時代劇名優一覧(女優編)・藤江リカ/名奉行 遠山の金さん(第3部)第20話:女房に誓った鬼十手(制作/テレビ朝日・東映)

時代劇名優一覧(女優編)・藤江リカ/名奉行 遠山の金さん(第3部)第20話:女房に誓った鬼十手(制作/テレビ朝日・東映)

往年の時代劇(現代劇でもええけど)ファンなら、名前は知らなくてもお顔を見れば一発で「あー、いた~」となるであろう、超個性派女優の藤江リカさん。ヒロイン役としての出演の記憶は皆無、筋金入りの悪役とは言わないまでも、例えば悪徳女郎屋の女将のような「意地の悪い」女の役をやらしたらピカイチという感じでしたが、演技の幅は実に広く、ときには長屋にいる世話焼きなおかみさん(=善人)役を演じてみたり、あとコメディアスな役どころも大そう得意にしておられたように思います。

そんな藤江リカさんが、いかにもインチキ丸出しの女祈祷師「大歌女(おおうため)様」を演じられた、正しくリカさんの魅力が凝縮された作品とも言うべき、松方弘樹氏主演の人気時代劇「名奉行 遠山の金さん」シリーズの一作をピックアップ。

 

まずは「大歌女様」が深川に構える祈祷所へ、神田駿河台で読売屋の版元を営む三国屋藤兵衛(近藤準)がお悩み相談に訪れるシーン。

カウンセリング担当(?)の橋之助(潮哲也)に「お悩みはどんな事で?」と促された藤兵衛曰く、三月前に急な病にかかった一人息子の正太郎を吉田玄徳(辻喬次郎)という街医者の元に担ぎ込んだら玄徳が薬を取り違えたために正太郎は死んでしまったらしく、「これじゃ・・・倅が、あんまりで・・・」と藤兵衛がめそめそ泣き出したところで、橋之助が隣の間に向かって「大歌女様!お聞きになられましたか?」と尋ねると、襖が勝手にスルスルとオープン・・・

時代劇名優一覧・藤江リカ

いや、もうどっから突っ込んだらいいのか分からない・・・笑 照明、調度、立ち上る煙、もちろんご本人の姿形まで「何もかもが妖し過ぎる」状態で、満を持してのリカさん登場。白目剥いてんのか思たら目を閉じた状態で・笑

「三国屋殿、さぞご無念でしょうぅなぁ~~」

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「心底、玄徳を・・・恨んでおります!」と藤兵衛。すると、おもむろに「カッ」と目を見開き・・・

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リカさんのトレードマークとも言うべきアクの強いシャガレ声で言葉の端々にドスを利かせながら・・・

「御仏が私の身体に宿られて、お前様にご託宣を下さるでありまっしょぅぅ・・・」

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藤兵衛に「どうか、お祈りをして下さいまし・・・」と乞われ「分かりました・・・」と不気味に応えると、火の燃え盛る護摩壇の方を向いて座り直し、「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙~~」と、にしおかすみこも裸足で逃げ出しそうな渾身の呻き声をあげながら、いかにも胡散臭い御祈祷タイム開始・・・

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ず~っと何か叫んでいるのですが、何て言ってるのかは全く分からないリカさん・笑

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見よ!この大迫力!

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ん? 何か乗り移ったぞ?・笑

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「お父っつぁん・・・お父っつぁん・・・!」

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薬を間違えられて苦しい様子を再現している模様・笑

「胸が・・・胸が苦しいよ!お父っつぁ~~ん・・・!」

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床に倒れ込んで悶え苦しむ正太郎坊やを熱演するリカさんを前に、思わず藤兵衛も涙ぐみながら駆け寄って「正太郎・・・」

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すると突然、その場にまるで似つかわしくない現実的な要求を繰り出し始める正太郎坊や・笑

「三味線堀で・・・釣り道具屋をやっている・・・三之丞さんって人のところへ、行っておくれ・・・」

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「その人が・・・オイラの恨みを・・・晴らしてくれるんだ・・・」

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「おぉ父っつぁ~~~~ん!!」

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そこまで話すと急にむっくり起き上がり・・・

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よろめきながら「ゔゔゔ~~・・・」

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「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙~~・・・」

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ドテンッ!

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女優さんなのに、このポーズいいのか・・・?

フィニッシュ。

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これには藤兵衛も大いに当惑・笑 思わず橋之助を振り返って「こ・・・これは、どうしたことで!?」と尋ねるのですが、「言われたとおりになさるがよろしかろう!」と逆ギレ気味に凄まれる藤兵衛。言われるがままに釣具屋の三之丞(吉中六)を訪ねると、息子の無念を晴らす(=玄徳を殺す)ために「百両もあれば、よろしかろうよ」と法外なお金を請求されるのでした。

いや~、卵か鶏か、ならぬ「怪し過ぎる祈祷師が先か藤江リカが先か」で真剣に悩んでしまうほど、この大歌女さん、どことなく漂うセリフのバカっぽさも含めてリカさんにはまたとないハマり役ですね(笑) あまり演技がシリアス過ぎると笑えないところも含めて、この役を「このクオリティで」演じられる女優さんが他には全く頭に思い浮かばない。

 

さて、やや出番少な目のリカさん、次なる登場シーンはラス立ちの舞台となる、再び深川の祈祷所。

表向きは小間物商を装いながらも、実は橋之助や三之丞を含む殺し屋集団の頭目である小平次(橋本功)は、自分の正体に気付いた岡っ引の政五郎(佐藤允)を殺すよう配下に命じていたのですが、同じく小平次の正体に気付いた金四郎(松方弘樹)やお紺(池上季実子)に(実は大ケガを負っている)政五郎がしゃかりきになって下手人を追っていると吹き込まれ、慌ててアジトである祈祷所に乗り込んで来ます。

