時代劇名優一覧(男優編)・菅貫太郎/江戸を斬るVII 第21話:殺しの陰で嗤う奴(製作/C・A・L 制作協力/東映)

時代劇名優一覧(男優編)・菅貫太郎/江戸を斬るVII 第21話:殺しの陰で嗤う奴(製作/C・A・L 制作協力/東映)

目が見えるにも関わらず見えないフリをして座頭の地位を得たうえに悪徳高利貸を営む「松の市」を演じる菅貫太郎先生。時代劇の悪役常連の菅先生ですが、本作は松の市を中心に話が展開することもあり、全編に渡ってスガカン・ワールド満開です。

 

序盤、街をフラつく松の市。

時代劇名優一覧・菅貫太郎

金四郎(里見浩太朗)配下の町方同心・秋月(森田健作)と速水(太川陽介)に呼び止めれ、「え?わ、わた、わたしですか・・?」といきなり挙動不審なスガカン先生(笑)

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強引な借金取り立ての罪を、すべて手下の権蔵(有川正治)一人になすりつけようとする松の市。

「あぁぁ、やだやだ。目が不自由だと悪いやつにつけこまれる。情けない・・・」とスガカン先生のわざとらしい小芝居が炸裂(笑)

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自宅に戻った松の市。留守中、権蔵が勝手に上がり込んでいるようです。

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「役人に目をつけられた」という理由で権蔵をクビにしようとする松の市、権蔵につれない一言。

「消えろ」

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怒って匕首を取り出した権蔵を、開かないはずの目でギロリと睨みつけ・・・

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ちょっと鼻にかかったような例のスガカン節で凄む松の市。

「やれるもんならやってみな?」

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そして松の市子飼いの殺し屋・長次(徳田興人)に絞殺されてしまった権蔵に、心から残念そうな表情を浮かべながらの一言。

「おとなしく帰(けえ)りゃ命まで落とすこたなかった・・・」

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場面変わって、町方に目をつけられた尻拭いを頼みに、永山総検校(中山昭二)のもとを訪れる松の市。

本当に目が見えない永山の前で小判の音をジャラジャラたてながら「このお金・・・どうぞお使いくださいますように!!」

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そして永山のお妾・お澄(八神康子)に手を出す松の市(笑)

「いまに見てろ~、オレはきっと永山検校追い落として、総検校になってやるぜ」

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悪過ぎる・・・。

 

一方、金四郎の依頼で、金に困ったフリをして近づいて来たお仙(鮎川いずみ)を部屋に招き入れる松の市。「お金をあげますよ」と小判を差し出し・・・

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受け取ろうとしたお仙の手を掴んで「すべすべした、いぃ~肌じゃ」

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そしてお決まりの、襖を開けると既に隣の部屋に用意されているお床にお仙を押し倒す展開に・・・。

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なぜかその場で側転をキメるお仙と・・・

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それにビビって目を開ける松の市。

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用心棒の浪人・村上甚内(山本昌平)と長次が駆けつけたところで金四郎が登場。女の売り買いに一役買っている橋場の源太郎(藤岡重慶)や子分たちを交えた大立ち回りの末、金四郎に捕まる松の市。

「勘弁してくださいぃぃ」

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金四郎に「えぇぇいっ」と刀を振り下ろされて思わず目を開いてしまう松の市。

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こんな素敵な表情が出来る俳優さん、スガカン先生以外に誰がいますか?

 

そして一味と共にお白州に引きずり出される松の市。

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源太郎に耳打ちされ永山総検校がその場にいることを知ると助けを乞う松の市。

「検校様のお力でどうぞ、私をここからお連れ出しくださいまし!」

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「天下の白州で勝手な申し出は相ならん」と一喝する金四郎に口答えする松の市。

「いいぇ!これは勝手ではございません!」

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物事の筋道を通しているのだ、と息巻く松の市。金四郎に「黙れ」と言われると「いいぇ、黙りません!」

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「座頭の賞罰は総検校様がお役目!」と支配違いを主張する松の市、金四郎に実は目が見えることを指摘されると、閉じた目を指さしながら「私はこの通り、目が開きません!」

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「嘘を申すと重い罪に相成るぞ」と金四郎に凄まれてもとぼける松の市。

「いかようなお咎めを受けましょうとも!」

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金四郎「決して目が開かぬと申すのか」
松の市「はい、開きません」

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ついに金四郎から「この場を立ち去れ」との言葉を引き出した松の市。一生懸命、目の不自由なお芝居をしながら退出しようとするのですが・・・

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すかさず「松の市」と呼び止める金四郎。

松の市「はい?」

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金四郎が大立ち回りの際に足の不自由な大工の芝居をするのに使った松葉杖(の折れたやつ)を投げつけられ・・・

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思わず目を開けてしまった松の市(笑)

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そしてとどめにお約束の桜吹雪を見せつけられ、腰を抜かしてへたり込む松の市。

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最後の最後に「死罪」を言い渡されたときの表情。

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スガカン最高(笑)

 

本作の脚本担当は大西信行氏。「江戸を斬る」シリーズもそうですが、「水戸黄門」や「大岡越前」といった月曜夜8時の「ナショナル劇場」枠の時代劇を数多く手がけられた作家さんですね。

この「松の市」というキャラクター、序盤から終盤のお白州のシーンまでほぼ出ずっぱりなんですが、平気で人を殺す非情さが際立つ一方で、権力者には徹底的に媚びへつらい、かと思えば金を貸す相手にはいかにも親身になっているフリをして見せるなど、同じ人物とは思えないほど多彩な顔を絶妙に使い分けます。

このような人物を違和感なく、しかもどこかコミカルに演じきれる俳優さん、スガカンさん以外にはちょっと思いつかないですね。そもそもスガカンさんの配役ありきで設定されたキャラクターだったんじゃないかと勘ぐらずにはいられないくらい特異なキャラクターだと思います。

 

63年公開の映画「十三人の刺客」で刺客たちに狙われる明石藩の暴君・松平斉韶(なりつぐ)を演じたことをきっかけに悪役のオファーが殺到するようになったと言われるスガカン先生ですが、生涯に渡って斉韶を凌駕する大変魅力的な悪人たちを演じ続けられました。まさに時代劇界を代表する悪役スターでしたね。

94年に交通事故で59歳の短い生涯を閉じられたスガカン先生。程なくして民放各局が時代劇から手を引き始めた時期であったと記憶していますが、スガカン先生の死去と時代劇の衰退。偶然の一言では済ませられない、何やら因縁めいたものを感じずにはおれません。