時代劇名優一覧(男優編)・伊東達広/暴れん坊将軍IV 第17話:鬼を退治の夫婦饅頭(制作/テレビ朝日・東映)

体内に緑色の血でも流れてそうな、まるで温かみを感じさせない特徴あるお顔立ちで、特に感情の欠落した冷酷無情な悪役へのキャスティングが多かったように思われる伊東達広先生。しかし私などは勝手に「陰気な(B’zの)稲葉」とお呼びしている位のイケメン俳優でもあらせられ、また時には巻き舌まで交えつつ素晴らしくエッジの利いたバリトーンボイスが耳に心地よい、大変魅力的な役者さんだったと思います。
そんな伊東先生が、前科持ちとは言いながら今では更生して真面目に商いに励む饅頭屋の主(あるじ)にネチネチ付き纏う悪徳目明し・蝮の権太役で出演されているのが本作。序盤からほぼ出ずっぱり、膨大なセリフ量をものともせずにメインゲストの三波豊和氏や、何なら上様役のマツケンまで食ってしまわんばかりの大活躍。必見です。
銀座の火事で紋次郎(渡辺篤史)率いるめ組に遅れをとった定火消役・本多甲斐守(佐原健二)が御役御免になった頃、饅頭屋「つる屋」の主・佐吉(三波豊和)は街中で行商中、三人の侍に痛めつけられているところを新さん=吉宗(松平健)に助けられます。佐吉をつる屋まで送り届けた新さんは、そのままめ組へ直行し、佐吉は奥の寝床へ。
女房のお米(佐藤真浪)が医者を呼びに行こうとしたところに「お饅頭下さいな」と客(春藤真澄)の声。お米が慌てて店先へ出て行くと、蝮の権太親分が子分の平助(井上茂)を引き連れて登場。
早速、真澄さんにカラむ権太親分。
「お前さん、この店の亭主は前持ちだって知ってんのかい?」
「え・・・?い、いいえ・・・」と戸惑う真澄さんに追い討ちをかける権太親分。
「関わりになりたくなかったら、買わない方がいいぜ?」
真澄さんは、ひとたまりもなく退散。「親分さん、もういい加減に勘弁してくださいな」と抗議の声をあげるお米に血も涙もない権太親分。
「何をだぃ?」
「何をって・・・」と困惑するお米を完全無視。断りなく饅頭を手に取りパクついたと思ったら、框に座り込むなりドスの利いたお声で一言。
「おぅ!茶の一杯も出したらどうだぃ!」
「はい・・・」とお茶を用意するお米をデレデレいやらしぃ~目つきで見ながら・・・
「なぁ、お米?女房になってから余計色っぽくなったな?」
かと思いきや、たちまち真顔に一変。
「お前ぇにぞっこんホの字の俺は、ここの饅頭ずいぶん食ったクチだぜ?」
「それがトンビに油揚げ。佐吉なんぞと一緒になりやがって」と恨み言を述べる権太親分に、お米が「親分さん?お願いです!うちの人はもう、博打も喧嘩もやらず、真面目に饅頭屋をやってます。それに、お父っつぁんも本当は許してくれてたんです。どうかもう、うちの人に付き纏わないで下さいましな。お願いです!」と長台詞で懇願する間中、饅頭をクチャクチャ食ってる権太親分。
親分、行儀が・・・(笑)
お米の問いかけには一切応えず、店の奥を見やり・・・
「お゙ぅ!?うちの人ぉ!?いい気になるんじゃねぇぞっ!!」
いや、奥で寝てるだけなんだけど・笑
「前持ちを見張るのは俺の仕事だ。またちょくちょく寄してもらうぜ」
こんな親分、イヤだ~(笑)