「ピンピンしてるぞ?鬼政は・・・」と怒りを隠せない風の小平次に呼応してリカさん。

「なぁにぃ~・・・?」

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「生きてるぅ~~・・・?」

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夢に出て来そうだ・・・笑

実行役の勘太郎(奈辺悟)と与吉(福本清三)は「そんなはずは・・・」と寝耳に水の様子ですが、二人にビンタと蹴りを入れて「何が何でも奴を仕留めて来い!!」と怒鳴りつける小平次。すると襖の向こうから物音がして、三之丞と(一味の)庄助(加藤照男)が勢いよく襖を開けると、小平次の様子を不審に思って後を尾けて来た、小平次の女房・おしげ(山本郁子)の姿。

小平次の正体を知って愕然とするおしげと「私の後なんか尾けなけりゃ長生きできたものを」とせせら笑う小平次。三之丞と庄助がおしげを取り押さえ、橋之助が長ドスを抜いたところで胡桃の根付が橋之助の後頭部を直撃して金さんが登場し、ひと暴れしてから「手前ぇらのような悪党に、拝ませるのは勿体ねぇが、冥途の土産だとっくりと・・・!拝みやがれ!」と桜吹雪を御開帳。

「・・・!」

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「おぉぅ?この金さんの桜吹雪・・・見事散らせるもんなら・・・散らしてみやがれ!」と凄む金さん。リカさんは手にした錫杖の先端を金さんに向けて揺らしながら・・・

「やれぇ~ぃ・・・!やれぇ~~ぃ!」

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美味しいとこ持ってきますね・笑

で金さんが大暴れするなか、割と安全圏からチンピラ衆に下知を飛ばし続けるリカさん・笑

「やれぇ~~ぃっ!」

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「・・・あっ!」

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「あ~あ~あぁっ・・・」

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「あ~~っ!」

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ボゴッ!(左正拳突き)

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「うぉぉ~~っ・・・」

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笑うとこ・・・かな?笑

 

で、お白州の場面。

金さんが「一同の者、面をぉぉぅ上げぃ」

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「調べによれば、小間物売り、小平次。其の方、それを隠れ蓑とし・・・」と罪状が諳んじられるなか、大変姿勢よく正座しているリカさん。

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小平次が「お奉行様、私は断じてそのような事は・・・」と否認するや否や、「これ、お奉行殿」と謎の上から目線のリカさん・笑

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「罪もない者を苦しめると、お前様に神罰がありますぞ!?」

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ドスもよく効いております・笑

「何・・・?神罰とな?」と金四郎が聞き返すと・・・

「あ゙~~背中が重い・・・」

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「悪霊が私にのしかかって来ます・・・」

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迫真の演技が却って笑いを誘う・・・(笑)

しかし「うんうん、儂にも見えるぞ」と金四郎。「其の方が、死に追いやった連中・・・其の方の、背中(せな)に被さっておる」と返されて大歌女さん絶句・笑

「な!何事に其のような事を・・・!(て聞こえる)」

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暫く黙る大歌女。お調べは一味が政五郎を地雷で吹っ飛ばして殺そうとした件に及ぶのですが、あくまで白を切る一味。証人席(?)の政五郎が「地雷の現場には遊び人の金次もいたんだ!」とやり返すのですが「誰です?そいつは」ととぼける小平次に続いて勘太郎が「そんな野郎、見た事も聞いた事もねぇや!」と加勢。ここで久々に口を開くリカさん。

「おぉやぁぶぅんん・・・手柄を焦って・・・」

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「でっち上げはよくないぞぉ!?」

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ここは言葉のチョイスと役柄があまり合ってない気がする・・・。

で、続けて騒ぎ立てる容疑者一同。

小平次「ふん、んふふふふふ・・・何処にいるんです?その金次とやらは?」
三之丞「どぉこだぃ、どこだぃ、金次はよぉ?」
庄 助「いたらお目にかかりてぇもんだぜ」
勘太郎「(歌う)おぉ~い出て来い、金次さん♪と・・・」
橋之助「どこに隠れてやがんでぃ?っははは・・・」
小平次「隠れるも何も、そんな奴は端からいやしないのさ!はははは・・・」

と一同がゲラゲラ笑い出したところで金四郎が「やかましいなぁ!極悪非道の夜叉どもよ・・・」からの「あの夜、寒月冴える深川で、手前ぇらが見せた悪の正体、この遠山桜、お目付桜、とぉの昔に・・・見届けてるんでぃ!」と二度目の桜吹雪御開帳。

テ~テレ~、テレ~とBGMが流れる中、割りと普通の顔のリカさん。

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・・・からのこの表情!

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「おぅ悪党!手前ぇらこれでも、まだ白切ろうってぇのかぁ?」と凄まれ観念する小平次の横でうな垂れたと思いきや・・・

時代劇名優一覧・藤江リカ

気を取り直したかのようにお祈りポーズに入る(芝居の意図がよく分からない・笑)リカさんでした!

時代劇名優一覧・藤江リカ

 

このお話、女房を殺されてからというもの、罪人を心から憎むあまりに暴走しがちな、佐藤充氏演じる孤独な老目明しが、当初は毛嫌いしていた「遊び人の金さん」との間に何時しか育み始める友情をテーマとする真にしんみりとしたお話で、また当時は朴訥な善人役を演じることの多かった橋本功氏演じる愛妻家の小間物屋が、実は殺し屋の元締めだったという「どんでん返し」まで盛り込まれた、豪華キャスト陣も含め見所満載の秀作なのですが、藤江リカさん、そんな前提など全て吹き飛ばしてしまうほど強烈で破壊的なインパクトを与える活躍ぶり・・・頭が下がります(笑)