時代劇名優一覧(男優編)・菅貫太郎/名奉行 遠山の金さん(第3部・スペシャル版):大陰謀!天下分け目の桜吹雪(制作/テレビ朝日・東映)
- 2022.04.15
- 菅貫太郎
- 名奉行 遠山の金さん, 時代劇, 菅貫太郎

63年公開の映画「十三人の刺客」に残虐非道の暴君・松平斉韶役で出演、狂気に満ちたその熱演で世間を震撼させた我らがスガカン先生、クレイジーな殿様を演じさせたらピカイチという事実が知れ渡って類似の役へのオファーが殺到。
一躍、時代劇界のキープレイヤーに登り詰めたスガカン先生ですが、芸風をガラリと変えたスケベな商人を演らせても右に出る者なし。松方弘樹氏主演のテレビ時代劇「名奉行 遠山の金さん」シリーズ3作目のオープニングを飾ったスペシャル版における名場面をピックアップ。
スガカン先生が演じるのは、廻船問屋組合の元締めの立場を悪用し、力の弱い海産物商らを苦境に追い込むことも厭わず、廻船の手数料を釣り上げて暴利を貪ぼっているばかりか、老中・久我大和守(佐藤慶)らが進めている幕府への謀反の企みにも加担している大口屋。金四郎(松方弘樹)の密偵を務めるお紺(池上季実子)が芸者に化けて接近して来ます。
お 紺「こんばんわ」
大口屋「・・・!」
まずは心を込めて唸るように「おぉ~~、美形、美形ぇ~」
からの、火鉢をどかしながら猫撫で声で「ささささ、さ、こっちへ来て・・・」
のっけから「あまりに自然な」スケベ芝居。名優・菅貫太郎の凄みがヒシヒシと画面越しに伝わって来ます。
「お紺と申します、どうぞ宜しく」と挨拶をする季実子さんに「んっふっふっふ・・・」と早速伸びるスガカンの手・笑
「お手の早いこと」と軽く嗜めるお紺さんの手を握って、何とも満足そうなスガカン先生。
大口屋「お紺か・・・」
お 紺「はい」
「私は物事をズバリと決める質(たち)でね・・・」
「どうだ?月に、これで・・・」
三両?三十両??
お紺さんは「んぁっはっ」とひと笑いしてからその手を払いのけ・・・
お 紺「旦那?辰巳芸者を見損なわないでくださいよ?」
「んっはっはっはっは」と笑い出す小粋なスガカン先生。
いいですねぇ~、遊び方を心得ていらっしゃる・笑 小物だとここで怒り出すところですが、勝負は一度フラれてからと言わんばかり、全くめげずに余裕のスガカン先生・・・
「私は断られるとますます惚れるくちでねぇ・・・」
「金がイヤだと言うのなら・・・」
「これは、どうかな・・・?」
官能的な吐息を漏らしてから「いい匂い・・・」と悦んで見せるお紺さんに満足げなスガカン先生。
しかしブツが御禁制の麝香(じゃこう)である事に気づくお紺。そうとも知らずにスガカン先生。
「これはね・・・」
「ちょっとやそっとじゃ手に入らない珍しい香料でねぇ・・・」
「お前がうんと言ってくれれば、あげてもい・い・ん・だ・よ?」
スガカン演じる助平商人、緩急自在に操られる技巧を凝らしたセリフ回しながら、やはり全くわざとらしさを感じさせません。
「まぁ、嬉しい・・・頂きます・・・」とブリっ子をして見せるお紺の手に・・・
ポトリと匂い袋を落としてこの表情・・・笑
身は悪徳商人なのに女性を前にするとエラぶるでもなくソフトなおじ様路線に徹してスマートに迫る大口屋。何と言うか・・・ 淡々とやってのけてるように見えて、役作りが物凄く深いんですよね。
で、スガカン先生が一瞬、目を離した隙に、御猪口に眠り薬を仕込むお紺さん。そうとは知らずにスガカン先生。
「どうだ?お前も一杯・・・」
すかさず「私よりもまず、大口屋の旦那様からどうぞ」と仕掛けるお紺さん。
「んん?」
可愛い・笑 ここからの長回しが名優・菅貫太郎の真骨頂。
「身も心も私はもう旦那様のもの・・・」と煽るお紺。
お 紺「お酒を頂く前から、何だかボーッとして来ました」
大口屋「ぶふっ!」
「可愛い事を言う・・・」
カッカッカッと笑ってから一気に飲み干して・・・
「お゙~ぅぁぅあぅ・・・」とホッペに零れたお酒を手で拭き取るべくピタピタ・・・
芸が細かい・・・笑
「さ、一献だ、お前が・・・」
しかし注ごうとするなり睡魔に襲われるスガカン先生。
以降、緻密なお芝居の組み立てぶりが圧巻のスガカンワールドをお楽しみください。
お 紺「どうかなさいました?」
「いやぃゃ・・・」
「んぁ・・・」
「ぅ゙・・・?」
「急に・・・」
「ぅぉぉ・・・」
「はっ・・・」
「・・・」
「あふっ・・・?」
「んぁ゙・・・」
「ちょ・・ちょ・・・」
どてっ!
そのまま鼾をかいて寝込んでしまったスガカン先生。肌身離さず持ち歩いている、謀反のために用意した大量の鉄砲や火薬を隠してある蔵の鍵を、まんまとお紺さんに盗まれてしまうのでありました。
・・・は、ともかく。分かりますかね?この芸の細かさ繊細さ。スガカン先生、お酒をグイとひと呑みしてから眠り込むまで実に30秒も引っ張っておられるのですが、全く観る者を飽きさせないんですよね。こういう台本上はベタなシーンであればこそ、並の役者が真似したところで5秒もしないうちにどっちらけになった挙句、挽回しようとすればするほど深みに嵌まってしまう情景が目に浮かぶわけですが、さすがはスガカン先生。まるで他を寄せ付けない、息をするようにナチュラルな仕上がりぶり。まさに「名人」の一言に尽きると思います。
ちなみに本作、スガカン先生に負けず劣らず、金四郎と敵対関係にある南町奉行・鳥居甲斐守役で登場する中村嘉葎雄先生もまた、燻し銀と呼ぶに相応しい名演技を披露して下さっており、見所満載です。
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