さて、大忙しの権太親分、続いて新さんもやって来たばかりのめ組に登場。
「紋次郎はいるかぃ?」
「お、こりゃどうも」と紋次郎が登場。
「よぉ、め組の小頭とはえらく出世したもんだなぁ?」
頭(かしら)が取り立ててくれて、などと謙遜する紋次郎ですが・・・
「ところでお前ぇ、先の銀座の火事じゃ一番纏だったそうだが、どうしてなんだぃ?」
紋次郎は火消しとして普段の心構えから抜かりのない事を丁寧に説明するのですが、親分はてんで興味のないご様子。
「お前ぇが付け火したからだって噂があるんだがな?」
たまらず「妙な言いがかりはよせよ」と割って入った新さんは「エラ~いお旗本の御三男坊」だと言うおさい(浅茅陽子)を、ドスの利いた声で「嘘つきやがれ!」と一喝する権太親分。
「そんなエラい御方が何で居候なんかしてんだぃ?どうせ放蕩のうえ勘当された、穀潰しに違ぇねぇ!」
さらに十手を振りかざして続ける親分。
「いいか?余計な口出しすると、痛ぇ目に遭うぜ?」
しかし「(紋次郎が付け火をしたという)証拠はあるのか?」と新さんに逆襲されると、一転、矛先は紋次郎へ。
「おぃ紋次郎!ヤサはどこだ!?」
「この近くの長屋で・・」と応える紋次郎に「そうか!ちょくちょく寄してもらうぜ!」と怒鳴りつけるなり・・・
キレ味鋭いターンを決めて、め組を後にする権太親分なのでした。
さて権太親分、実は定火消をクビになった本多甲斐と結託しており、親分は佐吉を殺してお米を自分のものに、本多は紋次郎を陥れて銀座の一件の腹いせをしようと企んでいるのですが、そんななか・・・
本多の家来、小林半兵衛(岩尾正隆)、中村十蔵(小坂和之)、伊東小五郎(福中勢至郎)の三人が再度、街中で佐吉を痛めつけます。背後に権太がいることを察した佐吉に上方まで逃げようと提案するお米。「いくら蝮でも、上方まで追って来やしないわ」とお米が佐吉を説得にかかった絶妙のタイミングで我らが蝮親分、ニコニコ顔で登場!
「そうかなぁ?」
「蝮はなぁ、上方はおろか、唐天竺に行ったって嗅ぎ付けるぜ?」
カッコい~(笑)
そしておもむろに框に座り込むなり「ちょっくら、番屋へ来てもらおうか?」と切り出し、「え、な・・・な、なんですか?」とビビる佐吉に平然と言い放つ権太親分。
「お前ぇんとこの饅頭を食ったやつが死んだんだ!」
「そんな事があるはずがありません!」とお米が猛抗議するのですが、まるで意に介さないタフな権太親分。
「あるかないかを決めんのは・・・オレだぜ!」
無茶苦茶な権太ワールド(笑)
「二人とも来るんだよぅ!」と巻き舌でキレられた佐吉とお米は、そのまま大番屋へ。
隣の拷問部屋で両腕を棒に括りつけられたうえ天井から吊るされたお米を平助が割竹で打ち据える一方、「お米はどうなるんで?」と女房を案じる佐吉に持ちかける権太親分。
「お前ぇとの話の具合でどぉぉぅにでもなる」
ちなみにここから長回しですね。
「と言いやすと・・・」と佐吉が尋ねるのを待って、クールにポーズを変える権太親分。
そして佐吉の方へと近づきながら、佐吉が七年前、錠前屋の備前屋に奉公していた折、札差の川村屋に金蔵用の錠前を納めた一件を持ち出す権太親分。
「あの錠は凝った錠で、ちっとやそっとじゃ開かねぇそうだなぁ?」
