時代劇名優一覧(女優編)・芦川よしみ/長七郎江戸日記(第2部) 第57話:夕映えの女(制作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)

時代劇名優一覧(女優編)・芦川よしみ/長七郎江戸日記(第2部) 第57話:夕映えの女(制作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)

浪人者であった父親になまじ富田流の小太刀など仕込まれたがために意図せずして人を殺してしまい、島流しになった過去を持つ女・お夕を演じる芦川よしみさん。このお夕というのが、一人気丈に不運続きな半生を生き抜くなかで身に着けたのであろう冷徹な凄みを感じさせる一方で、人一倍律儀で情に脆く健気な女なのですが、よしみさん、このどこまでも深みのある魅力的なキャラクターを、持ち前の卓越した演技力で最後まで見事に演じ切っています。

 

廻船問屋・和倉屋の番頭・伍平(辻喬次郎)が屋形船で殺された一件を調べるため、船宿に出向いた長七郎(里見浩太朗)は、そこで女中をしていたお夕が岡っ引の久蔵(浜伸二)に過去をバラされてクビになるところに出くわします。伍平殺しの咎で番屋に引っ立てられて行くお夕は、途中で道が違うことに気付いて久蔵や子分の末吉(江原政一)を持ち前の武芸で倒すのですが、そこへ(後を尾けていたのか)通りがかったのが長七郎。

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かんざしで長七郎に襲いかかるもあっさり腕を取られるお夕。

「出来るね、旦那・・・。どうとでも好きにおしよ」

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いい感じのやさぐれ感・笑

そして次の場面では差し向かいで飲んでる二人。

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「身に覚えがないなら、なぜ岡っ引を倒して逃げようとしたんだ?」と尋ねる長七郎にふてぶてしく答えるお夕。

「あたしは人殺しの前科者だよ。あいつらの手にかかったら、いくら無実だと言っても通るもんかい」

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正論。

「それにあいつら、あたしをどこか別のところに連れて行こうとした。何されるか分かりゃしない」

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正論その2。

心を許してる感はゼロですが、小太刀をどこで習ったとか、長七郎の質問にはひとつひとつ素直に答えるお夕。過去の「人殺し」の詳細についても語り始めます。

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で、ここから回想シーン。

父親の死後、奉公に出たお店の娘・おきぬ(鳥羽尚美)が酒に酔った旗本の次男坊(河本忠夫)に絡まれているのを止めに入ったお夕・・・

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河本氏が無礼討ちと称して斬りかかって来るのを一太刀、二太刀、と軽快なステップで躱すのですが・・・

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草履の鼻緒が切れて尻もちをついたところに斬りかかって来た河本氏の・・・

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脇差しを思わず抜いて腹に刺してしまうお夕。

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よしみさん、吹替えなしで立ち回りもこなしているのですが、身体捌きにキレがありますね~。演技力だけでなくアクションにも非凡なセンスを感じます。ヘタな男優など足元にも及びませんよ、これ(笑)

 

で、島から帰って来たお夕は、懐かしさのあまり(お夕が河本氏から守り抜いてやった)おきぬの元に挨拶に出向いたのですが、その回想シーン。

お夕は知らなかったのですが、おきぬは近々、婚礼を控えていたのでした。島帰りのお夕がやって来た事を「いい迷惑だわ」と言い放ったばかりか、「それはおめでとうございます」と心から喜んでいる様子のお夕を「白々しいわよ」と鼻で笑った挙句、紙入れを投げてよこして「二度と強請りがましいことをしたらお役人に訴えるわよ」と、血も涙もない対応のおきぬにショックを隠せないお夕。

「強請り?私が強請りに来たと、そう思ってらっしゃるんですか?」

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それはそうと地味な着物が却って何とも言えぬ妖艶な色気を放出するよしみさん・笑

「そのときに、私の胸の中に残っていた、何か大切なものが・・・砕けて消えちまった・・・」

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働き口を見つけようとしても断られ、身元を隠して職にありついても十日と経たずにバレてしまう、といったお夕の話を黙って聞いていた長七郎、いつの間にか寝入ってしまいます。

「もし?旦那?」

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「気楽なお人だ・・・」

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と言いつつ、長七郎の懐からこぼれ落ちそうな紙入れに気付くお夕。

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いや、もう表情の引き出しの数が無限ですね。いいわ~。

「背に腹は替えられない」と長七郎の懐から紙入れを抜いて部屋を出ようとしたところで「お夕」と長七郎に呼び止められます。

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「それだけでは何をするにも足りるまい」と持ち逃げを見逃したうえに、金が入り用なら夢楽堂の離れに来いと言う長七郎に何も応えず、慌てて部屋を出て行くお夕なのでした。

