時代劇名優一覧(女優編)・八木小織/新選組血風録 第7話:潜入 長州の間者(制作/テレビ朝日・東映)

時代劇名優一覧(女優編)・八木小織/新選組血風録 第7話:潜入 長州の間者(制作/テレビ朝日・東映)

近藤勇役に渡哲也氏、土方歳三役に村上弘明氏を起用して98年にテレビ朝日系列で放映された「新選組血風録」。僅か10話のみという短編に終わるなか、この第7話「潜入 長州の間者」は、謎解きを交えながらのスリリングな展開に若い男女のもどかしい恋模様を絡めたストーリーが秀逸な、シリーズナンバーワンの傑作だったと思います。

とある事情で長州方の間者として新選組に潜り込むことになった若き浪人・深町新作(石田登星)を軸にドラマが展開するのですが、その新作とひょんなことから男女の仲になってしまう小間物屋の女主・おそのを演じるのが八木小織さん。アイドル出身でありながら、関西育ちならではの美しい京都訛りを駆使しつつ、思い通りにならない新作との暮らしにイラ立ちをぶつけながらも、最後は店を捨てて新作と添い遂げようとする、いじらしい京娘を見事に演じきっています。

 

まずは、おそのと新作の出逢いのシーンから。

琵琶湖に浮かぶ弁財天で有名な竹生島へと向かう船に乗り遅れまいと砂浜を走っていてズッコケる小織ちゃん・笑

時代劇名優一覧・八木小織

すぐ近くを走っていた新作に助け起こされたあげく・・・

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乗船する際にもエスコートしてもらい・・・

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さらに満員の船から町人たちを引きずりおろしてまで乗船しようとする横暴な武士たちを一人で撃退した新作にお礼を言う小織ちゃん。

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島に上陸後、新作と二人、参道を連れ立って歩く小織ちゃん。

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互いに自己紹介をするなかで新作が剣術道場の師範代であることを知り、ネイティブにしか聞こえない自然な京都弁でお愛想を言う小織ちゃん。

「うわぁ~、ほんでお強いんやわぁ~」

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元アイドルならではの、さり気ないブリっ娘ぶりがお見事!

同じ船に乗っていた新選組の十番隊隊長・原田左之助(小西博之)や二番隊隊長・永倉新八(堤大二郎)らに夫婦と間違えられるおそのと新作。思わず「すいません」と謝る新作に・・・

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「いえ」と、まんざらでもなさそうな小織ちゃん。

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このちょっとした上目遣いの表情がまた何ともキュート。

そして二人で立ち寄った旅籠でも夫婦に間違えられてしまう新作と小織ちゃん・笑

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新作が「私はどこかで寝ます」と部屋を出て行こうとするのを、障子を閉めて遮り・・・

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「かましまへんえ」と大胆な小織ちゃん・笑

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「あんさんとお逢いしたんも、こうなったんも、その・・・」と枕元にしゃがみ込む小織ちゃん。

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「竹生島弁財天様の御引き合わせどすやろ?」

「うち、かましまへんえ」

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小織ちゃん、男性視聴者のハート鷲掴み・笑

 

で、新作は、おそのが兄・佐助(伊藤洋三郎)と営む小間物屋・丁字屋に転がり込むのですが、二人は諍いが絶えません。

祝言を挙げて丁字屋の主になると約束してくれ、と新作に迫る小織ちゃん。

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侍の身分に未練のある新作は応じてくれません。

が、「うちにご浪人衆の嫁になれお言いやすんか?」と手厳しい小織ちゃん・笑

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このマジでイヤ感半端ない吊り眉毛・・・笑

割と簡単に身体を許してくれるのはいいけれども健気なのは始めだけ、という女の子あるあるを上手に演じてのける小織ちゃん。わがまま娘への豹変っぷりに全く違和感を感じさせないのも、元アイドルならではの小悪魔っぽさゆえに為せる業か。

 

さて、実はおそのの兄・佐助は長州藩の間者でした。佐助の仲介によって桂小五郎(勝野洋)に引き合わされた新作は、間者として新選組に送り込まれることになります。

新作の新選組入りに大そう不満を持ちながらも、出会い茶屋の一室らしきお部屋で色っぽく髪を梳く小織ちゃん。

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おそののために出世の足掛かりとして新選組に入ったと言う新作に「ご浪人の集まりやおへんか。人を斬るばっかりの」と、相変わらず口の悪い小織ちゃん。

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「こんなことしてて、ややが産まれたらどないしはるんや。壬生浪の子や言われたら可哀想やおへんか」と、新選組を徹底的にディスる小織ちゃん・笑

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しかし新作はお構いなしに、おそのをお床へ押し倒します。

特に抵抗するでもなく新作に身を委ねながらも「顔がお変わりやしたな」と呟く小織ちゃん。

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「人をお斬りやしたんどっしゃろ」と鋭い小織ちゃん。

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「竹生島弁財天様の縁結びや言うのに・・・イヤやぁ!こんなんイヤやぁ!」と泣き出す可哀想な小織ちゃん。