「そいつをお前ぇに開けてもらいてぇのよ」
「お前が開けてくれたら・・・金輪際オレは、お前ぇとお米には付き纏わねぇよ?」
そうしているうちにも平助にいたぶられ悲鳴を上げているお米。恐る恐る「断ったら・・・?」と(ムダなことを)尋ねる佐吉の目を、じぃ~っと見据える権太親分。
たっぷりタめてから「死罪だ」
「そんなバカな・・・」と、悲痛な声を上げる佐吉に問答無用とばかりカブせ気味に・・・
「バカはお前ぇだ!」
佐吉の作った饅頭に石見銀山を入れて無宿人に食わせてしまえばいい、と天をも恐れぬ権太親分。
「お前ぇんとこにも、ねずみ取り(=石見銀山)があるのは知ってるからな」
「そんな、ひどい・・・」と言葉を失う佐吉に「なぁ、佐吉・・・」と優しく語りかける権太親分。
「お前ぇが馬鹿じゃなきゃぁ・・・」
「川村屋の、金蔵の錠前を開けてくれるはずだ」
「そしてお米と安楽に暮らすはずだ」
伊東先生、表情の引き出しに際限がありません・・・笑
苦悶の表情を浮かべ何も答えられない佐吉ですが、十分に間を置いてから溢れんばかりの笑顔を浮かべる権太親分。
「そうかぃ」
猫なで声で「ここでゆっくり考えてみるかぃ」
一瞬でマジな顔つきに変わったうえトーンも下げて「その間にオレはお米をいただくぜ!」
行動の素早い権太親分(笑)
半べそで追いすがる佐吉に・・・
念押し。
「やってくれるか?」
「本当に・・・金輪際、付き纏わないんですよね?」と尋ねる佐吉ですが「ふっふっふっふっ・・・」と笑う権太親分。
ここは感情を込めて。
「うったぐり深ぇやつだなぁぁぁ」
金蔵破りで二人は同罪、佐吉がやけを起こして白状されれば自分もおしまいだ、と権太親分が一見もっともな理屈を持ち出したところで、またしてもお米の悲鳴。思わず「お米ぇぇ!」とお米の元へ走り出そうとする佐吉の襟首を掴んで引き倒す権太親分。
ここで 2分50秒に及ぶ長回し、ようやく終了です。大変お疲れ様でした。
で、再度お米の拷問シーンを挟んで「お米ぇぇぇ」と絶叫する佐吉の背後に権太親分。
「お米はくたばるかもしれねぇなぁ・・・」
伊東先生のお目々もいい味出してるけど、さっきから照明さんのお仕事が絶品だわね・笑
で、なおも聞こえるお米の悲鳴を聞いて、佐吉が「やります!」と半泣きでギブして交渉成立。一味は川村屋の金蔵から三千両を盗みついでに、平助が紋次郎宅から盗み出した名前入りの煙草入れを現場に残して立ち去ります。屋敷に運び込まれた千両箱にご満悦の本多様と、縁側に控える権太親分。
権太親分に「(例の煙草入れを上手く使って)め組の紋次郎の方も頼むぞ!」と要求する一方で、親分が小林に「一刻も早く佐吉を消して下せぇ」とお願いをすると「いや、今しばし待て!」と邪魔をする本多甲斐・笑
「な、何故でごぜぇやす?」
「佐吉はまだ使える!」と取りつく島もない本多に「し、しかし・・・」と今にも泣きそうな表情が可愛いらしい権太親分・笑
さて、め組では、かつて(佐吉と共に)備前屋に奉公していたため、川村屋の金蔵の錠前は「ちっとやそっとじゃ開けらんない」事を知っている紋次郎が「そいつは大ぇした腕の盗っ人だぜ?」などと感心しているところに権太親分、再登場!
