時代劇名優一覧（女優編）・湖条千秋／また又・三匹が斬る！ 第６話：伝説の不老長寿の尼が行く（制作／テレビ朝日・東映）
80年代以降、その妖艶なお顔立ちを武器に、テレビ時代劇ではもっぱら「悪役女優」として活躍されていた湖条千秋さん。いささかワンパターンなキャスティングが続く中にあって、どこかマヌケな行き遅れの御姫様という変わった役を演じられ、そのキュートな魅力を如何なく発揮されていたのが本作です。
まずはその登場シーン。陣内（春風亭小朝）が「保留悶（ほるもん）」などとふざけた名前の怪しい粉薬をいつもながらの見事な口上で街頭販売しているところへ通りがかる駕籠行列あり。
「若者には馬力を、お年寄りには長生きを、花も恥じらう乙女には若さと美しさを！」に反応して駕籠を止めさせる、若狭小浜藩主・酒井若狭守の息女、琴姫様（を演じる千秋さん）。
「ほるもん・・・若さと美しさ・・・」
このアホっぽいセリフを大真面目な顔つきで言えてしまう千秋さんが好き・笑
早速、自身が住まいする、その名も「琴姫御殿」に陣内を召し出す琴姫様。
「薬屋、其の方の売っている保留悶とか申す薬、まことに若さと美しさを保つのかえ？」
陣内「阿蘭陀渡りの妙薬、ものすごく効きます」
琴姫「妾（わらわ）のような身分の高い者にも効くのか？」
陣内「もちろん。京の関白様や大納言様の御姫様もご愛用」
その質問いる？・笑
琴姫「ほおぅ・・・そのような秘薬を、どうして町筋の卑しい者たちに売るのじゃ？」
鋭い突っ込みに一瞬たじろぐ陣内ですが、「怖れながらこの若狭、京より離れ都ぶりにはほど遠く・・・」と琴姫の田舎者コンプレックスに付け込んで逆襲。
琴姫「のぅ、薬屋？京の姫君たちはどうしている？」
陣内「厚化粧はやめ、保留悶を特別に調合いたしました薬を飲み、身体から滲み出る若さと美しさを専らといたしております」
専らといたして・・・笑 これ、脚本が秀逸ですね。それとも小朝氏のアドリブなのか・・・。
琴姫「其の方、妾が厚化粧だと申しているのか！？」
怒り顔ひとつとっても完璧にキャラにハマってる千秋さん・笑
そして御殿に滞在のうえ自分用の秘薬を調合するよう命じて去って行く琴姫様。
・・・でしたが、女中の梢（牧野友弥）に、不老長寿の伝説に名高い「八百比丘尼」が小浜城下で若さと美貌の源とされる人魚の干し肉を病人たちに与えていると知らされるや、比丘尼を御殿に招くよう梢に命じたうえで、すぐさま陣内を御殿から追放する血も涙もない琴姫様なのでした・笑
さて、小浜藩には人魚探索方というお役目が設置され、密かに琴姫に思いを寄せる小浜藩士で琴姫付きの和泉左馬之助（大門正明）は十年来、来る日も来る日もいるはずのない人魚を発見するために海辺の見張り台から海を見張っていたのですが、八百比丘尼の件を知った琴姫は無情にも、この人魚探索方を廃止してしまいます。
ひょんなことから左馬之助と知り合った千石（役所広司）は激怒、左馬之助を引き連れて琴姫御殿に乗り込んで来るのですが・・・
のっけから蔑んだような眼差しで二人を見やる琴姫・笑
使命を果たせず恥じ入るばかり、と詫びる左馬之助に嫌味を言い放つ琴姫様。
「左馬之助？十年もの間、よぉも無駄に過ごしたなぁ」
さっそく千石が、その十年はいったい誰のためだ、と姫に咬みつくのですが、それには応えず左馬之助に問う琴姫。
「左馬之助？何じゃ、この汚らしいのは？」
キレかかる千石（そらキレるわ・笑）を慌てて制した左馬之助が「是なるは、人魚探索にお力をお貸し下された久慈慎之介殿にござりまする」と取り成すのですが、琴姫様は顔をしかめて一言。
「臭いのぅ～」
とどめに「あ～、クサ」と言い残して去っていく琴姫様・笑
