時代劇名優一覧(女優編)・田島令子/名奉行 遠山の金さん 第10話:お仙が拾った子(制作/テレビ朝日・東映)
- 2021.02.18
- 田島令子
- 名奉行 遠山の金さん, 時代劇, 本田英郎, 田島令子

今回取り上げまするは、オカメ系で鳴らした(?)沢田雅美さんとかに何処か通じるお顔立ちながら、よく通る美しい声、一言一句が耳に心地よく紡がれるセリフ回し、そして喜怒哀楽の変化を感じさせない、凍るような透明感に満ちた目力で、余人とは一線を画す独特の雰囲気を漂わせていた演技派女優・田島令子さん。松方弘樹氏主演の人気時代劇「名奉行 遠山の金さん」シリーズ初期の出演作をピックアップ。
上野山池之端で薬種問屋・山海堂の主、庄右衛門(有島淳平)が殺害されます。殺害現場を捜索していた金四郎(松方弘樹)は、手裏剣の刺さった独楽を発見。一方、お仙(坂口良子)は、とある路地裏で迷子になっていた男児(福原学)を保護して番屋に届け出るのですが、南町の同心・間半平(柳沢慎吾)や大家の幸兵衛(長門裕之)の意向により、お仙が男児の面倒を見る羽目に。そして桜湯への帰路、手裏剣遣いの鉄次(笹木俊志)に襲撃されるお仙と男児。
まるで予期していたように現れて二人を救った金四郎は、男児が腰に巻いていた紐が庄右衛門の殺害現場に落ちていた独楽用の紐であることに気付くのですが、どうやら記憶を失くしてしまっている様子の男児。
そんなある日、桜湯の女風呂でイタズラをしてお仙に叱られ逃げ出した男児を、神社の境内で見つけた金四郎とお仙。そんな三人の様子を窺っている女が、庄右衛門の葬儀で見かけた庄右衛門の女房・お才であることに気付いた金四郎がお才に声をかけるのですが、このお才を演じる女優さんこそ、我らが田島令子さん。
金四郎「糸が切れた凧みてぇに、全く面目次第もございやせん」
お 才「あ、いえ、あんなにいいおかみさんと坊やがいるじゃありませんか・・・」
「私たちの間にも、男の子がいてくれたら、さぞよかったかと・・・つい羨ましくなり、見とれておりました・・・」としんみりするお才に「ところで、今日(こんち)、天神さまへお詣りに?」と尋ねる金四郎。
「旦那様が、あんな死に方をしましたので、さぞ、成仏できないだろうと思い、どうか、一日も早く、咎人(とがにん)がお縄になりますようにって、方々のお寺や、お社を巡り歩いているんです・・・」
令子さん、やはり、すごく丁寧にセリフを読まれる女優さんです。滑舌も驚くほどクリアで、こりゃもう職人技の域に達しとるわ・・・
で、「ところで、おかみさん」と、金四郎は例の独楽を取り出して「こいつに、見覚えございませんか?」と尋ねるのですが・・・。
「いいえ、一向に・・・この独楽がどうかしましたか?」
「落ちてたんですよ、旦那が、殺された場所の近くに・・・」と言ってお才の反応を窺う金四郎と、明らかに気がかりな様子のお才さん。
「じゃぁ、観音堂の前に?」
さらにお才さん、「この独楽が、何かの手がかりになるんですか?」と食い下がってクロ確定・笑
金四郎がお才と分かれてから、今度はチンピラ四人(志茂山高也/白井滋郎/池田謙治/細川純一)を率いる鉄次に襲われるお仙と男児。しかし、その場を通りがかった北町の同心・水木新吾(東山紀之)が助けに入って、この襲撃も失敗。夜には庄右衛門を殺害した浪人・山根三九郎(石橋雅史)と共に現れた鉄次が、性懲りもなく男児を殺そうと桜湯に侵入を図るのですが、またしても金四郎が登場し、あっけなく敗走する二人。
そんなある日、本当に寺巡りをしているらしいお才の前に躍り出る一人の女あり。
「わたくし・・・おしのと言います・・・」と、庄右衛門の妾・おしのを演じる甲斐智枝美さんが名乗ると、田舎っぺ丸出しの下女(田中和子)に「お前これで、お団子でも食べておいで」と小銭を掴ませる令子さん。
