時代劇名優一覧(女優編)・山本みどり/続・三匹が斬る! 第4話:お七里のイジメが元で不倫妻(制作/テレビ朝日・東映)

時代劇名優一覧(女優編)・山本みどり/続・三匹が斬る! 第4話:お七里のイジメが元で不倫妻(制作/テレビ朝日・東映)

80年代から90年代にかけて、テレビ時代劇に登場するゲスト女優は数あれど、時代劇に似つかわしい美しさと清楚さを兼ね備えた女優としては凡そ並ぶ者がないと思われた山本みどりさん。本作では、その普段から醸し出される清楚感をむしろ逆手にとるかのように、事情はどうあれ不義を犯した自身の過ちに苦悩する武家の妻女を好演されています。

 

菰野(こもの)藩主(石山律雄)は遠駆けの最中に山道で紀州藩の七里飛脚・蟹蔵(野口貴史)らと出くわします。御状箱の「葵の御紋」を盾に、藩主に土下座までさせる蟹蔵らに、藩主の伴をしていた馬廻り役の高山小一郎(山本陽一)は立腹、藩主や同役(栗原敏)の静止を振り切って抜刀したうえ、蟹蔵らに斬りかかります。

通りがかった殿様=矢坂平四郎(高橋英樹)が仲裁に入り、蟹蔵らは殿様に少々懲らしめられただけで逃げ遂せるのですが、もとより「葵の御紋」に刃を向けてただで済むはずもなく、事件の一報は早速、高山家にもたらされます。

屋敷に戻った小一郎を緊迫した面持ちで出迎える高山家当主で小一郎の兄・伝八郎(高岡健二)と、それに付き添う伝八郎の妻・ぬい(を演じるみどりさん)。

時代劇名優一覧・山本みどり

「其の方、何という事をしでかしてくれた」と小一郎を問い詰める伝八郎に続いてみどりさん。

「たった今、お馬廻りの方から報せがあり、お七里役人と諍いを起こしたとか・・・」

時代劇名優一覧・山本みどり

美しい・・・。

屋敷にやって来た家老(大木晤郎)に「殿が火急のお呼びじゃ!」と陣屋へ連行される小一郎を不安げに見送るぬい。

時代劇名優一覧・山本みどり

んー、本当に美しいですねぇ、ぐへへへ・・・

結局、藩主の裁定で、小一郎は高山家の座敷牢で謹慎ということに。

時代劇名優一覧・山本みどり

お前の勇み足が藩の立場を悪くした、と小言を残して伝八郎が去ったあとで、小一郎に優しく語りかけるぬい。

「不足なものがあったら何なりと申しなさい。出来る限りのことはして差し上げますよ」

時代劇名優一覧・山本みどり

「いえ、義姉上さえ元気なお顔を見せて下されば・・・」と歯の浮くような事を言う小一郎に笑顔を返すぬい。

時代劇名優一覧・山本みどり

ま、その後の展開の布石ですね。

 

さて、家老は城下にある紀州藩の七里役所に切り餅持参で出向いて詫びを入れますが、応対した紀州藩の目付役(御木本伸介)は、小一郎に対する菰野藩の処置が謹慎であることを聞くと「手ぬるいなぁ・・」と呟きます。そのせいでしょう、ほどなくして小一郎には切腹の沙汰が下ることに。

高山家に出向いた殿様(=平四郎)は「私に何かできることはないか?」と小一郎に尋ねますが、自分の死によって紀州家が考えを改めるなら命は惜しくないと言い切る小一郎。

そんな小一郎を遠目から見守るぬい。

時代劇名優一覧・山本みどり

しかし、死の覚悟を決めた小一郎と、そんな小一郎を「潔いぞ」と称える伝八郎とのやり取りを聞くうちに、涙ぐまずにはいられなくなるぬい。

時代劇名優一覧・山本みどり

これも、その後の布石。

そして、伝八郎が中間の笠次郎(石田信之)と共に出かけた隙に、小一郎のいる座敷牢に侵入・・・

時代劇名優一覧・山本みどり

いきなり帯を解き始めるぬい。

時代劇名優一覧・山本みどり

「いかがなされたのです!?」と当惑する小一郎に、これまでとは打って変わって上から目線のみどりさん。

「其方、未だ女子(おなご)の肌を知るまい」

時代劇名優一覧・山本みどり

「私が教えて差し上げましょう」

「明日は死ぬる其方の身を不憫と思い・・・せめてもの手向けに・・・」

時代劇名優一覧・山本みどり

小一郎は「義姉上、こんなことは・・・なりませぬ!」と諫めるのですが・・・

時代劇名優一覧・山本みどり

名女優ですね~ いい表情されますね~ ま、残念ながらここがクライマックスですけど・笑

アングル替わって・・・

時代劇名優一覧・山本みどり

ここで終了~

時代劇名優一覧・山本みどり

まぁ、何つっても「あの」山本みどりさんですからね~、ここまでやって頂いただけでもありがたや、ありがたやってことで・・・

 

さて、そもそも蟹蔵たちの、小藩とは言え大名家の当主に対する横暴な振る舞いが発端となったこの事件、世間の非難に晒されることを危惧した紀州藩の目付役は、菰野藩の陣屋に乗り込んで、小一郎の切腹を取りやめるよう圧力をかけます。気の弱い(菰野藩の)お殿様はすぐさま高山家に家老を走らせ、小一郎の切腹は取りやめに。

静かに仏前で手を合わせていたぬいですが・・・

時代劇名優一覧・山本みどり

報せを聞いて「切腹は・・・取りやめ・・・!?」と絶句。

時代劇名優一覧・山本みどり

さらに物語は急展開。

 

