入りするのは野暮ってもんですけどね。

 

場面変わって。

長州藩の桂小五郎(勝野洋)が料亭・吉田屋にいることを突き止めた新選組から、土方、沖田をはじめとする数十名の隊士たちが桂の捕縛に向かいます。桂は愛妾・幾松(麻乃佳世)に助けられ、吉田屋の地下蔵に掘られた抜け穴を利用してまんまと逃げ遂せるのですが、桂の仲間の浪士たちは新選組と河原で斬り合いに。

浪士たちを次々と斬り捨てながら桂を探して回る隊士たち。ふと沖田が川床を見上げると・・・

時代劇名優一覧・佐藤友紀

大文字の送り火を眺めるためにお父様とやって来たのでしょうか、そこには顔を強張らせたままじっと沖田を見つめる友紀さん。

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お悠の前で浪士を斬るのを一瞬ためらったかに見えた沖田ですが、土方に怒鳴りつけられて再び一人また一人と浪士を斬殺して行きます。

脅えと哀しみの入り混じったような複雑な表情を浮かべる友紀さん。

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さらに沖田は浪士たちを次々と斬り殺していきます(沖田強すぎ・笑)。父に抱えられながらも、そんな沖田から目を離すことができない友紀さん。

時代劇名優一覧・佐藤友紀

そしてお悠の頬に一筋の涙が・・・。

時代劇名優一覧・佐藤友紀

斬り合いを終えて沖田が再び川床を見上げた頃には、玄節共々、既にお悠の姿は消えているのでした。

時代劇名優一覧・佐藤友紀

 

本作の放映時に活躍されていたテレビ時代劇常連のゲスト女優と言えば、山本みどりさん三浦リカさん芦川よしみさんといった安定の面々が思い浮かびますが、お三方はこの頃、既に四十歳前後。一方で佐藤友紀さんは当時まだ弱冠二十四歳なのですが、所作振る舞いを含む時代劇女優としての完成度がもう半端ない・笑

以降、テレビ時代劇が凋落の一途を辿るなか、ここまで洗練された「時代劇女優」さんは、ついぞ現れなかったんじゃないですかね。少なくとも私にはどなたの名前も思いつきません。つまり佐藤友紀さんこそ、時代劇界「最後の名女優」ということになるのではないでしょうか。