お 才「あなたと旦那様の事は勘付いていました・・・女ですもの・・・」
おしの「申し訳ありません・・・悪い悪いと思いながら・・・」
おしの「庄太もいるので、ついお情けに甘えて・・・」
お 才「庄太・・・」
庄太はどこにいるのか、とお才に尋ね「知ってるんでしょ?教えてください!」とお才に懇願するおしの。
「ちょっと待ってください・・・」
庄太なる子どもの事は二月ほど前に庄右衛門から聞かされたとは言え、令子さん。
「びっくりはしましたけど、まだ一度も会ったことはないんですよ?」
庄右衛門が殺された日、庄右衛門はお才に引き合わせるために庄太を連れて行った、と尚も食い下がるおしのに、何の前触れもなく、いきなり慈悲のカケラもない事を言い出す令子さん・笑
「まさか拐かされたのでは・・・?」
「おかみさん!」と半泣きになるおしのに「人を頼んで探しましょう」とあくまで冷静な態の令子さん。
「例えどんな経緯(いきさつ)があれ、旦那様の子どもはわたくしにとっても子どもです・・・」
「二人で、力を合わせて探しましょう?」
の後に、ごく自然に、さり気な~く、ナチュラルに・笑
「あなた、お住まいは?」
「鳥越神社裏の、しのという絵草紙屋で・・・」とバカ正直に答えたおしの邸に夜も更けてから現れる訪問客は石橋雅史氏・笑 おしのは腕を斬られて大ケガをしますが、既(すんで)の所で金さんが登場して三九郎を撃退。金四郎に心を開いたおしのは、例の独楽の持ち主が、自分と庄右衛門の子ども=庄太であることを認めます。
一方、とある屋形船では、金四郎が与力の瓢兵衛(ケーシー高峰)に命じて江戸中の瓦版屋に刷らせた「おしの襲撃」の一件を報じる読売を手にしながら、蔑むような眼差しで三九郎を見据える令子さんの姿。
「頼りになりませんねぇ?」
まるで立つ瀬のない三九郎、「今度こそ、止めを刺す!」とイキがって見せるのですが、手にした団扇をパタパタやりながら、かったるそうに応える令子さん。
「慌てないでくださいよ」
「旦那一人じゃ、手の出ない相手のようですねぇ?」と嫌味をひとつタレてから、わざとらしく胸をはだける令子さん。
「まったく・・・鬱陶しいねぇ・・・」
ついでに裾から美味しそうなふくらはぎまで覗いてて、たまらなくなった三九郎が令子さんと行為に及ぼうとするのですが、瞬時に三九郎の腰から奪った短刀を抜いて貞操をガードする令子さん。
「言ったはずですよ?万事がうまく仕上がったら・・・」
パチンと納刀しつつ、射るような目線で、セリフにはドスを利かせながら・・・
「舐めちゃいけませんねぇ?」
いや、もう令子さん、ここまで来ると芝居の上手い下手とかの次元を超えて、単純にカッコええわ・笑
で、三九郎、鉄次以下、大勢のチンピラと浪人者まで駆り出して、桜湯に総攻撃を仕掛ける令子さん。庄太を連れ出して逃げるお仙の前に立ちはだかります。
お仙「庄右衛門を殺ったの、お前だね?」
お才「隠し子を作って私を裏切った・・・殺されて当り前さ!」
この氷のように冷たい目!シビれるわ~・笑
さらに・・・
お仙「だから、庄太もおしのも、消そうとしたんだね?」
お才「よくお見通しね・・・」
「そ、山海堂の身代は、竈(かまど)の下の灰までも、この私の物さ!」
だからあんな爺むさい庄右衛門の女房になってやったんだ、と令子さん。「見上げた悪だね、お前も」とせせら笑うお仙に・・・
「遺言はそれだけかい・・・?消しておしまいっ!」
お仙に襲い掛かるチンピラたち。多勢に無勢で追い詰められたお仙に斬りかかろうとした三九郎の頭巾を、金四郎が投じた独楽がめくって三九郎の顔が露わに。「こいつだ!こいつがちゃんを殺した!」と記憶が戻った庄太。お才の顔を見て「この女もいた!」
「!」
そこへ「みんな聞かしてもらったぜぇ?」と金さん登場。
「片付けておしまいっ!」とクールな令子さんと、これまたカッチョイイ福本清三氏の貴重なツーショット!
