時代劇名優一覧(女優編)・佐野アツ子/柳生一族の陰謀 第32話:姿なき敵(制作/関西テレビ放送・東映)

時代劇名優一覧(女優編)・佐野アツ子/柳生一族の陰謀 第32話:姿なき敵(制作/関西テレビ放送・東映)

萬屋錦之介氏主演、深作欣二氏が監督を務めた東映時代劇映画を、タイトル名はそのままに千葉真一氏を主演に据えてリメイクした「柳生一族の陰謀」シリーズ。東映と関西テレビの制作により全39話が放送されたのですが、その中で、柳生家の人々が屋敷に侵入した暗殺集団によって一人、また一人と殺害されていくという、何か洋物のホラー映画を彷彿とさせる、なかなか斬新、というか、少々野心的な(笑)お話があります。

東映京都生え抜きの監督兼脚本家、飛鳥ひろし氏が執筆を手がけた(監督は志村正浩氏)このお話のなかで、ひときわ印象に残る演技をされているのが、70年代から多数のテレビ時代劇にゲスト出演されている佐野アツ子さん(本作では「佐野厚子」名義)。目黒祐樹氏演じる柳生家次男の左門に淡い恋心を抱いている(ように見える)、柳生家の女中・奈津を演じる若かりし頃のアツ子さん。美人というより素朴に整ったお顔立ちから醸し出される何処となく柔和な雰囲気が、観る者の目を和ませてくれるアツ子さんですが、シナリオの核心を見事に再現する、そのお芝居にも要注目です。

 

大番頭の米倉安芸守(北原義郎)が空席となっている大目付の座を狙う一方で、反米倉派の旗本たちから大目付職に担ぎ上げられようとしている幕府剣術指南役・柳生但馬守(山村聰)が、自邸で左門(目黒祐樹)、茜(志穂美悦子)らと能を楽しんでいたある夜、屋敷の台所では板前・源三(吉澤高明)と女中・おつる(富永佳代子)が侵入して来た忍びたちに相次いで殺害されます。

そんな事とも知らず、和やかな雰囲気の座敷では、一差し舞い終わった左門に但馬守が「いつまで経っても上手くならんな」と声をかけて笑うのですが、すかさずアツ子さん。

「そんな事はございません。お見事でございました」

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今度は茜が「奈津は左門兄様が贔屓だから」と冷やかすのですが・・・

「そんな・・・」

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もじもじ・・・笑

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しかし突然、天井裏から忍びが現れ、その場は一瞬で修羅場に。奥でひたすら騒ぐアツ子さん・笑

「曲者でございま~すっ!曲者でございま~すっ!」

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さらに異変に気付いて台所に駆け付けた用人・三太夫(有島淳平)が殺害され、天井裏では折助(畑中伶一)の惨殺死体が発見されます。柳生家は役目柄、恨みを買って当然だと達観する但馬ですが、左門は屋敷を警護させるため、目黒にいる裏柳生のもとへ。

 

目黒への道中でお澄(日向明子)という娘と知り合った左門は、またぞろ忍びの集団に襲撃されるのですが、その場に駆け付けたフチカリ(矢吹二郎)ら裏柳生に助けられます。しかし忍びの一人にお澄が腕を斬られてしまったため、左門は手当てのためにお澄を柳生屋敷へ連れ帰ることに。

茜による手当てが終わり、「本当に申し訳ないと思っている」と詫びる左門に「かえって色々親切にして頂いて・・・」とお澄は恐縮するのですが、「いいんですよ、左門兄様は、きれいな人には特に親切なんですから」などと茜が軽口を叩く行(くだり)の後、「傷が治るまでゆっくりして行くがよい」と左門が言うのを、落ち着かぬ様子で聞いている奈津。

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部屋を出て来る茜と目が合い、バツの悪そうな表情を浮かべる奈津。

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しづしづと入室して・・・

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「左門様、何か御用は・・・?」と健気に尋ねる奈津に「ない」と冷たい左門様・笑

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もうこの時点でお澄が刺客なのはキャスティング的にも(笑)明らかですが・・・そんなお澄とは対照的に、エラい雑に扱われてしまうアツ子さんを「もっと大事にしてあげてー」と、視聴者がついアツ子さんに肩入れしてしまうのを狙ったかのようなシーンです・笑

 

さて夜になり・・・

裏柳生2人が殺され、さらに但馬守も敵の捨身の攻撃により腹を刺されて重傷を負います。生き残った全員が但馬守を囲むなか・・・

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徳川家安泰のために続けて来た大名取り潰しを始めとする過酷な政策への恨みを全て引き受けて死ぬ覚悟だ、と言い切ってから「左門、茜、裏柳生の一同・・・死んでくれ!」と皆にも覚悟を促す但馬。

