時代劇名優一覧(女優編)・片山由香/暴れん坊将軍IV 第13話:恋の細道、通りゃんせ!(制作/テレビ朝日・東映)

初代東映ミス映画村の肩書きを引っ提げ、TBSは月曜夜8時枠の「水戸黄門」や「江戸を斬る」では一時期レギュラー出演もされていた片山由香さん。他局の時代劇にも単発でちらほらゲスト出演されていたのですが、その場合、同じミス映画村出身の加藤由美さんや武田京子さんとは対照的に、もうとにかく「不幸」とか「哀れ」とか「惨め」といったネガティヴなキーワードでしか説明できない、負のオーラ全開の悲惨な女役にばかりキャスティングされていた印象があります。
その代表例が本作。現場でケガをして仕事を失った大工の父親がやけを起こし、喧嘩沙汰で人を殺してしまったばかりに、自分までもがまともな職に就けなくなり、品川の岡場所に身を落とすほかなかった女・お糸を演じる由香さん。ついでに労咳持ちで先も長くないお糸が、一生の最後の最後に、ほんのひとときだけ幸せな時間を過ごせました、というお話なのですが、とは言え観てる側は、もう画面に登場するだけで「可哀想」としか思えないあまりに極端なキャラ設定をされてしまったお糸さんを、息をするかの如く、ごくごくナチュラルに(笑)演じ切っておられます。
御側御用取次の田之倉孫兵衛(船越英二)が大奥の御広座敷で年寄・二条局(水原まき)と用談中に倒れます。奥医師・安宅法印(小笠原弘)は卒中と診立て、食事制限ばかりか以後、お役目を務めるのも無理だと吉宗(松平健)に進言するのですが、改めて吉宗が見舞いに訪れたその夜、奥医師見習いにあたる御目見医・坪内精四郎(片岡弘貴)は、孫兵衛の症状は貧血かもしれず、そうであれば滋養のあるものを食べなければならない、と、法印とはまるで反対の事を言い出し、虫下しを飲むよう孫兵衛に勧めます。
精四郎の言うとおりに虫下しを飲んだら、尻から「大物」が出て来て(笑)快癒した孫兵衛が大喜びするなか、お葉(伊藤つかさ)ほか、かつて共に働いていた小石川養生所の仲間たちと川崎大師へと出かけた帰路、品川宿を通りかかった精四郎の前に登場するのが、岡場所から足抜けしてゴロンボたちに追われている設定の由香さん。
完璧なお芝居の賜物か、はたまた、ただ単に運動神経の問題か、見事に足がもつれる由香さん・笑
鉄次(当銀長太郎)以下のゴロンボたちに捕まって袋叩きの由香さん・笑
もう、のっけから可哀想過ぎます。やめてあげてー。
どこからともなく現れた、この土地の親分で岡場所の「ひさご」を経営する鮫州の嘉右衛門(江幡高志)の命令で「足抜きの罰がどんなものか、たっぷり思い知ら」されることになった由香さんですが・・・
苦しそうに渾身の咳をゲホッゲホッ!
「胸をひどくやられている」とたまらず嘉右衛門たちの前に立ちはだかる精四郎。
そんな精四郎に気付いて思わず顔を歪めるお糸。
ここで子役二人のカットが挿入され、どうやら二人は幼馴染の模様です。
もちろん、そんな事情に関わりなく鉄次たちに連行される由香さんのカット。
ライオンに仕留められた子鹿を思わせる見事なまでの無力感・笑
さて、法印付きのもう一人の御目見医・松原久之助(高見裕也)が、精四郎は品川の女郎と馴染みで見受け話まで進んでいる、などと法印にご注進するなか、ひさごにはお糸を看病する精四郎の姿が。
「いけない。もう帰って・・・」と、お糸。
「お家で心配していらっしゃるわ、奥様が・・・」
精四郎に対する仄かな恋心を窺わせる意味深なセリフ。ここでもう男性視聴者のハート鷲掴みちゃうのん?
