時代劇名シーン一覧/長七郎江戸日記 第1部・スペシャル版「柳生の陰謀」(制作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)より

長七郎江戸日記シリーズ3作目のスペシャル編となる本作。幕府大目付の柳生宗冬(丹波哲郎)らによって罠に嵌められ、御家断絶の危機に見舞われる風間藩十二万石当主・高杉伊予守(中村竹弥)とその嫡男・新三郎(並木史朗)、また新三郎が見初めて妻にめとろうとしている町場の娘・ゆき(松本伊代)らを軸に展開するストーリーは、藩主としての苦悩、武士道の理不尽、親子の葛藤などをテーマに描かれた、いかにも時代劇の王道を行く佳作です。
で、そんな本作に、殺し屋として宗冬に拾われた凄腕の素浪人・諸星一角役で出演しておられるのが夏八木勲氏(クレジットは夏木勲名義)。この夏八木氏のお芝居が、もうとにかく素晴らしい。あまりに素晴らし過ぎて、スペシャル編では必ず堪能できる丹波氏のいつもながらの怪演も、本作に限っては夏八木氏の前に霞んで見えるほど。
そんな夏八木氏と長七郎を演じる里見浩太朗氏が1対1でがっぷり四つに組んで鍔ぜり合う名場面中の名場面、終盤の2人の決闘シーンをピックアップ。
宗冬にまんまと利用され、風間藩取り潰しに暗躍した大目付・山科勘解由(青木義朗)と尾張藩城代家老・黒木兵庫(川合伸旺)を成敗、風間藩を救った長七郎の前に姿を現す一角。
「まだ、終わっちゃいねぇぜ」
ちなみに話の序盤で一角と剣を交えかけた長さんは、既に一角が「化け物」であることもご承知済み。
アングル切り替わって長さんの長ゼリフ。
「長い浪人暮らしのようだな。恐らく、父も、また祖父も、死地を求めておられた。疲れ果てる浪人暮らしを続けたのであろう」
「憐れむ気か?オレを」と返す一角に応える長さん。
「いや・・・。ただお主の強さの謎が解けた」
と言われて・・・
微かに反応する一角。
さすがの夏八木氏。セリフなし、表情の変化もかろうじて読み取れる程度ですが、およそ人の情けを持ち合わせているとも思えぬ冷徹な剣客の心が一瞬とは言え揺らいだことが、そのお芝居を通じてはっきりと伝わって来ます。
で、長さんのセリフ。
「お主には生きようという気がない。生きる気のない者の剣ほど、恐ろしいものはない」
んー、哲学めく気の利いたセリフもさることながら、安定の里見節。シビれますね~、カッコ良すぎますね~・笑
で、ここで夏八木氏のお芝居。
からの・・・
ニヤリとしてます。間違いなくしてます!
この伝わるか伝わらないか、というギリギリのお芝居こそが夏八木氏の真骨頂、というより「凄み」とでも言うべきなんでしょうね。もちろん諸星一角という浪人者のキャラクターを解釈したうえでのお芝居なんだと思いますが、上手くない役者さんほどオーバーにやってしまって、観ている側には「わざとらしさ」として伝わってしまうものです。
ここでアングル変わります。この後、斬り合いのシーンで夏八木氏の吹替えとして福本清三氏が登場するのですが、多分このシーンも福本氏だと思う・・・
半時計回りに回り込もうとする(たぶん)福本氏。
長さんも、それに合わせて・・・
わずかに移動。
不意に(何の意味があるのかは不明だが)トレードマークである風車を咥えて腰を落とし・・・
抜刀して斬りかからんとする一角と、間合いを詰め、刀で受けて止める長七郎。
長さんのアップ。
一角のアップ。
アングル変わって、どちらかが斬られた効果音と共に、互いに後方へと跳び退き、対峙する長さんと一角(ここは間違いなく福本氏)。
着物の胸のあたりを切り裂かれた長さんと・・・
足元に血を滴らせる・・・
左腕を斬られた・・・
一角。
例のアングルに戻って福本氏再登場。
5秒ほどの静寂を破って・・・
福本氏が仕掛けます。
一角の真っ向斬りを受け流す長さん。
時計回りに反転して水平に薙ぎ払おうとする一角ですが・・・
一角が払いきる前に、左手一本で一角の背中に斬りつける長さん。
静寂・・・。
一角の咥えていた風車が・・・
地面に・・・
ポトリ・・・。
その風車を拾おうと・・・
膝を着き・・・
そのまま地面にくずおれる・・・
一角なのでした。
夏八木勲氏、里見浩太朗氏のお芝居が素晴らしい、というのはもちろんなのですが、時代劇特有の「間」がもたらす緊張感、天涯孤独な人生を送るほかなかった男の人生の悲哀を見事に切り取って表したセリフの妙、そして福本清三氏の起用により実現した美しい殺陣、と、韓流ドラマなんぞ観て喜んでいる女子供には到底理解できないであろう、古き良き時代劇の魅力がこの1シーンに凝縮されている、と言っても過言ではありますまい。
このお話、例によって脚本は小川英氏と胡桃哲氏のゴールデンコンビ。特にスペシャル版では「謎解き」の要素をふんだんに盛り込んだシナリオで楽しませてくれるお2人ですが、今回も2時間(実際には90分足らずですが・笑)があっと言う間の面白さ!
監督を務められた小澤啓一氏は、時代劇よりは「太陽にほえろ!」や「西部警察」といった刑事ドラマのイメージがありますが、こと「長七郎江戸日記」シリーズに関しては、特にスペシャル版でメガホンをよく取られていた監督さんですね。それにしても、この最後の決闘シーン、滴り落ちる血の場面とか、あまり他では見かけない凝った演出から目が離せません。
擬斗担当はシリーズでメインを努められた上野隆三翁。正直、ラス殺陣含めて他のシーンでは特筆する点もなかったような気がしますが、その分(?)このシーンでは色々とイレギュラーな手を交えて楽しませてくれました。長さんによる左手一本の一太刀もレアな一手ですが、長さんが一瞬のうちに間合いを詰めて一角の抜刀を阻止するところなんかは、アングル含めてお見事なカッコ良さでしたね。
夏八木氏の吹替えを務められた福本清三氏は、お話の冒頭で、事件の発端となった元風間藩士・槙原喜十郎(池田謙治)の暗殺を実行した元一色藩の鉄砲組頭・中森軍兵衛役でも出演、オープニングテーマの僅か20秒後には一角に斬り殺されてしまう(笑)ほか、ラス殺陣では、シリーズ第19話以降、セミレギュラー扱いだった柳生忍者の組頭・文蔵役の西沢利明氏の吹替えとしても登場されるなど、本作では八面六臂の大活躍でした。
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時代劇名シーン一覧/長七郎江戸日記 第2部・スペシャル版「長七郎 大奥まかり通る」(製作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)より 2020.04.28