時代劇名優一覧(男優編)・菅貫太郎/柳生一族の陰謀 第17話:白い毒蜘蛛(制作/関西テレビ放送・東映)

徳川家康の孫であると同時に三代将軍・家光の従兄にあたり、父・結城秀康の跡を継いで越前福井68万石の領主となり、「越前宰相」と呼ばれた松平忠直という人物がいるのですが、大坂・夏の陣での功績に対する幕府の恩賞に不満を抱いて参勤交代を怠るなどの不行跡が祟り、幕府に隠居を命じられた末に豊後国(大分県)へ流罪となります。
この松平忠直卿、後世には希代の暴君であったと伝えられており、正室であり将軍・家光の妹にもあたる勝姫を殺害しようとして侍女を数人斬り殺したとか、愛人を喜ばせるために妊婦の腹を切り裂いて胎児を取り出してみせたとか、真偽のほどは不明ながら悪評紛々なのですが、本作においてこの暴君・松平忠直卿を演じてみせるのが我らがスガカン先生。63年公開の映画「十三人の刺客」に同じく暴君・松平斉韶役で出演、狂気に満ちたその熱演で世間を震撼させた我らがスガカン先生、15年越しの真骨頂を余すところなく堪能いたしましょう。
まずはその登場シーン。
酒を飲んでいたかと思ったら、盃を投げつけ、いきなり抜刀。
奥女中を一人・・・
二人・・・
「勝子!」と怒鳴りながら廊下へ踊り出てさらに腰元を一人、斬り捨て・・・
そのまま勝子(森愛)の部屋へ乱入・・・
毅然とした表情で忠直を見据える勝子に対して。
「勝子!余が酌をせぇと言うのに、なぜ来ぬ!」
「なぜ逆らうか!?」
「忠直殿、事が過ぎましょうぞ!」と退かない勝子。
「事が過ぎるとな!?」
勝姫付きの奥女中(富永佳代子)に蹴りを入れたところで、その場に駆け付けた、忠直とは主従関係にある越前大野藩三万八千石の領主、土屋左衛門尉吉延(永井秀明)に刀を取り上げられるスガカン先生。
吉延「奥方様は、将軍、家光殿の妹御であらせられ・・」
忠直「それがいかが致した!」
「目障りじゃ!勝子が目障りじゃ!家光も目障りじゃぁぁっ!」
この表情(笑)からも分かるようにスガカン先生、のっけから熱量ハンパないです。観てるこっちが先生の血圧とか心配になるレベル。
尚、このとき「将軍家へ訴えてでも行状を改めて頂きますぞ!」と忠直卿を諫めた吉延は、その後、忠直配下のくの一によって毒殺されてしまいます。
生前、男子がいない吉延は、尾張藩主・徳川義直の庶子、清水房三郎(香山武彦)を一人娘の琴姫(山本由香利)の婿に迎えるべく幕府に願い出ており、大野藩の江戸家老・石川長門(玉生司朗)らは急ぎ房三郎と共に大野入りを目指すのですが、忠直は大野藩を改易に追い込むため、御庭番の津田安左衛門(秋山勝俊)に命じて房三郎を暗殺しようと謀ります。しかし房三郎と道中を共にする親友の柳生左門(目黒祐樹)や裏柳生の働きもあり房三郎の暗殺は失敗。
その頃、福井城中では忠直卿が家臣役の筑波健氏と剣術のお稽古中。
見事、筑波氏を打ち負かすスガカン先生。
「殿、お見事でござる!」の声と共に差し出されるおしぼり(?)で満足げに汗を拭うスガカン先生ですが・・・
筑波氏の、平伏しながらも何か小馬鹿にしたような態度を見逃さないスガカン先生。
すかさず(汗を拭きとったばかりの)おしぼりを投げつけて・笑
「其の方!わざと負けたな!?」
「滅相もございませぬ!」と必死に取り繕う筑波氏に「偽りを申すな!」と全体重を乗せた渾身の見事な蹴りが炸裂・笑
刀掛けの刀を手にして鞘から抜くと、筑波氏にアンダースローで投げつけ「真剣で勝負いたせ!」
そして小姓が捧げ持つ自身の刀を逆手でひったくると・・・
「それほどまでに余を見くびったか!」「さぁ!余を斬ってみよ!」と絶叫。
「(刀を手に)取れと言うに!」と可哀想な筑波氏のお手々を草履でグリグリ・笑
堪りかねて刀を手にした筑波氏が立ち上がろうとするのを見て。