「おい、紋次郎!」
「とんでもねぇ事しやがったな?」
「あっしは決して、付け火なんかしてねぇぜ!」と主張する紋次郎を「付け火じゃねぇ!」と一喝。
「金蔵破りの一件だ!」
紋次郎始め一同大いに困惑・笑 前回同様、新さんが「証拠はあるのか?」と割って入るのですが、待ってましたと言わんばかりの権太親分。
「おいでなすったね?」
「だが今度は、追い返されねぇぜ?」と例の煙草入れを取り出しながら紋次郎の方を振り返り「このお前の名前入りの煙草入れが、川村屋の金蔵の入り口に落ちてたんだぜぃ!」と怒鳴りつけた挙句、「そんなはずはねぇ!」と狼狽する紋次郎に「はずがねぇって!?」とブチ切れ芝居の権太親分。
「川村屋の番頭が拾ったんだ!」
そして七年前に川村屋の金蔵の錠前を取り付けたのが紋次郎である事実も持ち出して、紋次郎をひっ捕らえようとするのですが・・・
新さんにさり気なく邪魔される権太親分・笑
キレる蝮。
「野郎!逃がしやがったな!?神妙にしろぃ!御用だ!!」
逃げるどころか「番屋に案内してもらおうか」と居直る新さんに、め組の一同から心配の声が挙がるのですが、「大丈夫だ、小頭の無実を必ず晴らして来るから、それまで待ってろ」と涼しい顔の新さん。
「うるせぇぇぇぃ!とっとと来やがれぃ!」
いちいちオーバーなお芝居が面白すぎる伊東先生・笑
さて、新さんを大番屋の牢に放り込んだのはいいが、奉行の大岡忠相(横内正)に「新之助とやらを泳がせて尾行する」よう命じられてしまった権太親分・・・。
いちいち変顔を決める伊東先生と、釣られる井上茂氏。
路地裏から才三(五代高之)が走り出て来て・・・
新さんの後を尾けていた権太親分に激しく体当たり。
「何でぇ!?」とキレる権太親分と「掏りよ!捕まえてぇ!」と叫びながら才三の後を追う茜(入江まゆ子)。
思わず懐を確かめ「はっ?ない!」と慌てる権太親分。
奥で巾着を拾った平助が「親分?これじゃねぇすか?」
「おぉぉぅ、これだ!(喜)」
「!」
「あの野郎ぉぉぉぅ!」
ベタながらナイスなノリ突っ込み・笑
鈴川法子さんと壬生新太郎氏を跳ね飛ばして後を追うも・・・
時すでに遅し。
「っきしょぉぉぉぉ、まきやがったぁぁぁ!」
ここでも素晴らしく表情豊かな伊東先生。やはり名優です・笑
そしていよいよラス殺陣。
お決まりの上様と悪党一味とのやり取りではセリフなしの権太親分(右端)。
本多甲斐「上様っ!」
権太親分「・・・(お口もごもご)!」
ラス殺陣では雑魚扱いなのか・・・
茜にあっさり片づけられる権太親分。
・・・と思ったらまだまだ見所満載。
ぴくぴくぴく・・・
「・・・(うげっ!)」
コロン・・・(絶命)
ここ、本来ならいらないシーン。これはもうひとえに伊東先生が主役級の扱いであればこその演出と言ってよいでしょう・笑
基本的には感情に乏しい悪役での出演が多いゆえに、ともすればお芝居がワンパターンなイメージすらあった伊東先生ですが(ま、それはそれで悪役としては超カッコイイのですが・・)、本作での演技を見てイメージがガラリと変わりましたね。もとよりその嫌味っぷりは群を抜いているのですが(笑)それにもまして伊東先生演じる権太親分は表情にも所作にもコミカルな要素がふんだんに盛り込まれていて、その計り知れない芸域の広さ、奥深さを感じさせます。いやぁ~、面白かった!
お話としての完成度も非常に高かった本作。脚本は野波静雄氏、監督は松尾正武氏という、いずれも東映京都生え抜きとなる大ベテランの組み合わせ。特に大番屋における伊東先生と三波豊和氏の長回しによる対決シーンなんかは、セリフ運びの妙、照明の使い方も含めて「いかにも時代劇!」といった風で見応え十分。個人的に「暴れん坊将軍」は、レギュラー陣も作品そのものも、シリーズを重ねるごとに残念なことになって行った気がしてますが、まだまだこの頃の作品は安心して観ていられますね。