時代劇名シーン一覧/新・松平右近 第17話「浮世絵女の怨み唄」(制作/ユニオン映画・六本木オフィス 制作協力/東映太秦映像)より

前作、松平右近事件帳のレギュラー陣をほぼ一新。右近(里見浩太朗)の住む神田いろは長屋の大家、おきわ役に野川由美子氏、定職にも就かず駄賃稼ぎで生計を立てている店子のひとり、音松役に火野正平氏を迎えてスタートした「新松平右近」。
江戸っ子気質で勝気な姉御肌のおきわと、お調子者の音松。そんな二人の軽妙なやり取りが特に冴え渡っていたのがシリーズ第17話「浮世絵女の怨み唄」です。
まずは、金物問屋・井筒屋の内儀、おふう(久仁亮子)が首を吊って自害した事件に絵師の兼吉(三田明)が関わっていると睨んだおきわが、兼吉の素行調査を依頼しようと、風呂屋でアルバイト(?)に勤しむ音松のもとを訪れるシーン。
ポップなリズムベースをBGMに、せっせと働く音松。
薪を割って・・・
釜にくべ・・・
竹筒でふぅふぅふぅ・・・
湯の沸き具合をチェック・・・
あちちち・・・(笑)
柄杓で沸いた湯を汲んで・・・
浴槽へ・・・
と思いきや、柄杓を投げ捨て・・・
女湯覗き(笑)
ぬっと伸びて来る女の手。
耳を引っぱられて・・・
振り返ると・・・
満面の笑みのおきわさん(笑)
おきわ「何やってんの?」
音松 「あぁ、あのねぇ、湯加減見てんの」
おきわ「あ、ほんと?覗いただけで湯加減分かるの?」
音松 「分かるよ、湯気の立ち具合で・・」
おきわの嫌味も強烈ですが、音松の返しも秀逸ですねぇ(笑)
「手借りたいんだけどな」と持ちかけるおきわに「だめ!」と歯牙にもかけない音松。
おきわ「あ、そっか・・。ちょっと番屋寄ってこうかなぁ、丈八親分いるかなぁ?」
音松 「何、丈八親分・・?」
丈八親分は深江章喜氏演じる頑固で短気な目明しです。困惑の色を浮かべる音松。
おきわ「うん、女湯覗いてたのがいるってね」
「あ!ちょ、ちょ、ちょ、おきわさん!」と慌てて止めようとする音松。
「男こっち」と、ニーズがあるのかないのか、よく分からないフォロー(笑)
場面変わって・・・
おきわの言いつけ通り、兼吉を尾行していた音松ですが、街でどこぞのお妾さん風の若い女を見かけるや、兼吉をほっぽって女の尾行を開始。
妾宅と思しきお家までついて来て着替えを覗いてる音松(笑)
そこへ「おい!おぉい!」とおきわさん登場。
慌てて駆け寄る音松に「今度は何加減見てんだい?」と、まずは穏やかにジャブを打ち込むおきわさん(笑)
「仕事どうなってんのよ!?」と、すぐさま叱責モードに豹変するおきわさんに対して「いまご報告に上がろうと思ってたところでございます」と低姿勢に徹する音松。
おきわ「ちゃんと調べた?」
音松 「あの~、あいつねぇ、昼間っからさぁ、居酒屋でこれやってるよ」
兼吉の金回りの良さを強調する音松。
「金づる掴んでんじゃないの?」
音松 「コレだと思うよ」
おきわ「女かい?」
「その女、調べた?」の問いに「いやいや、オレの勘だから」と事もなげに言い放つ音松にブチぎれるおきわ(笑)
「オレの勘!?」
「んぁっ!」とエラそうに頷く音松に、心から忌々しげに「どうっしようもないねぇお前だけは」と毒づくおきわ。
音松 「は?」
この2人の温度感の差異が、もう可笑し過ぎて何とも言えません(笑)
おきわ「へ?じゃないでしょ、ちゃんと調べてくんなきゃ困んじゃないのよ!」
「はい、すぐあの、調べます」と聞き分けのよい音松ですが・・・
すかさず・・・(笑)
おきわ「何だその手」
音松 「え?追加分」
おきわ「オレの勘には払えません!」
(笑)
「あ」と適当に頷いて覗きに戻る音松にすかさず「おぉい!」とおきわ。
「はい?」と慌てて振り返る音松を睨みつけながら凄むおきわさん(笑)
「こっちだろ?」
「あ、あぁ、へい、ほい、ほい」とわけの分からない踊りを踊りながら、素直におきわが指さした方向へと消えていく音松でした(笑)
野川氏と火野氏の名コンビは、その後、同じくユニオン映画の制作により日本テレビ系列で放送された里見氏主演の「長七郎江戸日記」にもレギュラー出演。それぞれ読売屋「夢楽堂」の女主人・おれんと雇い人・辰三郎という、シリーズに欠かせない主要キャラクターとして活躍されました。新右近のおきわと音松同様、毎度繰り広げられるお二人の見事なかけ合いが、物語にいつもながらほっこりとした笑いの要素を吹き込んでくれていましたね。
それにしても火野氏の飄々としたお芝居は本当に独特と言うか、余人には真似のできない芸当の域に達していたと思います。今回取り上げた、音松が風呂屋で働いているシーンのコミカルな動きは、おそらく監督の演出でも台本の指示でもなく火野氏のアドリブだと思いますが、このような動きで見せるお芝居以外にも、演技全般に渡って芝居臭さを感じさせることなく、音松や辰三郎といったちょっととぼけたキャラクターを、ごくごく自然体で演じておられました。
どちらかというと私生活の充実ぶり(?)ばかりが世間の耳目を集めがちだった火野氏ですが、いち役者さんとしても「天才」と呼ぶにふさわしい実力派なのではないでしょうか。