時代劇名優一覧(女優編)・中村あずさ/半七捕物帳 第12話:艶姿 隼小僧参上(製作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)

時代劇名優一覧(女優編)・中村あずさ/半七捕物帳 第12話:艶姿 隼小僧参上(製作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)

この方も、現代劇のチョイ役から時代劇に進出して来たかと思ったら、いつの間にか準主役級の役を射止めるまでに出世したものの、結婚を機にあっさり引退してしまうという「あっと言う間に登り詰めてあっと言う間にいなくなってしまった」系の女優さんですね。顔立ちもスタイルも全く時代劇に馴染んでなくて、お芝居も現代劇の延長で演じてるだけのような、ちっともジダイゲキジダイゲキしてない方でしたけれども、妙にナチュラルで説得力のある役作りと、着物捌きや立ち居振る舞いの美しさが印象に残る女優さんでした。

そんな中村あずささんが、ちょいと訳アリの女泥棒を演じた、里見浩太朗氏主演の人情時代劇シリーズ「半七捕物帳」の一作をピックアップ。

 

三十年前に姿を消したはずの義賊・隼小僧が再び江戸の街に現れ騒ぎになるなか、三河町の半七(里見浩太朗)行きつけの呑み屋「つたや」の女将・お千加(片平なぎさ)や従業員のおみつ(太宰由美子)は(あずささん演じるおもんが座長を務める)両国広小路の娘軽業一座の舞台を堪能。その夜、おもんの人間業とは思えない身の軽さを「つたや」で二人が絶賛しているところに鳴り響く捕り方の呼子。

同心の小山(堤大二郎)や下っ引きの庄太(西山浩司)と共に「つたや」を飛び出す半七。庄太が屋根伝いに逃げる盗賊を発見し、半七は二人とは別ルートからの追跡を開始。そして見事、盗賊が屋根から飛び降りるポイントに先回り。

半七「待ちな!」

時代劇名優一覧・中村あずさ

半七「隼小僧だな?」

振り返った盗賊こそ、まさに「おもん太夫」を演じてるはずの中村あずささん。

時代劇名優一覧・中村あずさ

「女か・・・?」と思わず驚きの声を上げる半七に・・・。

「お父っつぁん・・・」

時代劇名優一覧・中村あずさ

「何だと?」と聞き返す半七と、ふと我に返って、すぐさま逃走を再開するあずささん。さらに追跡する半七親分ですが、かねてより通じている元老中首座・白河楽翁(丹波哲郎)が住まう築地の松平家下屋敷「浴恩園」近くで見失ってしまいます。

付近で様子を窺っているところに現れた楽翁の側近・志村小十郎(松村雄基)に案内され、楽翁の部屋に通される半七。追って来た盗賊が「ひょっとして、お屋敷内に侵入したんじゃねぇかと思いやして・・・」と申し出る半七に「そうかもしれん」と飄々と応える楽翁。表で気配がするから出てみると置いてあった、と、ハヤブサ(?)の羽根と「片山主膳の屋敷の床の間に積まれた十本のうち一本頂戴仕り候」と書かれた書状、そして一本の絵ロウソクを差し出した楽翁に「(ロウソクを)割ってみるがいい」と促された半七がロウソクを十手で叩き割ると、中から姿を現したのは二、三百両に相当する金の延べ棒。

片山主膳(江見俊太郎)というのは、賄賂政治で三十年前に失脚した田沼意次の次男で、いまの老中に取り入って若年寄にまで出世した玄蕃頭(げんばのかみ)意正の用人であり、意正が若年寄就任のためにばら撒いた金を全て調達したとされる人物で、楽翁は主膳が不正な手段で金を集めたに違いない、と半七に調査を命じるのでした。

 

さて、絵ロウソクの調査を進める一方で、半七は楽翁と隼小僧との関係に疑いを持ち、直接、楽翁を問い質すため楽翁の屋敷を再訪。楽翁は、三十年前、意次一派の失脚と同時に自身が老中首座に就任した頃、自身の前に名乗って出て来た隼小僧(里見浩太朗・二役)を見逃したことを告白します。田沼政治によって困窮する庶民を見るに見かねて義賊の真似事をしていたが、田沼一派の失脚を機に「年貢を納めることに」した隼小僧の娘・おもんが、いま父親に代わって、再び田沼一派との戦いに挑む楽翁に手を貸していたのでした。

で、半七曰く「欲の皮の突っ張った連中」が献上品持参で詣でる片山邸の天井裏に忍び込んでるあずささんなのですが・・・

時代劇名優一覧・中村あずさ

その高貴なお顔立ちが災いして、コソ泥の衣裳がまるでしっくり来ないあずささん・笑

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まさに「美し過ぎる」コソ泥・笑

で、片山の家臣・伊庭与十郎(石倉英彦)に気取られたのを察知して逸早く逃走するおもんなのですが、片山の屋敷を外で見張っていた半七に後を尾けられ、神社の祠で着替えて出て来たところを・・・

時代劇名優一覧・中村あずさ

「!」

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しっかりキャッチされるあずささん。

時代劇名優一覧・中村あずさ

素知らぬ顔で通り過ぎようとして・・・(ダメ元?)

