時代劇名優一覧(男優編)・菅貫太郎/八百八町夢日記(第2部) 第8話:うわさの伊達男(製作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)

悪徳旗本と結託し、岡っ引崩れや宮芝居の役者を使って小金持ちを相手に強請(ゆすり)をはたらく御数寄屋坊主を演ずるスガカン先生。あまりお見かけする事のない、お坊様のヘアスタイルが大変お似合いです。
不忍池の出合茶屋・叶屋で、越後村松三万石、堀家の奥方付老女・浦里(鈴川法子)が絞殺死体となって発見されます。いち早く駆け付けた北町の同心・八田真四郎(船越英一郎)が現場を検分しているところに現れた堀家の江戸留守居役・権藤小左衛門(溝田繁)に依頼され、八田は事件を内々に処理することに。
翌日、八田のもとに「あなたはひどい御方だ!」と血相を変えてやって来る小左衛門。事態が飲み込めない八田ですが、一刻ほど前に堀家上屋敷へやって来た石川宗順という御数寄屋坊主(=スガカン先生)に、前日の一件が既に城中で噂になっている、と知らされた、とクレームを入れる小左衛門。
以下、回想シーン。
宗順「御当家も、とんだ事に相成りましたな・・・」
権藤「と、申されますと・・・?」
宗順「いや、出合茶屋での、浦里殺害の件でござるよ」
「えぇっ!?」と驚く小左衛門に、大目付付きの肝煎坊主に耳打ちされ「さすがの儂(わし)も驚き申した」と宣(のたま)う宗順なのですが、合間にひとつ「いやぁ・・・」とわざとらしく大きなため息をつく小芝居を忘れないスガカン先生・笑
出た! いいですねぇ、スガカンワールド!
そしてこの一件が大目付の耳に入れば「堀家三万石、到底・・・無事には済まぬ」と冷たい目線を浴びせて小左衛門をビビらせるスガカン先生。
さらに、当家の殿様には何かと世話になっており、出来ることなら「何とか」お助けしたいと思い「わざわざ」出向いて来た、と恩着せがましいスガカン先生・笑
セリフ全般に渡ってわざと抑揚を殺しつつも「何とか」や「わざわざ」といった重要な副詞はあえて強調して聞かせるあたりがスガカン流ですね。
で、「お助け下さい!」と懇願する小左衛門の眼前に扇子で四角形(千両箱?)を描いて見せ・・・
最後に扇子を縦にして「いっせんりょう」と言い放つ茶坊主・笑
「一千両!?」と呆気にとられる小左衛門を前に、それまでの落ち着き払ったトーンを一変させて畳みかけるスガカン先生。
「三万石が潰れることを思えば安いものだ・・・のぅ?」
ここも緊張と緩和を自在に使いこなすスガカン先生ならではのお芝居ですね。その場面の最初から最後まで、お芝居の展開を事前に計算し尽くしておられます。ここまで来るともうアートですね・・・
さて、八田から事のあらましを聞いた榊原(里見浩太朗)は、宗順を監視するよう三郎三(風間杜夫)に命じます。そして場面は宗順の屋敷へ。
旗本寄合席・矢代民部(内田勝正)と碁を楽しんでいるスガカン先生。
碁に集中しているように見えてちゃんと表の気配を察し、「源次か?あがれぃ」と、なかなかデキる宗順。
部屋に入って来た岡っ引崩れ、薬研堀の源次(工藤堅太郎)に二件目の強請の進行状況を尋ねる宗順。
「鶴屋の女房はどうなった?」
一味は浦里を殺害した宮芝居の役者・柏木文之助(有光豊)を菓子問屋・鶴屋の女房、おひで(桂川京子)とも姦通させ、それをネタにまんまと二百両を脅し取ったのでした。
民部「文之助もなかなか役に立つではないか」
宗順「あの顔で平気で浦里を絞め殺すんだからおっかねぇや」
「実はその文之助なんですがね・・・」と源次が切り出したところで民部が天井裏の三郎三に気付いて脇差しを天井に投げて突き刺します。慌てて逃亡した三郎三に見覚えがあるが誰だか思い出せないと言う源次ですが「ただの盗賊ならば、それほど気にするにも及ぶまい」と楽観的な民部。
で、再び話題は文之助の件に戻って、町方が文之助を探して嗅ぎ回っていると報告する源次にボソリとクールに言い放つスガカン先生。
「そいつは良くねぇな」
お役立ちの文之助、あっさり口封じ確定。
さて、親友であるおひでに手切れ金の二十両を文之助へ届けるよう頼まれた神田須田町の筆屋、松花堂の娘・お袖(石倭裕子)は、運悪く源次が文之助を殺害する現場に居合わせてしまい、そのまま源次に宗順の屋敷へと拉致されます。
お袖を土蔵に監禁後、売り飛ばすなりバラすなりすればいい、と言う源次に対して、お袖を餌に松花堂から四、五百両は脅し取れる、と言い出す民部に同意する宗順。
「ふぇふぇふぇふぇ・・・」
「ふぇふぇふぇ」て・・・笑 ここ、台本には何て書いてあったんだろ・・・?
