時代劇名優一覧(男優編)・成田三樹夫/柳生一族の陰謀 第3話:駿府の黒い影(制作/関西テレビ放送・東映)

東映ヤクザ映画における悪役エースと言っても差し支えない、言わずと知れた名悪役の成田三樹夫先生ですが、単発でお呼びするにはあまりに大物過ぎるのか、ことテレビ時代劇となると、出演された作品数は、さほど多くはありません。そんな三樹夫先生が、映画版に続いて朝廷の復権を企む武闘派のお公家様・烏丸少将文麿役でセミレギュラー出演されていたのが、東映と関西テレビによって制作された同タイトルのテレビ時代劇「柳生一族の陰謀」シリーズ。
弟である駿河大納言・徳川忠長(西田健)と将軍の座を争う、後の三代将軍・徳川家光(田村亮)方についた柳生十兵衛(千葉真一)が配下の根来忍者を引き連れ、駿府の城下外れにある涼泉寺へ忠長一派の元筆頭老中・酒井備後守(渡辺文雄)の襲撃に乗り込んだ際には、十兵衛の動きをいち早く察知して罠をしかけ、根来の集団を壊滅させたばかりか十兵衛の左目まで矢で射抜いて敗走させるなど、映画版にも増して重要な役どころを担う烏丸少将ですが、今回ピックアップするのは、そんな烏丸少将の恐るべき剣豪ぶりが観る者に衝撃を与える第3話の名シーン。
まずはその布石となるワンシーンから。
家光一派に先んじて忠長に対する大名諸侯の支持を取り付けた備後守は勢いに乗じて上洛、帝から将軍宣下の詔勅を得んと謀りますが、家光、忠長、どちらが次期将軍になっても朝廷復権の好機が断たれると考える関白・九条道房(高原駿雄)、大納言・三条実条(山城新伍)、そして烏丸少将は謀議を巡らし、江戸から家光一派の松平伊豆守(高橋悦史)を京に呼び付け、備後守と噛み合わせて将軍の座をめぐる争いを振り出しに戻そうと画策します。大納言実条が江戸へと下る一方、時間を稼がなければならない関白道房と烏丸少将なのですが・・・
実条一行が江戸へ急行するシーンが切り替わるや否や、備後守に「黙らっしゃい!」と鋭く一喝される少将殿。
さらに怒鳴り散らす備後守。
「主上がお風邪と申すなら、明日は医師を連れて参内しようか?それとも!駿河より軍勢を呼び寄せ、直々、将軍宣下の事を願い奉ろうか!?」
(帝は)風邪で会えないとか、そんな子供じみた言い訳は通用しない迫力満点の備後守・笑
明日また来るから「性根を据えて返答されぃ!」と二人を怒鳴りつけてズカズカとその場を後にする備後守。「何としよう?少将殿・・・」と途方に暮れる関白様ですが・・・
烏丸「負けてはなりません」
さすがは我らが三樹夫先生、みんなが勇気づけられる頼もしい一言・笑
大納言が伊豆守を連れて京に戻るまで、せめてあと十日は時間を稼ぎたい三樹夫先生。「そうは言うても・・・」と弱気の関白ですが、不意に閃いた少将殿。
「・・・おじゃりまする」
「良い手立てがおじゃりまする!」
その手立てというのが、関白一人で備後守の下に向かわせ、実は烏丸少将が家光方と通じているばかりか、宮中の実権は烏丸少将にあり、関白は主上への拝謁もままならぬ、と備後守に泣きつかせるというもの。
まんまと策にはまった備後守。一の腹心、服部半蔵(山本昌平)を烏丸少将暗殺に向かわせます。
半蔵以下、伊賀者五名が待ち受ける山道に、パカラパカラと無防備に現れる少将殿ご一行。
前触れもなく、いきなり馬上で・・・
抜刀!
(ちょっと刀振り抜くタイミング合ってないけど)鮮やかに瞬殺で一人片付ける烏丸少将!
そしてここで知る人ぞ知る例の名セリフ。
「出ておじゃれ!隠れていても獣は匂いで分かりまするぞ?」
いやはや、(映画版とは放つ相手が違いますが)何度聞いても耳に心地よき。歴史に残る素晴らしいフレーズだ。
で、隠れていた獣(半蔵)たちが現れて行列を襲撃、あっと言う間にお供の方々が全滅してしまうのですが、ここで放たれた烏丸少将のセリフがまた秀逸。
「ほっ?残りはたった四人かえ?」
「ホッホッホッホッホッホッ、見くびられたものよのぉぅ~」
名優・成田三樹夫、何とお茶目なこの表情!