時代劇名優一覧・中村あずさ

半 七「待ちな」
おもん「・・・」

時代劇名優一覧・中村あずさ

半 七「俺はお上から御用を預かる、三河町の半七ってもんだ・・・」
おもん「半七親分ですか・・・!」

時代劇名優一覧・中村あずさ

「お名前はよく知ってます」と白々しいおもん。「お前ぇとは、築地の浴恩園辺りで、会ったような気がするなぁ」と半七に吹っかけられても「きっとお人違いですわ、私、築地の方に行ったことないもの」と太々しく躱そうとするおもんですが、名前を聞かれたうえ住まいが両国な件まで白状させられて、もはや目が泳ぐしかないあずささん・笑

時代劇名優一覧・中村あずさ

一般的に演技派女優と見なされている(た)かどうかはともかく中村あずささん、利発な女が次第に追い詰められて行くさまを丁寧かつ自然に演じておられると思います。

ところが、それ以上の追及はせず「道は暗ぇからな、気をつけて帰ぇんなよ」と声をかける半七。「はい!ありがとうございます」とペコリと頭を下げ、そそくさとその場を逃れるおもんを見送りながら「大ぇした度胸だ・・・」と思わず唸る半七親分なのでした。

 

で、日を改めておもんの見世物小屋を訪ねる半七親分。

おもん「どうして、私がここにいることお分かりになったんです?」
半 七「御用聞きを舐めちゃいけねぇや」

時代劇名優一覧・中村あずさ

両国辺りに身軽な娘がいるとすりゃここしかない、とご尤もな半七親分と、親分より背が高いうえにスタイル良過ぎで、やっぱり時代劇っぽさが不足気味の中村あずささん・笑

半 七「ところでおもん・・・俺の顔はそんなに、お前ぇのお父っつぁんに似てるのかい」
おもん「・・・」

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その問いには応えず背を向けるおもん。

半七「どうした?話しちゃくれねぇのか・・・?」

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少し間を置いて「はい」と応えるおもん。

「若い頃のお父っつぁんにそっくりです・・・」

時代劇名優一覧・中村あずさ

父親は軽業の芸人だったこと、母親が自分を産んですぐに死んだので父親が男手ひとつで自分を育ててくれたこと、しかしその父親も三年前、「お役に立てるときが来たら、命を捨てて」楽翁に恩返しをするよう言い残して息を引き取ったこと、まで語り出すおもん。

「よく素直に話してくれた」と応えてから、自分にも男手ひとつで育てた娘がおり「俺にも、父親の気持ちは痛ぇほどよく分かる」と半七。

半 七「お前ぇのお父っつぁんも、草葉の陰できっと、心配ぇしてるぜ」
おもん「親分さん・・・」

時代劇名優一覧・中村あずさ

半七「まぁ、危ねぇ稼業だ、気を付けてやるんだぜ?」

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と言って去って行く半七を見送りながら、思わず呟くおもん。

「お父っつぁん・・・」

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この呟き加減が絶妙に「か細く」て、よく役作り考えてるなぁ~、と感心。

で、親分は立ち止まって振り返り・・・

半 七「何か言ったかい?」
おもん「あ・・・いえ・・・」

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半七を見送るあずささんのお目々から一筋の涙ポロリ。

時代劇名優一覧・中村あずさ

いや~、いかにも「人情時代劇!」と言った風の小粋なシーンだと思います(たぶん目薬だけど・笑)

 

さて、片山主膳が口入屋の佐野屋清右衛門(須永克彦)と結託、伊庭与十郎らに飛脚問屋の大坂屋へ押し入らせ、金品を奪ったばかりか店を焼き払い、その跡地で佐野屋に両替商を営ませて手持ちの金を増やそうと企んでいることを突き止めた半七は、楽翁に顛末を報告。楽翁を介して意正に片山を田沼家から追放させたうえで「浪人者」として召し取り、事件は解決します。そして世間が正月気分に浮かれている頃・・・

初詣での帰路、破魔矢を手に先を急ぐ風のおもん。

時代劇名優一覧・中村あずさ

そこへ「おもん」と呼び止める声あり。

時代劇名優一覧・中村あずさ

半 七「初詣でかい?」
おもん「ええ」

のやり取りのあと・・・

「どうして・・・私をお縄になさらなかったんですか?」

時代劇名優一覧・中村あずさ

半七「その事だがな、二代目隼小僧に入られた屋敷じゃ・・・」

時代劇名優一覧・中村あずさ

半七「どこも、後ろ暗ぇ事があると見えて、誰も訴えて出ねぇんだ・・・」

時代劇名優一覧・中村あずさ

半 七「それじゃ、お縄のしようがねぇじゃねぇか」
おもん「親分さん・・・」

時代劇名優一覧・中村あずさ

「お前ぇの、初春興行、楽しみにしてるぜ」と声をかける半七に・・・

「あのぉ・・・」

時代劇名優一覧・中村あずさ

「ひとつだけ、お願いがあります・・・!」

時代劇名優一覧・中村あずさ

おもん「聞いてくれますか・・・?」
半 七「おぅ、言ってみねぇ」

時代劇名優一覧・中村あずさ

「私、独りぼっちだから、ガラにもなくとっても寂しくなる時があるんです」

時代劇名優一覧・中村あずさ

「そんな時・・・親分さんのお顔見に行ってもいいですか?」

時代劇名優一覧・中村あずさ

「遠慮しねぇで、いつでも三河町へ来な」と応えてもらえて中村あずささん、トレードマークのえくぼを炸裂させつつ満面の笑み。

時代劇名優一覧・中村あずさ

「ただしな、天井裏からは御免だぞ?」と冷やかされて・・・

「まぁ、親分・・・」

時代劇名優一覧・中村あずさ

笑う芝居は難しいなんてよく言いますけど、中村あずささん、本当に笑い芝居を自然にやってのける女優さんでした。おまけにその笑顔がもう大そうキュートで、そいでまた泥棒なんぞやってるときのクールさとのギャップも堪らない!時代劇っぽいかどうかとか、そんな事とは別の次元で、女優としての天性の魅力を感じさせる女優さんでしたね。その後、「暴れん坊将軍」でのレギュラー出演をはじめ、太秦でも次々と大役に抜擢される事になるわけですが、「さもありなん」って感じです。