東山紀之氏まで登場して大立ち回りがスタート、ひとしきり暴れた金四郎が「頃は望月この明かり、面ぁ隠すも無駄なこった・・・おぅ、そこの化け猫ぅ!?」と凄む。
「・・・!」
「この夜桜が、この世の、見納めだぃ!」と桜吹雪の御開帳。
ハッと驚く令子さん。
で、令子さん以外は皆バッタバッタと倒されて・・・
「・・・!」
それでも「ふぅっ!」と気を発して金四郎に向かっていく・・・
勇敢な・・・
お才さんでした。
そしていよいよお白州の場面。お奉行様が「一同の者、面を上げぃ」
お才の罪状を諳(そら)んじた金四郎が「それに相違ないか?」と問うと「怖れながら申し上げます」と令子さん。
「お言葉の一切、全く身に覚えのない事でございます」
三九郎にもとぼけられ「証人!これへ」とおしのを召し出す金四郎。おしのは三九郎が自分を殺そうとした浪人者だと証言するのですが、「お奉行様、恐れながら」と割って入る令子さん。
「お白州では、証人との対決も許されるとか・・・」
「差し許す」と金四郎の許可を得た令子さん、「さて、おしのさんとやら?」と静かに切り出し、本当にこの浪人の顔をはっきり見たのか、と穏やかにおしのを問い質します。「はい、たしかにそのご浪人さんの目でした」と応えるおしのに、キョトンとした表情で・・・
「目を見た・・・目だけですか?」
「頭巾をしていたので、目しか・・・」としどろもどろになるおしのさんに、クスリと笑って令子さん。
「あやふやなお話ですねぇ?」
おしのが黙りこくってしまうのを見て金四郎、何ゆえ三九郎ごときを庇うのか?と、ごもっともな疑問をぶつけるのですが「とんでもございません」と令子さん。
「わたくしはただただ、お奉行様大事と思っての口出しでございます」
「おぅ、儂(わし)のためか?」と金四郎。
「はい・・・お奉行様は、わたくしたち江戸庶民の守り神と信じております。そのお奉行様が、もし、咎人の取り違えなどをなされましてはと、つい差し出がましい事を申し上げました。どうかお許しを・・・」
やはりセリフの一言一句を逐一丁寧になぞってみせる令子さん、淀みのカケラも感じさせない堂々たる貫録。
で、「なるほど、では其の方に礼を申さねばならぬな」と笑う金四郎に、しおらしく恐れ入る令子さん・笑
「お言葉、恐れ入ります・・・」
続いて「次なる証人!これへっ!」と呼び出されたのは庄太クン。「庄太、お前、このおじさんやおばさんを、知っているか?」と金四郎に問われ、「うん、見た!」と屈託なく応える庄太。「どこで見た?」と金四郎に訊かれて「山で!」と応える庄太に、優しく語りかける令子さん。
「坊や・・・?」
「よぉ~くご覧・・・」
「お山で見た顔・・・」と、ここで声色一変して令子さん。
「こんな顔だっ・・た・・?」
(笑)
幼児虐待レベルのホラーな表情で迫る令子さん。編集さんは編集さんで、ここでお化けが出たときの効果音なんて入れてみたりして。もうここまでやられたら笑うしかない・・・
「違う顔だったでしょう?そうでしょう?」と、気迫とも怨念とも形容しがたい未知の様相を帯びるダメ押しが効いて、コクリと頷くしかない庄太・笑
一転して柔和な表情と穏やかなトーンに戻った令子さん。
「お奉行様、ご覧のとおりでございます・・・」
ご覧のとおり、て・・・笑
で、三九郎が、金四郎自ら読んだ証人の証言によって自分たちの疑いは晴れた、と指摘したのをきっかけに「証拠を見せろ!」と後ろに控えるザコの人たちが騒ぎ出すなか、涼しい顔の令子さん。
しかし「ガタガタ騒ぐねぃ、木っ端ぁ・・・」と一喝する金四郎。「おぅお才、虫も殺さぬその顔を、仏のお才と評判の、二重三重にこってりと、化けて世間は騙せても、八百八町に隠れもねぇ、この遠山桜ぁ、騙せねぇぞぉ!?」と二度目の桜吹雪。
「!」
その辺の小悪党と違って、ここでガックリ崩れ落ちたりしないお才さん、観念してもこの表情。
ひゅ~、イカすねぇ~。
で、三九郎、鉄次共々、市中引き回しのうえ打ち首獄門の判決が下るお才さん・・・
最後の最後、引っ立てられ際にこの捨て台詞。
「お奉行様!この恨み、地獄の底からきっとお届けしますからね!」
ん~ この期に及んで何でか滲み出る色気が堪らない・・・ 最後の最後まで魔性の女・お才を演じきった令子さん、ブラボー!であります。
田島令子さん、テレビ時代劇においては、やはり悪役にキャスティングされた際のお芝居がひときわ印象に残る女優さんでしたが、時にヒロイン役も堂々と演じておられましたね。
しかし本作においてはキワモノすれすれと言うか・・・もうお白州のシーンの「こんな顔だった?」が強烈過ぎて(笑)、あれ、誰が真似出来るの?と、ただただ唖然とさせられてしまうわけですが しかし改めて全編を鑑賞いたしますと、決して奇をてらったお芝居でも何でもなくて、むしろ(お才の)キャラ設定そのものは話の始まりから終わりまで清々しい程に一貫しており、よく考え尽くされてるなぁ~と感心させられる一方、何でか一カ所だけ突き抜けちゃった感じで(笑)、いやー、一体どういう事を考えながら役作りされてるんだろう?とか、色んな事が気になって来てしまいます。
なお本作の脚本担当は本田英郎氏。令子さんのお芝居もさることながら、お才というキャラクターを創作した本田氏もまた素晴らしいですね。その人物描写の丁寧な仕事ぶりには本当に頭が下がります。
お白州での攻防で「其の方、なかなかの利口者よの」と金四郎に言わしめた頭脳明晰ぶりや、最後の捨て台詞に象徴される、どんな状況に陥っても屈しないタフなメンタルとは対照的に、「隠し子を作って私を裏切った」のセリフから透けて見える、そうは言ってもその内面に潜在する「女の」思考回路とか、考察すればするほどこの「お才」という女性、味わい深いキャラクターに仕上がっていると思います。