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「新選組辞めておくれやす!うちとお店やっておくれやす!」と新作に泣きつく小織ちゃんなのでした。

 

さて、新選組に潜り込んでいた長州の間者は新作だけではありませんでした。新作とは別の間者の働きによって、新選組の動きは長州サイドに筒抜け。危機感を抱いた近藤と土方は間者の疑いの濃い三名の隊士を殺害。さらに残った間者をあぶり出すため、各隊士に対する厳しい追及が始まります。

もはや隊に残ることは出来ないと判断した新作は、夜も明けきらぬうちに隊を抜け出し、おそのの元へ。

店の外に呼び出したおそのに、新作は二人で京を出ようと持ちかけます。「オレは侍を捨てる。お前も京を捨ててくれ」という新作に食い下がる小織ちゃん。

「あんさんがお侍をやめるんどしたら、うちに入って、うちのお店を・・・」

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ですが新選組には、隊を脱走した者を処刑するという鉄の掟があり、新作はもう京にいることは出来ません。

新作の、おそのと添い遂げるために新選組に入るという選択は誤りだったという悔悟の言葉を黙って聞く小織ちゃん。

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そして「必ず幸せにするから、オレと一緒に来てくれ」と頼み込む新作に・・・

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「はい」と素直に応じる小織ちゃん。

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これまでの新作の全ての行動は、自分のためを思ってのことであった事に気付いたおその。ついに京も店も捨てる覚悟を決めます。ようやく二人の心が通じ合ったのでした。

 

そしていよいよクライマックス。

身支度を整えてから後を追うと言うおそのを三条大橋の袂で待つ新作のもとに、直属の上役であり「人斬り主膳」の異名を持つ剣の遣い手、松永主膳(磯部勉)が現れます。実はこの主膳こそ、長州側のもう一人の間者だったのでした。

隊からは沖田総司(中村俊介)、原田、永倉の三名が主膳の追手として三条大橋に差し向けられていました。既に自分が疑われていることを察知していた主膳は、三人の追手を前に新作を斬り捨てて自分は生き残ろうとするのですが、新作に返り討ちにされます。

一件落着かと思われましたが、新作が旅姿であることに気付いた沖田は、新作もまた脱走を企てていたことを見抜きます。三人に斬りかかるも原田にひと太刀で斬り捨てられる新作。

「深町君!」と永倉が新作に駆け寄ったところで「あんた!」と叫びながら小織ちゃん登場。

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永倉を押しのけて・・・

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新作の遺体にすがりつく小織ちゃん。

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「あんた何で?」

「一緒に京を出よう言うてたのに・・・」

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「うち、こんなんイヤやぁ!」と泣き叫ぶ小織ちゃん。

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「こんなんイヤやぁ」が口癖という設定なんかいな?

それはそうと・・「うち、この人の妻どす・・・」と三人に食い下がる小織ちゃん。

「この人が、どんな悪いことをしたんどすか?」

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「長州の間者・・・回し者・・・」と消え入るような声で答える沖田に小織ちゃん。

「殺すほどの事どすか・・・?」

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「隊を脱走・・・」と続ける沖田ですが、小織ちゃんの怒り爆発。

「殺すほどの事どすか!?」

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居たたまれなくなり黙ってその場を立ち去る三人を「人殺し!」と罵り、大泣きに泣き崩れる小織ちゃんなのでした。

時代劇名優一覧・八木小織

 

まだまだアイドルとして認知されていたと思われる90年代半ばに、いきなりヘ○ヌード写真集を出して世間の度肝を抜いた八木小織さん。その後は女優として活躍の場を広げ始め、テレビ時代劇でもちょくちょくお見かけするようになりました。

そのキャラクターの特性上、やはり時代劇では町娘役がお似合いでしたが、ときには悪女役にキャスティングされることもあるなど、演技力に加えて演じる幅の広さも折り紙付き。いい意味で時代劇の型に嵌まらない自然なお芝居が爽やかでした。もうこの頃には時代劇への新しい女優さんの供給も細りがちでしたが、そんななか、毎回「何かを」やってくれそうな期待感を抱かせる、数少ない若手女優さんでしたね。

 

本作の脚本はシリーズのメインを務めた吉田剛氏。もちろん司馬遼太郎氏の原作をモチーフとしたお話なのですが、やはり(本来、主役であるはずの)新作の人生を狂わせてしまったおそのについての精緻な描写が、ストーリーに限りなく奥行きを持たせているように思います。個人的には、実は主膳に差し向けられていた沖田ら三名の追手が、視聴者には新作に対して差し向けられたかのように見せる話の構成もツボでした。この話、やはりシリーズ最高傑作だと思います。