精四郎が「(結婚は)まだなんだ」と応えるのを聞いてから、やおら身を起こすお糸。精四郎はお糸の脈を取ろうとするのですが・・・
「ダメ」と腕を引くお糸。
「触らないで・・・貴方のご身分に傷が付くわ・・・」
「貴方は、これからどんなにでも出世する体なんだもの」
「こんな汚れた、卑しい女に触ってはいけないわ・・・」
「お前はちっとも汚れてなんかいやしないさ」「私にとっては、昔のまんまの、あの頬っぺたの赤いお糸ちゃんだ」「身体だってきっと治る!いや・・・この私が治して見せる!」と精四郎は優しい言葉を続けるのですが・・・
寂しそうに頭(かぶり)を振るお糸。
「私には分かってるの・・・もう、長くはないわ・・・」
「そんなことあるもんか!」と語気を強める精四郎ですが「いいの、もう」と精四郎の方を見て力なく笑うお糸。
「遭えないと思っていた精四郎さんに、こうして遭えたんですもの」
で、ここからお糸によって女郎に転落するまでの経緯(本頁冒頭参照)が説明調のセリフによって語られるのですが、ちょっとシーンが間延びして興ざめ。
しかしお相手役の片岡弘貴氏が静かなる熱演ですぐさま挽回。「お糸ちゃんには何の罪もないんだ」「一緒になる約束を破って、見捨てるような私だと?」と男前なセリフの連続射撃。しかし「貴方がその気でも、お母様が御許しにはならないわ」とお糸。
「私、貴方を苦しめたくなかった・・・」
どこまでも健気なお糸=由香さんの好感度が鰻登りに登りきったところで、嘉右衛門親分と子分の鉄次が登場。
精四郎「お金を持って来てくれましたか?」
お 糸「精四郎さん!お金って!?」
実は鉄次に頼んで母・津留(小柳圭子)に手紙を届けさせ、お糸の見受け代・三十両を工面していた精四郎。鉄次は間違いなく都留から受け取った三十両を持って来たのですが、精四郎がご典医と知って強請にかかる性悪な嘉右衛門親分。
嘉右衛門「三十両やそこらじゃお糸は渡せねぇ」
嘉右衛門「口止め料が~七十両・・・」
嘉右衛門「合わせて百両で、手を打とうじゃねぇか」
キレて嘉右衛門に掴みかかるお糸・笑
ここへ来て一気に表情が豊かになる由香さん。キュートです。
さて、乱闘騒ぎの末に精四郎はお糸を連れてひさごを脱走。嘉右衛門が後を追うのですが、法印や二条局と結託して孫兵衛の追い落としを画策する若年寄・大和田甲斐守(名和宏)の腹心、原島重兵衛(曽根晴美)が現れて嘉右衛門を斬殺。その場に駆け付けた鉄次には、精四郎を捕らえ、嘉右衛門殺しの下手人として宿場役人へ突き出すよう因果を含めます。
鉄次と子分たちは精四郎とお糸に追いつくのですが、そこへ颯爽と登場した新さんにボコボコにされて全員逃亡・笑 その隙に逃げ遂せた二人は、お糸が生まれ育った深川の長屋に潜伏、精四郎はお糸にとって思い出の詰まったその長屋でお糸の看病を続けることを決意します。
何かもう幽霊みたいな雰囲気を漂わせながら、童謡「とおりゃんせ」を口ずさんでる由香さん。
「生命の火が消えかかってる」感が半端ない・・・(汗
傍に来て「疲れないか?」と気遣う精四郎に「大丈夫」と応えてから語り始める由香さん。
「私ね、夢を見てたの・・・七つか八つの頃の私・・・」
「長屋の入り口にある、あのお地蔵さまのとこで・・・線香花火をしてるの・・・」
「傍には、精四郎さん・・・貴方がいて・・・」
そして(とても線香花火とは思えない豪快な噴き出し花火を楽しむ子役二人の映像が挿入された後)笑みを浮かべる由香さんの目から涙がぽろり。
