時代劇名優一覧(男優編)・福本清三/八百八町夢日記(第1部) 第18話:最後の涙(制作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)

寺社奉行・土屋大炊頭(幸田宗丸)配下の寺社役・鎌田重蔵役として登場する福本清三先生。立ち回りの見せ場とは別に名演技のシーンも。
江戸庶民の浄財、五千両を投じて造られ、回向院に納められた金無垢の観音像。実は胴で造った上から金箔を貼り付けただけの紛い物で、土屋が差額をネコババしていた事実を掴んだ北町奉行の榊原(里見浩太朗)は、よろず屋のフリをして土屋の屋敷を訪れ、土屋との面会を要求します。
さりげなく同席しようとする福本先生。
「恐れながらお人払いを・・・」と土屋に申し出るよろず屋にイラッとする福本先生(笑)
土屋に促されて退室するものの、殺気満々で廊下に控える福本先生。
そこへ格下の家臣がやって来て何事か耳打ち。困惑の表情を浮かべる福本先生。
屋敷の裏口へと出向く福本先生。待っていたのは、定八(石倉英彦)、茂助(重久剛一)と共に問題の観音像を回向院から盗み出した後で定八に殺されたはずの巳之吉(三ツ木清隆)。実は定八を殺したうえで顔を潰して自分が殺されたフリをしていた巳之吉、自分は定八だと名乗りますが、かつて町方と共に定八と茂助の捕縛に向かった際に定八の顔を見知っている福本先生。
「たわけ、貴様は定八ではない」
何でもない、このごくごく短いセリフの節回しがもうサイコー。まさしく「福ちゃん節」が炸裂。
「茂助を斬った寺社役」が福本先生だと悟った巳之吉、あっさり正体を明かしたうえで、疑惑の観音像を千両で買えと持ち掛けます。一応とぼける福本先生。
「殿がなぜ、回向院の観音像を千両で買わねばならん?」
「言わせんのかい?」と上手に出る巳之吉に「言ってみろ」と畳みかける強気の福本先生。
この辺のやり取りには脚本のセンスを感じますね。
で、盗み出した観音像を質屋に持ち込んでカラクリに気づいた巳之吉が、経緯を説明したうえで「ネコババ」というキーワードを口にした瞬間、素早く鯉口を切る福本先生。
自分が戻らなければ観音像が日本橋に晒される手はずになっている、という巳之吉のハッタリを聞くなり、すぐさま刀を鞘に戻す福本先生。
刀のハンドリングがお見事です。さしもの東映剣会と言えども、このレベルの遣い手は数えるほどしかおられないのではないでしょうか。
さて、取引きの時間と場所を一方的に告げて立ち去る巳之吉。その後ろ姿を見送りながらボソッと呟く福本先生。
「おんのれぇ・・・」
ここも福ちゃん節。サイコー!
薄気味悪い剣の遣い手の武士を演じさせると右に出る者はいないと思われる福本先生。ただ単に薄気味悪い武士というだけなら他に思い当たる俳優さんがいないわけでもないですが、刀を抜かせるとガッカリ・・というのが実際のところ。そんな福本先生演じる鎌田重蔵、最後の最後に「お見事!」というほかない壮絶な死に様を披露して下さいます。
このお話、脚本を担当するのは名倉勲氏。松平右近シリーズ以降、里見氏主演時代劇の常連ライターさんですが、本作もミステリーの要素を含みつつ軽快なテンポでドラマが展開していく安定の面白さですね。本シーンにおける福本氏と三ツ木氏の掛け合いも、時代劇の「粋」を感じさせる名シーンですが、本シーンを挟んで繰り広げられる里見氏(よろず屋)と幸田氏(寺社奉行)のウィットに富んだセリフの応酬を聞いていても、言葉のチョイスが秀逸な作家さんだと思います。
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