 

さて、夜になって夢楽堂に「紙入れを返しに」やって来たのはいいが「遠慮せずに、取っておくがいい」と言う長七郎にブチぎれるお夕。

「仏面すんのも、大概にしておくれよ!」

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「これからどうやって生きていくつもりだ?」と尋ねる長七郎に・・・

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「いよいよとなりゃぁ、夜鷹にでもなるか。ハハハ」と強がるお夕。

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ここからは暫く長さんのセリフが続きます。ほぼ視線の動きだけでお芝居を続けるよしみさん。

長七郎「お前に財布を渡したのは、何も仏面をしたかったわけじゃない・・・」

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長七郎「いや・・・金を恵むような真似をして、お前の心を傷つけたのなら、それは謝る」

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長七郎「どうだお夕、俺たちと一緒にこの夢楽堂で・・・働いてみる気はないか?」

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長七郎「人遣いは荒いし、給金も安い。だが・・・お前に肩身の狭い思いはさせないつもりだ」

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お夕「旦那・・・私のような女のことを・・・そんなに・・・」

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「さ、上がんな」と長七郎に促され、「旦那に迷惑かかるといけないから」と一度は辞退するものの、「バカなこと言うな」と諭されて離れに上がるお夕なのでした。

ここ、名シーンです。個人的には長七郎江戸日記の3シリーズ(全220話超)を通じても五指に入る名シーン。

心を閉じていた女(でも男でもいいけど)が長七郎の優しさを目の当たりにして徐々に心を開いていくという、まぁ、あまりにお決まりと言えばお決まりの展開であるがゆえに、演じる役者さんの力量によっては却ってシラケてしまうところなんですがね・・。さすがは貫録十分のよしみ様、小細工を弄するでもなく淡々と演じる中にも、お夕の感情の移ろいを台本の展開通り緻密に表現し尽くしておられます。すげー。

 

さて、そんなわけで長七郎の口利きによって夢楽堂で働くことになり、おみつ(速川明子)と台所仕事に勤しむお夕。

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お夕「ねぇ、おみつさん・・・」

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「ちょっと・・・教えてもらいたいことがあるんだけど・・・」とおみつに話しかけるお夕。

お夕「おかみさんは、旦那のご新造さん?」

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おみつ「どうして?」

お夕「・・・ほら・・・あの・・・失礼があってはいけないでしょ?」

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もじもじ・・・笑

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基本的によしみさんにはシリアスなお芝居のシーンしかない本作で、唯一ほっこりな場面なんですが・・・ブリっ子キャラも軽々と違和感なく演じてみせるよしみさん、恐るべし。

 

さてある夜、ついにお夕は長七郎の寝所へ。

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「お願いがあって来ました・・・」

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無言で頷く長七郎にいきなり抱きつき「私を抱いて下さい!お願いします」と大胆なお夕。

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ですが、長七郎にそっと身体を離されるお夕。

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「どうして・・・?私がお嫌なんですか・・・?私が穢れた前科者だからですか?」

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「島から帰って以来・・・私の心は・・・すっかり荒れ果てて・・・」

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「その私に、生きる望みを与えて下さったのは旦那です」

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「五年の島暮らしでも、身体だけは決して穢れてはいません。ですから・・・どうぞ旦那、私の身体を好きにしてください」

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長七郎「お夕、自分を粗末にしてはいかん」

お夕 「いいえ!・・・大事だと思えばこそ・・・」

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ここも名シーンです。セリフごとによしみさんの温度感が徐々に上がっていくのもよいですが、それに加えてよしみさんの口から紡ぎ出される一連のフレーズのリズム感が心地よいですね。

あとはやはり目力でしょうか。よしみさん、滑舌が特別いいわけではないので、一部のセリフがはっきり聞き取れない箇所もあるにはあるのですが、もう表情で全部お夕の心情を完璧に表現しきってますから全く問題なし。

で、長七郎は気持ちだけもらっとくみたいなことを言って結局お夕を抱かないわけですけど、なぜか感極まるお夕。

「旦那・・・私・・・忘れません・・・」

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「嬉しい!」

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嬉しいかな・・・?という疑問も、よしみさんの熱演の前には消え去ってしまうということで。

 