小一郎に呼び止められたぬいが例の一件を口止めしているところに、中間の笠次郎が屋敷から金を盗み出していることに気付いた伝八郎の怒鳴り声が。

伝八郎は笠次郎をタコ殴りにしますが、反撃に出た笠次郎は伝八郎の脇差しを抜いて伝八郎の腹にズブリ。そこにかけつけるぬいと小一郎。

時代劇名優一覧・山本みどり

笠次郎は追おうとする小一郎に脇差しを投げつけて屋敷外へ逃亡。

「中間風情に、無念だ・・・」と言い残して伝八郎は絶命。

時代劇名優一覧・山本みどり

笠次郎は博打仲間で兄貴と慕う蟹蔵を頼って紀州藩の七里屋敷に逃げ込み、目付の一存で七里役人になり遂せます。紀州と事を構えたくない藩主はぬいの仇討ち願いを突っぱねたばかりか、小一郎の家督相続も却下。

おまけに通夜の席に酔っぱらって現れた小一郎に、これは天罰だ、とまで言われたぬいは伝八郎の墓前で・・・

時代劇名優一覧・山本みどり

自害しようとして、駆け付けた殿様に止められます。

時代劇名優一覧・山本みどり

(柄はともかく)色合いが地味な着物に変わりましたね。これはこれで、ほんのりアダルトな色気が・・・

まぁ、そらそうと「私は罪深い女でございます・・・」とその場で泣き崩れるぬい。

時代劇名優一覧・山本みどり

「どういうことだ?」と殿様に問われ、小一郎との間の出来事を洗いざらい白状するぬい。

時代劇名優一覧・山本みどり

「せめて、夫への詫びのつもりで自らこの命を絶とうと・・・」

時代劇名優一覧・山本みどり

ともすれば、このシーンでも、みどりさんはあまりにもお美し過ぎて、そのセリフが頭に入って来ないおそれすらあるところですが・・・。ちゃんと集中して鑑賞いたしますと、その表情もさることながら、絞り出すように吟じられるセリフがぬいの苦悩をいかにもよく表現しています。名演技です。

で、そこにお千(藤代美奈子)が「殿様、大変!」と慌ててやって来て、小一郎が七里役所に斬り込んだことを告げます。はっと伏していた顔を上げ、呟くぬい。

「小一郎殿も・・・死に場所を・・・?」

時代劇名優一覧・山本みどり

これ、脚本もいいですねー、名セリフだと思います。

で、斬り込んで来た小一郎を紀州藩の目付役はなぶり殺しにしようとするのですが、七里役所に用心棒として潜り込んでいた千石(役所広司)が機転を利かせ、すんでのところで小一郎を助けて駆け付けた殿様たちに引き渡します。

 

そして小一郎臨終の場面。

「輿入れして来たときから・・・義姉上は・・・綺麗だった・・・」と最後まで匂わせる小一郎の手を握り今際の際の言葉を聞いているぬい。

時代劇名優一覧・山本みどり

「小一郎殿、しっかり!」

時代劇名優一覧・山本みどり

脚本の意図するところは分かりませんが、このお芝居を見る限り、恐らくみどりさん的には、やはり小一郎とは心が通じ合っていたという解釈で演じてますよね。いけないぬいさん・笑

 

で、その後もみどりりさんの活躍は続き、亭主の仇討ちのための白装束姿と・・・

時代劇名優一覧・山本みどり

(後家さんになってしまったので)茶筅髷(ちゃせんまげ)姿も披露して下さってから・・・

時代劇名優一覧・山本みどり

「もう死のうなどとは思っておりません」と殿様に言い残し、八十八カ所参りのために四国へと旅立って行ったのでした。

 

このお話、やはり不倫妻となるぬい役を、およそ不倫などというキーワードとは親和性を感じさせぬ、清楚、貞淑、品行方正、常に優等生でお行儀がよく、およそ1ミリのはしたなさすら持ち合わせていなさそうな女優さん(つまりみどりさん)が演じればこその佳作だと思うわけです。

例えば、このお話の一話前(第3話「上様の茶は甘いかしょっぱいか」)にゲスト出演されていた甲斐智枝美さんみたいな、甘え上手そうなキャラの女優さん(アイドル界から流れて来た方に多いタイプ)とか、そのさらに一話前(第2話「雇われの三日亭主で剣難女難!」)にゲスト出演されていた鮎川いずみさんみたいな、ともすれば亭主を尻に敷きそうなキャラの女優さん(そもそも時代劇慣れしてる方に多いタイプ)では、「(義弟の)死出の手向けにと身を委ねた後に苦悩する不倫妻」をご演じになっても、いまいち説得力に欠けるわけです。

あと、みどりさんのもう一つの特徴として、大体いつもナチュラルメイクなんですね。時代劇でよくお見かけする女優さんというのは概ね厚化粧なんですが(失礼)、メイクから受ける印象ひとつとっても、地味、真面目、慎み深さ、といった要素が滲み出ていて、であるがゆえに、夫以外の男に肌を許すという行為に重みが増すわけです。これ、キャスティング担当された方は抜群のセンスをお持ちだったと思います。

 

このお話の脚本担当は和久田正明氏。70年代から「桃太郎侍」シリーズを手がけておられたほか、その後も暴れん坊将軍、長七郎江戸日記と、息の長いシリーズものでよく名前をお見かけした、東映系テレビ時代劇の常連作家さんですね。このお話、ぬいを始めとする高山家の人々だけでなく、御木本伸介氏演じる紀州藩の目付役や、大木晤郎氏演じる菰野藩家老など、一筋縄では行かない味のあるキャラクターが脇を固めており、始めから終わりまで目が離せません。