無慈悲な運命に翻弄され続けて来たお糸に一瞬だけ訪れた安らぎのひとときですね。ただでさえ切ないシーンに、由香さんならではの薄幸の見本市のようなオーラが彩りを添えます。
しかし既に精四郎とお糸には、二人が深川界隈に潜伏しているものと当りをつけた重兵衛と鉄次らの魔の手が迫っていたのでした。
シーン変わって、引き続きお糸を献身的に看病している精四郎。
「美味いかい?」と尋ねる精四郎に応えるお糸。
「もったいない・・・私なんかのために」
そこで非情にも乱暴に表戸を開ける音がして、弟分の池松(志茂山高也)らを引き連れた鉄次と共に重兵衛が登場。
重兵衛「一緒に来るんだ。その女もな」
「いやだ!この人は病人なんだ、いま動かすことは医者として出来ない!」と抗う精四郎。
ここで流れ始める「夜明け」(松平健)のイントロ(←これ、演出上かなり重要・笑)
「なら仕方ない、この場で死んでもらう事になる」と重兵衛が言い放ち、二人は逃げようとするのですが・・・
鉄次と池松にあっさり捕まる二人。この辺りからスローモーション映像。
刀を抜いた重兵衛から・・・
身を挺して精四郎を庇うお糸。
重兵衛によって振り下ろされる渾身の一太刀。
んー、これまたいい表情だわ。
新さんが踏み込んで来ますが時すでに遅し。「夜明け」がサビ(「さぁ~、お~やす~みよ~」)に差しかかる中、畳の上に倒れ込むお糸。
最後の力を振り絞って顔を上げるが・・・
ついに力尽きるお糸。
新さんが重兵衛以下の全員を撃退してスローモーションは終了。倒れたお糸に駆け寄る精四郎。
精四郎「お糸ちゃん、しっかりしろ!気を確かに持て!」
「思い出のいっぱい詰まった、懐かしいこの部屋で、貴方に看病してもらえて・・・幸せでした・・・」
「私の、一生の最後に・・・美しい夢を見させてくれて・・・ありがとう・・・」
由香さんのお芝居すんげーいいのに、セリフ(台本)が何かクサいな。
一度、軽めに苦悶の表情を浮かべておいてから・・・
息絶える、芸の細かい由香さん。
精四郎「お糸・・・お糸・・・お糸!・・お糸ぉぉ!」
最後にもういっちょアップ。
賛辞になるかどうかは分からないが、由香さんの死に(マネ)顔は本当に美しいと思う・・・
片山由香さん、お顔立ちは整っていてお声も可愛らしいのですが、もうとにかく、多くのスター女優さんたちと違って派手さがない。まぁはっきり言ってしまえば、女優としては「華がない」って事なんでしょうけれども(注:悪口ではありません)、であるがゆえに、お糸のような、救われない人生を歩みながらも健気に振舞い続ける女を演じるとピタリとハマって、台本に込められた物哀しいストーリーの世界観が色鮮やかに再現されるわけです。スターと呼ばれる女優さんがお糸のような女を演じても、演じてる感が前面に出て来てつまらないんじゃないですかね。
本作の脚本担当は高橋稔氏。東映京都の時代劇では暴れん坊将軍シリーズを除いて、あまり名前をお見かけしない方だと思いますが、よくもまぁ、ここまで一人の女を哀れに描き切ったものだと感心してしまいます。て言うか、お糸ちゃん、あんまり可哀想で、最後やっぱり死んじゃうの?何とか助けてあげられないの?とか思ってしまいますけれども(笑)、まぁ、それこそが氏の狙いですよね。途中、変に間延びするシーンがあったり、セリフにおける言葉のチョイスひとつとっても、時代劇ならではの妙を感じさせるものではないのですけれども、大枠のキャラ設定やシナリオ構成はよくよく練り込まれていて、大変面白い作品だったと思います。