時代劇名優一覧(女優編)・池上季実子/白虎隊 前篇「京都動乱」(制作/日本テレビ 制作著作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)

日本テレビの年末時代劇第2弾「白虎隊」で、会津藩士・井上丘隅(森繁久彌)の次女・雪子を演じた池上季実子さん。
この雪子という女性は幕末期の会津に実在した人物です。藩内では美貌をもって知られていたとされており、会津藩家老・神保内蔵助の長男・修理の元に嫁ぎますが、夫を藩内の抗争で亡くし、さらに会津戦争では美濃国大垣藩の藩兵らに捕らえられて慰み者にされ、それを見とがめた土佐藩士・吉松速之助の短刀を借りて自刃した「悲劇の女性」として後世に伝えられています。
前篇の終盤、鳥羽・伏見の戦いにおいて、会津藩主・松平容保(風間杜夫)は将軍・慶喜(石田信之)の求めに応じ、藩士を戦場に置き去りにしたまま慶喜と共に海路、江戸へと逃げ帰ってしまいます。藩内では、たまたま逃亡直前まで容保の傍にいた軍事奉行の修理(国広富之)を糾弾する声が高まり、父・内蔵助(丹波哲郎)は藩の混乱を収めるため、修理に腹を切るよう言い含めます。
折も折、修理を斬るために修理の屋敷を訪れていた新撰組隊士の沖田総司(中川勝彦)と鉢合わせた修理は、「用向きは分かっている」としたうえで、明日もう一度出直して来い、と言って沖田を追い払います。
その夜、修理は庭に降る雪を眺めながら「雪の会津が懐かしい」と呟きます。「もう七年になります」と応える雪子に「もう一度見たかった」と返す修理。
「見たかった?」と聞き返す雪子。
障子を閉め雪子の正面に着座した修理、「沖田君は私を斬りに来たのか?」と雪子に尋ねます。
不意の問いかけに困惑しながらも黙って頷く雪子。
「其方を遺して逝くのは忍び難いが・・」と前置きしたうえで切腹の決意を伝える修理。
「旦那様・・」と言うなり言葉を失う雪子。
罪を負って自害するのではない、恥じることは何ひとつない、となだめる修理に食ってかかる雪子。
「罪もないのに、どうして旦那様が?」
混乱する会津藩をひとつにまとめるために誰かが責めを負わなくてはならない、分かってくれ、と諭す修理。
雪子「いやです、雪子は納得出来ません・・」
修理「武士にとってこれほど名誉なことはないのだ」
雪子「おなごに名誉などいりませぬ!」
名セリフです。
雪子「いやです、おなごに名誉などいりませぬ・・」
「旦那様を死なせたくありませぬ!」
「どうしてもと仰せなら・・・雪子もお供いたします!」
ここまで言ってから堪えきれずに嗚咽を漏らし、修理にしがみ付く雪子。
捉え方はひとそれぞれでしょうが、白虎隊の少年たちは我儘で身の程知らずな若造の集まり、容保は暗愚なただのロマンチストのように描かれていた本作、いまひとつ登場人物たちの紡ぎだす世界観に入り込めて行けないなかにあって、この池上さんのシーンだけは何度観ても心を打たれます。単なる泣きの芝居に甘んじることなく、雪子の凛とした強さを滲ませながら、気丈な女性が愛する者の前だけで見せる女の弱さを見事に表現しておられますね。さすがです。
時代劇と言えば、「源九郎旅日記」や「名奉行遠山の金さん」にレギュラー出演されていた池上さん。本作では終始シリアスなお芝居に徹しておられましたが、そのほかにも姉御キャラからコミカルな役まで幅広く演じ分ける屈指の実力派です。
少し御年を召してから演じられた、北大路欣也さん主演の「子連れ狼」に登場するドスの効いた女親分役でも、強烈な印象を残しておられましたね。