ひとり名前を呼ばれなかった奈津ですが・・・。

「殿様・・・」

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「私(わたくし)もお供を・・・」

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もうナイチンゲールの生まれ変わりか何かのような、さらに視聴者に感動の嵐呼びまくりの素晴らしき子女・奈津さん(笑)

 

さて、自分の政治姿勢を嫌う十兵衛(千葉真一)が助けに来ることを端から諦めている但馬でしたが、このままでは皆殺しになると考えた裏柳生の一同は、目黒に残る十兵衛に助けを求める決意をします。しかしクロメ(斎藤一之)は屋敷の外に出るなり敵の矢に倒れ、屋根伝いに花街に降り立ったサキツ(崎津均)も胸を刺されて死亡。

一方、屋敷では手入れしたばかりの茜の刀がボロボロに。そこで初めてお澄に疑いを持つフチカリ。「お澄に限ってそんな!」と始めはムキになっていた左門ですが、試しに斬りかかってみると、玉鎖で反撃して来るお澄。帯から取り出した刀で左門の脚に斬りつけ、さらに障子を背に攻撃しようとしたところを・・・

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何と、そこには奈津の姿。

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恐怖のあまり自分で懐剣を手放すことも出来ない奈津なのですが・・・

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いくら後ろを取ったとは言え、相手は手練れの忍び。何かおかしいやね・・・笑

 

茜から、奈津が左門の危機を救ったと聞いて「奉公してまだ三月だと言うに、感心な女子じゃ」と唸る但馬守に「そうじゃないんです父上、奈津は、この屋敷に来たときから左門兄様には特に親切でした」と楽しげに告げ口する茜なのですが、茜が但馬守のために作った薬湯の毒見を買って出たキタノ(福本清三)が毒にあたって、まだ敵が邸内に潜んでいることが判明。

そして就寝中の但馬守に「殿様?」と声をかけ、そっと障子を開ける奈津。

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「お加減いかがでございますか?」と問いかけるも、反応がないのを確認。

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キョロ・・・

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キョロ・・・

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「・・・・」

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出た~笑

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しかし実は寝たフリをしていただけの但馬守は掛け布団を投げつけて反撃。そして取り押さえにかかる裏柳生のハヤテ(春田純一)。

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しかしハヤテを前方に投げ飛ばしたうえで、何本もの手裏剣を投げつけるアツ子さん。

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ハヤテを倒したアツ子さん、今度は駆け付けたフチカリや茜と大立回り。

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奈津ちゃんデカッ・笑 当然、吹替えでしょう。

で、茜が横に払った一太刀で髷を切られるアツ子さん。

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あ~、あの可愛らしい奈津ちゃんは何処へ?(笑)

今度は茜に懐剣を投げつけるアツ子さん。

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刀ではたき落とされたと見るや・・・(乱れ髪が色っぺぇ・笑)

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素早く身を翻し・・・

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屋根の上へジャーンプ!(吹替え)

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地面に煙玉を投げつけると・・・

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「フフフフ・・・」

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からの「ハハハハハ・・・!」

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バッ!

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何だ、裸じゃないのか・・・

「甲斐の霞童子の正体・・・」

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「(男声に変わって)見せてくれよう!」

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お顔メリメリ・・・

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メリメリメリ・・・(女優さんの顔がエラいことなっとんな・・・)

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ピーターさんが出て来ました・笑

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終わり。

 

これ、お澄だけじゃなくて奈津も、という二重の仕掛けを用意した飛鳥氏の脚本もいいんですけど、それだけだと、やはりありがちと言えばありがちなわけで、そこまで印象に残らないと思うわけです。やっぱ表の顔と裏の顔の壮大なギャップを演じ切ってみせたアツ子さんの見事な演技力・・・と言うか、おそらく考えに考え抜いて作り上げたのであろう、陰と陽のお芝居そのものが素晴らしいと思います。

特に屋根に飛び乗った後の「フフフフ・・・ハハハハ!」が圧巻でしたね。笑い方がマジで気持ち悪いんですが(笑)こうした一連のお芝居を衒(てら)いも外連(けれん)味もなくナチュラルに出来てしまう女優さんというのは、もうキレイとか可愛いとかいう次元を超えて、カッコいいの一言に尽きますね。

 

余談ですが(奈津の正体である)ピーター氏演じる霞童子を始め、柳生一族の襲撃に暗躍した忍者集団は、かつて武田家に仕えた「三方(さんぽう)衆」の流れを汲む甲州忍者の一団で、但馬守と大目付の座を争う大番頭の米倉に公儀御庭番の座をチラつかされて、米倉のために働いていたのでした。

おそらくシリーズに登場したなかで最も柳生一門を苦しめた忍び集団ということになると思うのですが、何ぶんアツ子さんの「フフフフ・・・ハハハハ!」が強烈過ぎて、どうでもええわ、と感じてしまうのはここだけの話です・笑