さて、長七郎らの調べにより、和倉屋の主人・紋兵衛(牧冬吉)は、大奥の用務を取り仕切る御留守居番・本多図書(高野真二)と結託して不当な利益を得ていたことが分かります。和倉屋の番頭・伍平は、その不正を探っていた幕府の徒目付と屋形船で密会しようとしていたところを、紋兵衛らの依頼を受けた殺し屋の元締め・戸張一閑(田口計)配下の殺し屋(木谷邦臣)に殺害されたのでした。

そして、かつて北町奉行所の筆頭与力であった一閑は、武芸に秀でる旧知のお夕を殺し屋として自身の配下に加えるために、お夕が島から帰れるように手配りした挙句、お夕の行く先々でお夕の過去がバレるように仕向けて仕事にありつけないようにしていたのでした。

 

さて、夢楽堂で長七郎や宅兵衛(下川辰平)の会話を耳にしたことから伍平殺しのあらましを知っていたお夕、一閑に投げ文で禅導寺へと呼び出され、配下の殺し屋として働くよう持ちかけられます。長七郎たちの手助けが出来ると考えたか、お夕は死を覚悟のうえで一閑の申し出を受け入れます。

その夜、一閑の隠居所で本多と紋兵衛に引き合わされるお夕。

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本多「かまわん、面を上げぃ」

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おぉっ、粋な黒地のお着物に、髪型も姐さん風(夜会巻きって言うんですかね?)に変わってる!

本多 「ほぉ、こんな美形がのぅ・・・」

紋兵衛「どんな血が流れているんでしょうかなぁ?」

本多 「あの声で蜥蜴喰うかや時鳥(ほととぎす)」

などとおじさん2人に好き勝手なことを言われるが、静かに聞き流すお夕・笑

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不意に一閑が「早速、お前に消してもらいたい人間がいる」とお夕に持ちかけます。

およそ一切の感情を持ち合わせていないような冷徹な口調で静かに聞き返すお夕。

「誰です?」

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「読売屋、夢楽堂にいる速水長三郎」と聞いて、一瞬、表情を強張らせるお夕。

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「お前なら速水長三郎も心を許して近づける。やってくれるか?」と一閑に聞かれ、無言で頷くお夕。

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帯の後ろにでも差せ、と朱鞘の短刀を差し出されたお夕。「ありがたく頂戴いたします」と美しい所作で一礼し・・・

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立ち上がって一閑の元へ近寄り・・・

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座につくなり「旦那・・・」と冷たく言い放つお夕。

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「ようやく人の心を取り戻して、生きる望みを見つけた私を、よくもここまで追い詰めてくれましたねぇ?」

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「和倉屋の番頭さんを殺させたのも旦那でしょう?」と一発かましてから、「旦那のような人間はこの世にいない方がいい。私が消してあげます」とまで言い切り、ゆっくり短刀に手を伸ばすお夕。

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カッコいい~笑

ところがお夕が手にした短刀は竹光でした。「わしがそれほど甘い男だと思うか?」と嘲笑う一閑が懐から短筒を取り出したのを見てその場を逃げ出すお夕ですが、ここで一閑配下の殺し屋役の木谷氏と西山清孝氏が登場。

で、例によってよしみ様のセンスがキラリと光る立ち回りシーン。

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武器を持たないお夕、剣会のお二人に一太刀、二太刀と浴びせられながらも素手で応戦・・・

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何とか木谷氏の得物を取り上げて胸に突き刺すのですが・・・

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そこを一閑に短筒で撃たれて万事休す。

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直後に駆け付けた長七郎のラス立ちシーンを挟んで、長七郎との再会を果たせぬまま夢楽堂で息を引き取るお夕なのでした。

 

個人的にはこのよしみさんと山本みどりさん、三浦リカさんが80~90年代の時代劇におけるゲスト女優トップ3だと思ってますが、キャスティングされる役の幅が一番広いのはよしみさんではないですかね?お武家、町民、百姓、生娘、後家さん、お嬢様、女侠客、まさに「何でもござれ」な趣き・笑

芯の強そうな女、という役柄は一貫しているように思えますが、快活な江戸っ子娘からネクラな女(笑)まで綺麗に演じ分けられる(時代劇系の)女優さんというのも、ちょっと他に思い浮かばないですね。メディアでの扱いは地味ですが、やはり名女優だと思います。

 

なお、このお話の脚本担当は鈴木生朗氏。笑いを散りばめた軽妙なテンポのお話を得意とするライターさんというイメージがありますが、本作では一人の哀しい女を主人公にした大人向けのストーリーをしっとり描きあげていらっしゃいますね。