「そうじゃ!わしの心を斬ってみぃ・・・さぁ!参れ!」
しかし取り巻きの誰か(たぶん有島淳平氏)に「手を引けぃ!殿の御前であるぞ!」と嗜められ、思わず我に返った筑波氏にスガカン激怒・笑
「おのれぇぇぇぇ!」
「偽り者ぉぉ!」の金切り声と共に袈裟懸けの一振りで成敗される哀れな筑波氏なのでした。
ここは(も?)見応えのあるシーンです。「わしの心を斬ってみぃ」がいいですね。忠直卿、ただの粗暴なバカ殿ではなく、むしろ心の奥底では誰かが自身の暴走を止めてくれることを願っているようにも見えますが(これは物語の最後のシーンからも窺えます)、そうした複雑な人物描写を自然にやってのけられるのもまたスガカン流。たしかな演技力の裏打ちあってこその暴君役なのです。
さて、忠直が吉延の元に送り込んだ側室・お勢以の方(八木孝子)らによる琴姫の暗殺も十兵衛(千葉真一)らに阻止されて失敗に終わり、いよいよ大野城では琴姫と房三郎の婚儀が営まれることになるのですが、その機に乗じ、2人に言いがかりをつけて斬り殺すため、頼まれてもいないのに「盃事の媒酌をして取らす」などと大野城に乗り込んで来る我らがスガカン先生。
態度わるっ・笑
房三郎から・・・
盃を取り上げ・・・
怯える琴姫に、些か乱暴にポンッと手渡すスガカン先生。
さらに、仁王立ちで琴姫に酒を注ぐお茶目な忠直卿。
恐怖のあまり震える琴姫の手から盃がこぼれ落ちてしまいます。待ってましたとばかりに・・・
「無礼者ぉぉぉっ!」
「余の媒酌を何と心得るか!?」と、すかさず小姓が捧げ持つ刀を抜くのですが・・・
房三郎が「私の妻になる者は、私が守ります!」と身を挺して琴姫を庇い、火に油・笑
「おのれぇぇぇっ!」
脅しでなく本当に殺意を込めて振り下ろされる忠直卿のお刀・笑
応戦空しく、房三郎はその場に転倒。琴姫は絶体絶命のピンチ。
「(柳生)但馬が何じゃ!(松平)伊豆が何じゃ!家光が何じゃ!・・・徳川が何じゃぁぁぁぁ!」
由香利さんもいい表情だ・笑
ここで「ハッハッハッハッハツ・・・」と列席していた十兵衛が立ち上がる。
予期せぬ十兵衛の登場に一瞬たじろぐ忠直卿。
十兵衛「忠直卿、戯れが過ぎましょうぞ?ふっふっふっふっふ・・・」
忠 直「十兵衛か・・・」
「斬れるものなら斬りなされ!」と十兵衛に再三の挑発を受け・・・
「参るぞぉぉぉっ!」
あっさり忠直卿の刀を払い落とした十兵衛は・・・
そのまま忠直卿の首筋に寸止め。
しかし、さすがの忠直卿・・・
なおも屈せず脇差しで反撃!
膾のように切り刻まれる忠直卿・・・
の・・・
御召し物。
シモも容赦ナシ・笑
十兵衛が「命を絶たず、迷いを斬り、悪夢を殺す。これ剣法の奥義なり」と決め台詞を吐くと同時に、その場へ垂(へた)れ込み・・・
憑き物が取れたような表情を浮かべる忠直卿なのでした。
その後、忠直卿が幕府の命じるままに隠居し、豊後萩原で余生を送るシーンへとつながるのですが・・・
うわー、最後の表情がまた素敵ですね~、シビれますスガカン先生!
ま、筋書き上は女中やら何やら散々殺しまくった人物ですから、冷静に考えたら、こういうハッピーエンド的なオチは「何だかなぁ~」な話なんですけど、スガカン先生が演じられるだけで、物凄く腹落ちしてしまうのが不思議なところです。ビバ、スガカン!
-
前の記事
時代劇名優一覧(男優編)・菅貫太郎/八百八町夢日記(第2部) 第8話:うわさの伊達男(製作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像) 2020.05.12
-
次の記事
時代劇名優一覧(男優編)・菅貫太郎/名奉行 遠山の金さん(第3部・スペシャル版):大陰謀!天下分け目の桜吹雪(制作/テレビ朝日・東映) 2022.04.15