そこへ小物が現れて「松花堂の番頭が参りまして、御前に、お目通りいたしたいと申しておりますが」とご報告。
で、「松花堂の番頭」のフリをしてやって来た夢さんに「何の用だい?番頭さん」とすっとぼけてみせるスガカン先生。
「こちらのお屋敷に、手前どものお嬢様をお預かりして頂いてると承りまして・・・」と答える夢さんに問う宗順。
「お前ぇ、ここにお嬢さんを預かってるってなぁ、誰から聞いたぇ?」
あろう事か夢さん、「あのぉ・・・こちらの源次親分様で・・・」などと、しれっと源次を巻き込んだうえ、「と、とんでもねぇ!あっしはまるっきり・・・」とマジわけわかんねー状態の源次の事などは意にも介さず「いくら持参したな?」と凄む民部に、「拐(かどわ)かしや強請に払う金なんざ、一文だって持ってやしませんよ」と切られる大見得。怒って十手で殴りかかった源次の腕を掴んで鉄扇を振り下ろし、さらに民部に向かって鉄扇を投げつける夢さん。
スガカン先生はただ茫然。
うわぁ・・・いい表情だ・笑
夢さん逃亡後、「間抜けが」と民部に成敗される可哀想な源次親分なのでした。
で、翌日。小左衛門が千両持参するように指定された本所石原町にある民部の屋敷で酒をチビチビやりつつ、指定時刻の暮六つを知らせる鐘の音に顔をあげる宗順。
「暮六つだ・・・来るかな?」
「千両で三万石の家を潰す馬鹿はおるまい」と、ここでもポジティブシンキングな民部ですが・・・。
「ゆんべの夢之介とか何とかいう奴が気になる・・・まさか目付か何かじゃ・・・」と、あくまで心配性(慎重派?)の宗順。
文之助も源次も亡き今、何も証拠はない、とあくまで強気の民部に応えて宗順。
「ひょっとしたら儂らの上前を撥ねようという、悪党かもしれん。フフフッ!」
万一に備えて旗本・御家人の悪仲間から腕の立つ者を集めてある、と民部が豪語すると「それは手回しの良いことだ」と榊原が登場。
民部に「何者だ!?」と誰何(すいか)されて名乗りを上げる榊原。
宗順「お奉行??」
んー、いいなぁ~・笑 まるでCGと見紛わんばかりの見事な造形美。
で、二人の罪状を諳(そら)んじる榊原に「ここは直参旗本の屋敷。町奉行が来る所ではないわ!」とキレる民部に続いて宗順。
「だいいち強請をはたらいたと言うのなら、その証拠を出されるがいい!」
で、「いい加減にしねぇか、悪党ども!」と民部に投げつけられた鉄扇にビビるスガカン先生。
サイコー! 飯何杯でもイケます・笑
さらに、髷を切られた民部の「貴様、あのときの・・・」に続けて宗順。
「松花堂の番頭、夢之介・・・」
民部の「出会え出会えぃ」に呼応して「旗本・御家人の悪仲間」たちが登場し、斬り合い開始。
じりじりと民部に迫る榊原に向かって・・・
突然、障子越しに刀が突き出され・・・
榊原が突き返したその先に・・・
「ぁあぁあぁあ・・・!」と声にならない声をあげるスガカン先生。
福本清三氏に回数は及ばずとも、その生涯で何百回と斬られ続けたであろうスガカン先生の、間違いなくメモリアルBEST3に入る素晴らしい臨終シーンだと思います・笑
さて、このお話の脚本担当は鈴木生朗氏。本シリーズに加え、長七郎江戸日記や三匹が斬る!の各シリーズでも活躍。軽妙なテンポで展開するコメディタッチなお話を得意とするライターさんというイメージがありますが、本作もまた「御多分に漏れず」の素晴らしい仕上がり具合。何度観ても飽きませんし、個人的には何人ものライターさんが参戦した夢日記シリーズを通じても、最高傑作の一本に入ると思います。
そして注目すべきは、その豪華な脇役陣で、スガカン先生のほかにも多くの芸達者がキャスティングされており、八田と恋仲になる娘・お袖を演じる石倭裕子さんや、なぜか二人の恋路を邪魔するレギュラーのおつや役、中田喜子さんの、いい感じに力の抜けた安定のお芝居が喜劇調の物語を盛り上げてくれるほか、岡っ引崩れの源次を演じる時代劇界の大ベテラン、工藤堅太郎氏の、他を寄せ付けない完璧な所作・セリフ回しといった、完成されたプロの芸も見逃せません。
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