時代劇アイドル編・田辺ひとみ/長七郎江戸日記(第3部) 第21話:罠に掛った長七郎(製作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)

東映京都の大部屋女優にあって唯一人(?)、アイドルのような可憐なルックスで地味に存在感を発揮し続けていた田辺ひとみさん。本作ではさすが東映京都仕込みの見事な立ち回りを披露しつつ、観る者の同情を引かずにはおかない、とても気の毒な腰元役を熱演されておられます。
場所は亀石藩上屋敷の庭。長七郎の叔父にあたる藩主・神保義照(青木義朗)らが見守るなか、既に義照の寵愛を失っている側室、お蘭の方(志乃原良子)が腰元たちを相手に真剣で武芸の鍛錬(?)に励んでいるシーン。
既に一人の腰元に重傷を負わせたお蘭の方に「次!」と言われ、「はい」と応えながら恐る恐る立ち上がるひとみちゃん。
義照に「始め」と言われ構えるひとみちゃんと志乃原さん。
「やぁ!」と凛々しい掛け声と共に一歩踏み込むひとみちゃん。
いいですねぇ、剣会仕込みと思われる腰の据わった素晴らしい構え。一瞬ピタッと静止することで画面に緊張感がほとばしりますね。
しかし、じわじわ詰めて来る志乃原さんにビビって後ずさるひとみちゃん。
後退するステップの踏み方で恐れの感情を表現しています。剣会の男性俳優の方々もしばしば同じような動きをされますが、田辺さん、完璧にマスターされてますね。
たまらず薙刀を振り下ろし・・・
さらに斬り上げ・・・
もう一度、振りかぶった薙刀で斬りかかるが・・・
ひらりと躱された挙句・・・
右腕をしこたま斬られる・・・
ひとみちゃん。
「参りました」とその場を逃れようとするが、「まだまだ勝負はついておらん!」とお蘭の方に一喝されるかわいそうなひとみちゃん。
「御方様、お許し下さいませ」とすがるような目つきで許しを乞うが、「命ある限り戦え!」とお蘭の方に一蹴され・・・
仕方なく左手で薙刀を取り・・・
立ち上がる健気なひとみちゃん。
しかし構えるだけで精一杯・・・
刀であっさり薙刀を払われたうえ・・・
今度は肩口を・・・
ばっさり斬られて・・・
地面にくずおれる・・
哀れなひとみちゃん。
そのまま家臣たちに何処かへと運び去られてしまうひとみちゃんでした。
どちらかと言うと露出の控えめな役に回りがちだった印象の田辺さんですが、単にアイドル系ルックスの女優さんと侮るなかれ、本作においては、斬られた瞬間にあげる悲鳴、地面に倒れた後の呻き声、恐怖や苦痛の表情などなど、真に迫ったとても素敵なお芝居をされています。特に「御方様、お許し下さいませ」のくだりは、憐憫の情なしに観ることのできない名演技です。また脇を固める青木氏や志乃原さんの老獪極まりないお芝居との対比によって、さらに田辺さん演じる腰元の可憐さ、哀れさが際立ってますね。
それにしましても、田辺さんの立ち回りは「さすが」の一言に尽きますね。立ち回り相手の志乃原さんも東映時代劇の常連なのですが、志乃原さんのみに着目すると、刀を振るのに腰が引けてますし、振りの大きさも中途半端で、必ずしも立ち回りの名手とまでは言えません。田辺さんが立ち回りのうえで「弱い腰元」を上手に演じ切っているがゆえに、お蘭の方の遣い手ぶり、冷酷非情ぶりが伝わって来るという一面も大いにあるのではないでしょうか。
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時代劇アイドル編・田辺ひとみ/江戸を斬るVIII 第16話:幼馴染が悪の手先(製作/C・A・L 制作協力/東映太秦映像) 2019.02.27