時代劇名優一覧(男優編)・成田三樹夫/柳生一族の陰謀 第14話:魔性の館(制作/関西テレビ放送・東映)

テレビ時代劇シリーズ「柳生一族の陰謀」で成田三樹夫先生が演じられた名物キャラクター・烏丸少将のご紹介。第2弾はシリーズ第14話「魔性の館」から。
今回のお話、二代将軍・秀忠の娘にありながら七歳にして豊臣方に人質として差し出された過去を持ち、今では心を病んでしまった現将軍・家光(田村亮)の姉、千姫を軸に展開するお話で、千姫を演じる酒井和歌子さんの美貌とお芝居が最大の見どころとなる・・・はずなのですが、和歌子さんよりはるかに出番が少ないにも関わらず三樹夫先生、例によって他をよせつけない怪演で、観る者の関心を全部ひっさらってしまうイキオイです・笑
徳川家安泰のため、老中・松平伊豆守(高橋悦史)が、夜ごと乱行の噂が絶えぬ千姫の殺害を柳生但馬守(山村聰)に命じる裏で、姉を哀れと思う家光には「何とか姫を救うことは出来ぬか?」と懇願される但馬。父、但馬の意を汲んだ十兵衛(千葉真一)が千姫を諫めるため、千姫の住まう吉田御殿へと赴くのですが・・・
なぜか、そこにおわします烏丸少将・笑
かつて烏丸少将が十兵衛の左目を弓矢で射貫いて(第2話)以来のご対面となる二人、暫しの睨み合い。
凛々しい三樹夫先生のアップ。
千姫に「其の方たち、仇に会うたような顔じゃのぅ」とツッコまれ、思わず我に返る三樹夫先生。
「おっほっほっほっほっほ・・・久しぶりでおじゃりまするのぅ、十兵衛殿」と大人な対応をして見せる三樹夫先生・笑
帝の名代として年賀の挨拶のために江戸へやって来たところ、翌日の謡初(うたいぞ)めに招待されていることを十兵衛に告げたうえで、姫の側に控える松坂局(野際陽子)に無茶振り(?)する三樹夫先生。
「ちょうど良い、松坂殿」
「これから双六遊びをしようと言うておじゃりましたのじゃ」
「十兵衛殿も入られぃ」
「のぅ?」
そしてまた例の高笑い・笑
「おっほっほっほっほ・・・」
そのお口からリズミカルに紡ぎ出されるお公家言葉と、豊富な引出しから次々に繰り出されるどこまでもとぼけた表情の数々。怪優・成田三樹夫のダイナミックなお芝居とは裏腹に、後姿からでも十分に伝わって来る野際陽子氏のシラケたひんやり感がまたいいですね・笑
そんな烏丸少将を一瞥しただけで千姫の前に進んで座し「十兵衛三厳に御座います」と名乗ったうえで「恐れながら、お人払いを・・」と願い出るものの、千姫に拒否される十兵衛。仕方なく少将や松坂の前で「姫君昨今の御行状につき・・・」と説教を始めますが、「噂は噂、千は千じゃ!」とピシャリと言い放って千姫はそのまま退室。
足早にその場を後にする千姫を見送ってから・・・
「十兵衛殿?」
「野暮は言わぬこと」
また「おっほっほっほ・・・」を挟んで。
「それとも、美しい姫君を見てのぼせたのでおじゃりまするかの?」
立ち上がって強烈な嫌味を残しながら去って行く三樹夫先生。
「もう一つのお目々も開いておじゃれば、一層、美しさが優るものを。ほっほっほっほっほっ・・・」
千葉真一氏の真面目くさった演技と対比させることで、より三樹夫先生のお芝居の鮮やかさが引き立ちますね。
さて、千姫乱行の噂を市中に流し、千姫の悪評を世間に広げたうえで千姫を殺害、朝廷が徳川から政権を奪取する突破口とすることを目論んだのは他ならぬ我らが烏丸少将。大坂落城の際に千姫を助け出し、大御所・家康の言により千姫を娶(めと)る資格を得たにも関わらず、二十一も年上であることから千姫に袖にされて逆上、千姫を力ずくで奪還せんと計ったものの、最後は但馬によって成敗された石州津和野の領主・坂崎出羽守(笹木俊志)の弟・左馬助(西沢利明)が千姫に抱く復讐心を利用し、左馬助を阿闍梨として吉田御殿に送り込んだうえで、その機会を窺っていたのでした。
夜中、独りでブツクサ言いながらお化粧に勤しむ烏丸少将。
「千姫の首は・・・」
「まだかぇ・・・?」
「千姫の首は・・・」
「・・・!」
「千姫の首は・・・」
「まだかぇ・・・?」
「千姫の首は・・・」
「まだか・・・」
「えっ!」
床下に潜んでいた、十兵衛子飼いの根来忍者・フチカリ(矢吹二朗)の腕を見事に貫いた太刀を畳から引き抜いて・・・
「はっはっはっはっはっ・・・」
「柳生のイヌめっ!」
うーん、どこまでもキモかっこいい・・・
で、結局、千姫を殺害しようとした左馬助が逆に十兵衛に斬り殺されて計画は失敗。そうとも知らず、江戸城で開かれている謡初めに列席している烏丸少将。
そう言えば、正月なのに扇子・・・?
長々と続くお能に、やや退屈そうな表情を浮かべる我らが烏丸少将。
そこへ但馬守が現れ、まず伊豆守に千姫の落飾を報告。それから烏丸少将の元へ届けられる袱紗包み。
開いてみると、血塗られた錫杖の先端。
何が起きたかを理解した三樹夫先生演じる烏丸少将の・・・
この表情。
上手いよねぇ~・・・表情の変化は最小限ですが、そこに「これまでの経緯」と「烏丸少将」というキャラクターの持つ性質の全てが表現されています。やはり成田三樹夫先生、名優です。
第4話「大奥の妖女」にて家光暗殺に暗躍するも失敗、関係者が次々と柳生一派に殺害あるいは処罰されるなか、いち早く江戸から逃亡して以来、久々の登場となる烏丸少将ですが、本作では、十兵衛に浴びせる秀逸な嫌味や「千姫の首はまだかぇ~?」の行(くだり)など、朝廷復権のために権謀術数を次々と仕掛けるお公家さま随一の知恵者といった従来のキャラクターからさらに飛躍して、お茶の間に大人の笑いを届ける役どころまで担っておられる感があり、しかし、そんな難しい役どころであっても何なく演じ切ってしまう三樹夫先生の「名人芸」から、ますます目が離せません。
本作の脚本を担当されたのは、東映時代劇ではあまりその名をお見かけすることがない(気がする)中村努氏。この「柳生一族の陰謀」シリーズでは何本か書いておられるなか、烏丸少将が登場する回を担当されたのは、この1話こっきりなのですが、ほかに烏丸少将が登場した全ての回のお話と比べても、同氏が手がけた本作こそ、烏丸少将という特異なキャラクターの持つ魅力を引き出すことに最も成功した作品であるように思います。第3話で飛び出した「獣は臭いで分かりまするぞ?」も名セリフではあるのですが、あっちはあくまで映画版からの流用ですからね。
なお、同氏が手がけた他のお話では、中丸忠雄氏が十兵衛の叔父・柳生新十郎役を演じた第7話「悪霊の城」なんかも、お話の展開に謎解きの要素をふんだんに盛り込み、終始、観る者をはらはらさせる素晴らしい作品だったと思います。とりわけ鉄仮面をかぶせられた囚人が次々に処刑されるシーンなどは圧巻でしたね。
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