名悪役女優・湖条千秋様による、チャーリー浜顔負けのお見事な「あ～、クサ」が炸裂。ここ、何気にシリーズ通じて五指に入る名シーンだと思う・笑
さて、琴姫に招かれ御殿に入り込んだ八百比丘尼と下男・善八（小林昭二）ですが、比丘尼の正体は善八に金で買われた丹波の百姓の娘でお袖（藤奈津子）、そして善八こそ出雲や越前を荒らし回った悪虐非道の盗賊一味を束ねる「疾風（はやて）の長兵衛」で、一味の次なる押し込みの標的として、小浜城下で最も金が唸っているうえ邸内の警備も手薄な琴姫御殿に狙いを定め、引き込み役として御殿に侵入することにまんまと成功していたのでした。
で、お休み中のところを一味に襲撃される可哀想な琴姫様。
「妾は、酒井若狭守が息女、琴姫なるぞ！」
しかし覆面をした頭目に、聞き覚えのある声で「大年増の姫様か」と嘲笑され、その正体に気付く琴姫様。
「善八！血迷ったか！？」
「オレは疾風の長兵衛！」と改めて名乗りを上げる長兵衛に、既に縛り上げられた女中たちを「見ろ」と促され、「さっさと金蔵の鍵を出さねぇと、皆殺しになるぜ」と凄まれた挙句・・・
背後にいた長兵衛の子分（小峰隆司）に髪まで切り落とされ・・・
絶体絶命の琴姫様。
何か、可愛い・・・笑
「鍵は渡す」「命だけは助けて！」と泣きながら命乞いをしているところに・・・
「それくらいでいいだろう」と、長兵衛たちの企みを見抜いていながら、高慢ちきな琴姫を改心させるために、あえて御殿を襲撃させた殿様（高橋英樹）が登場。一味との乱闘が開始されるのですが、どさくさに紛れて小峰氏が琴姫を殺そうとしたところに・・・
左馬之助が登場・・・
千石の助けもあって、無事に盗賊たちを撃退・・・
「左馬之助！」と涙ながらに抱きつく、しおらしい琴姫様。
「忠義一途、純情一途の家来のありがたさ、とくと思い知るのですな」と千石に怒られて・・・
「はい・・・」と素直な琴姫様なのでした・笑
湖条千秋さん、悪役を演じている分にはオーソドックスと言うか、無難なお芝居に終始している感すらあるのですが、この琴姫役に関してはキラリと光るシーンが目白押しですね。世間一般の価値観からずれた人物を大真面目に演じることから醸し出される滑稽さとでも言いますか、従来、配役の多かった陰湿な悪女役よりは、むしろ喜劇の才能に長けた女優さんなのではないかと思います。
極めつけは、やはり「あ～、クサ」でしょうねぇ。変に力むことなく、それでいて「クサいものを嗅いでしまった感」がものの見事に表現されている、濃過ぎず薄過ぎぬ絶妙な味加減の「あ～、クサ」でした。演劇界に名優多しと言えども、一見、このような簡単そうに見えるお芝居とて、全くわざとらしさを感じさせずナチュラルにやってのける事のできる役者さんというのは、意外といらっしゃらないものではないでしょうか。
ついでに、年増の嫌味なお姫様でありながら、どこか少女（幼女？）っぽさの抜けきらないキャラ設定が、千秋さんのキュートな魅力を引き出している点も見逃せません。シナリオ的に憎まれ役とは言いながら、その純粋さ、無心さがやはりどこか憎めない、特にラストで千石に怒られた後の「はい・・・」に、千秋さんの、これまで隠されていたチャーミングな一面を感じ取った男性視聴者も少なくなかったのではないでしょうか・笑
本作の脚本は藤井邦夫氏。三匹が斬る！シリーズではメインライターと言ってよいくらい多くの作品を手がけられた作家さんです。実際に若狭小浜に伝わる長寿伝説をモチーフに、伝説にあやかりたい人心に付け込む盗人一味という、ややありがちのストーリー設定ながら、殿様、千石、陣内（たこ）の各キャラクターを巧みに操り、息をつく間もなく物語を展開させておられます。