そして(ここは吹替えでしょうが)馬上からジャンプ!
からの・・・
袈裟斬り。
着地してジロリ。
「其の方が服部半蔵よのぅ?」
斬りかかって来る一人を・・・
ジャンプで・・・
躱し・・・(高っ!)
突きを・・・
払って・・・
そのまま回転して後ろの敵に右胴払い・・・
からの・・・
左胴払い・・・
からの・・・
もう一人にも右胴払いで・・・
あっと言う間に残りは半蔵ただ一人。
公家のくせして強過ぎるのもさることながら、物凄くダイナミックな太刀捌きを披露される三樹夫先生。
たまらず竹藪に逃げ込む半蔵を、じわじわ追い詰める烏丸少将。
「青公家一人」を片付けるだけだったはずの服部半蔵、「まさかの」絶体絶命の窮地。
ちなみに半蔵は第1話で十兵衛に左腕を斬り落とされてますから、フック船長みたいになってます。
「旨旨と策に乗りおって、うつけ者が!」
半蔵の首を土産に備後守に談じ込むことで「今しばらくの時は稼げよう」と、しめしめ顔の少将殿。
「覚悟しや」からのジャンプ・・・
からの・・・
左袈裟斬り。
そのまま時計回りに回って・・・
振りかぶり・・・
右袈裟でフィニッシュ。
半蔵は為す術なく死亡。
ひと仕事終えて、ユダ様を彷彿させるお顔で「ふぅ~」
そして高価そうな狩衣で汗を拭うセクシーな少将様。
しかし結果として烏丸少将のこの策は仇となり、備後守を守護する伊賀者が減ってしまったことから十兵衛が備後守の暗殺に成功。備後守がいなければ何も出来ない忠長一派は、十兵衛の父で幕府総目付である但馬守(山村聰)の、なかなか卑劣な・笑 策略にハマって自滅。忠長は切腹に追い込まれ、見事、家光が三代将軍の座を射止めることになるのでした。
さて、本作での三樹夫先生ですが・・・。張りの半端ない、いつもながらの野太いボイスを、さらに甲高くして大仰に喋りを繰り出す異様なお公家様芝居も大変面白いのですが、それにも増して、三樹夫先生のアクションが素晴らしいですね。少将殿の狩衣を目立たせたかったのか、立ち回り自体は、やたらと無駄な回転が連続する何かわざとらしい手が付けられてしまってますが、三樹夫先生の太刀筋は大きく且つ頗るしなやか。そして実に力強く、ここまでダイナミックな殺陣の出来る役者さんというのは、主役クラスを含めても、なかなか思い浮かびません。
あと三樹夫先生、何気にジャンプ力が凄まじいですね。ましてやお公家様装束ですし、決して動きやすい服装ではないと思うんですが、そんなハンディは物ともせず画面狭しと躍動しておられます。足回りはね、狩衣なんで履物は浅沓でキメて頂きたいところなんですが、何か洋物のブーツを履いておられるようにも見えます。んー、実際これは何を履いてるんだ?
ちなみに第4話で、少将殿が巻藁相手に居合の稽古に励んでおられるシーンがあるのですが・・・
こんな公家いるかよ!笑
単に剣客というだけのお公家さんなら他作品でも見かけたことありますけど、作中でその筋肉隆々たる肢体をわざわざ披露してみせたお公家なんて後にも先にも三樹夫先生演じる烏丸少将そのひとだけではないでしょうか? 悪役ながら敵を瞬殺する圧倒的な破壊力、他を寄せ付けない恐るべき運動能力、そして筋肉美・・・何か来日当初のロード・ウォリアーズを思い出してしまった・・・
さて、この三樹夫先生演じる烏丸少将、シリーズ通じてセミレギュラーとして何度となく登場。剣の遣い手であるばかりでなく知略にも長けており、ついに第36話で十兵衛に倒されるまで、ありとあらゆる手段を駆使して柳生や徳川を倒さんと挑みかかります。アクロバティックなそのアクションに留まらず、昭和きっての名優・成田三樹夫先生がお届けする何ともキモかっこイイお公家様芝居、必見です。
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