時代劇名優一覧(女優編)・蜷川有紀/八百八町夢日記(第2部) 第25話:悪女の秘めごと(製作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)

時代劇名優一覧(女優編)・蜷川有紀/八百八町夢日記(第2部) 第25話:悪女の秘めごと(製作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)

ただ「妖艶」という言葉を体現するために、この世に生を受けたのかとすら思われるほど、まさしく妖気のような色気を放ちながら挑発的な視線で世の殿方を虜にし続けた(であろう)個性派女優の蜷川有紀さん。8~90年代における東映京都発のテレビ時代劇においてもゲスト出演の常連さんでした。

とにかく、ひと癖もふた癖もある尋常ならざる女役にキャスティングされる事の多かった有紀さんですが、本作で演じるのも、普段は女の尻ばかり追い回しているが、たまたま幸運が重なって盗賊・羽黒の丹兵衛(浜田晃)を見事お縄にした北町奉行所の定町廻同心・三澤逸平(山内としお)を色仕掛けで翻弄する「謎の女」。ストーリーはありがちですが、有紀さんにかかるともう、その色仕掛けのえげつなさが半端ない・・・笑

 

初手柄を上げたばかりか、奉行の榊原(里見浩太朗)から金一封まで賜り上機嫌の三澤を囲んで、同僚の八田(船越英一郎)らはえんまで祝宴を開きます。その帰途、雨のなか三澤が出会うのは・・・

時代劇名優一覧・蜷川有紀

物憂げな表情で三澤を見つめる武家の妻女風の有紀さん。

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傘に入れてやった三澤が「どちらへ?」と尋ねるのに答えて有紀さん。

「お任せしますわ・・・」

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「そう言われましても・・・」と困ってしまう三澤に有紀さん。

「帰るところがございませんの・・・私・・・」

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「差し支えなかったらご身分をお聞かせください」と言って名乗る三澤に有紀さん。

「浜路です」

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浜路「三澤殿は・・・独り身ですか?」
三澤「へ?・・あ、はは、もちろん・・・!」

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浜路「よかった・・・」

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冷静を装いつつ「どうしてですか?」と問う三澤に有紀さん。

「独り占めしたいから・・・貴方のような方を」

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どう考えても嘘くさい・笑

このシーン、「ん中村さんっ!?」でお馴染みのベテラン・山内としお氏との二人芝居になるんですが、山内氏の抑え目の演技もいいですね。役柄は所帯持ちでありながら浮気上等のスケベ男なので、もっと作り芝居でもいいようなもんですが、あえてトーンを抑えることで、お調子者ではあるが裏ではいちおう一片の良識をも持ち合わせているかのような、そんな深みのあるキャラ設定を感じさせます。

そんな三澤さん、その後なに事もなく役宅に帰り、出迎えた妻・弥生(日下由美)に「今日は吉報があるのじゃ!」などと、さも嬉しそうに語りかけるシーンが続くので、おぉ、誘惑にも負けずに真っすぐ帰宅して、夫の鑑じゃないの三澤さんっ!と思ったのもつかの間、寝室で一人になるなりニヤつきながら「今日はいい日だったな・・」と呟いた後に続く回想シーン。

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まぁ、そらそうだ・笑

で、三澤は再度、浜路の身分を尋ねるのですが、それには答えず「私と貴方様は、もう離れられぬ仲・・・」の後に有紀さん。

「浜路は嬉しゅう御座います・・・」

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たまらず「浜路殿?今度は、いつ逢えるのですか?」と三澤に尋ねられた浜路殿のこの表情。

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いや、絶対ヤバいでしょ、この女・笑

と言うより、まさにこの表情にこそ、有紀さんの女優としての凄味成分が凝縮されてるわけですが・・・。

 

場面変わって、昼間から蕎麦屋で遭っている三澤と浜路。

浜路「そのお話、もそっと聞かせて下され」

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「そのお話」というのは三澤の手柄話のようです。調子に乗って、丹兵衛は佐渡送りになることばかりか、その日取りや護送ルートまでペラペラ喋る三澤。

何か目つきが怖い有紀さん。

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嬉々とした表情で「ま、佐渡の金山送りになりましたら、さしもの丹兵衛も、生きては帰れんでしょうなぁ。はっはっははは!」と大笑いする三澤を前に、動揺の色を浮かべる浜路殿。

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三澤「浜路殿?どうなされた?」
浜路「いいえ、別段・・・」

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で、三澤さん、また二人きりになりたい、と浜路殿をお誘いするも「今日は所用が」とあっさりフラれたところで、「ここのお蕎麦が美味しいと」聞いた弥生がお友だち数人を引き連れて登場。三澤殿、一世一代のピンチ・笑

「どうなされた?」と問う浜路に「妻が・・・」と応え、慌てて衝立の陰に隠れる三澤。

浜路「三澤殿は、独り身と申されたではありませんか」

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「悪気はないのです」と(そういう問題か?)詫びる三澤に「行っておあげなされ」と大そう理解のある(?)浜路殿。

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何事もなかったかのように弥生たちのいる座敷に上がり込んだ三澤がふと振り返ると、そこにもう浜路の姿はないのでした。

で、話は急展開。舞台は越前岩根藩・内藤家の下屋敷。何と有紀さんはお姫様姿で登場。

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そしてそこには丹兵衛の弟・丑ノ助(滝譲二)の姿が。

浜路「丹兵衛が江戸を発つのは三日後。朝五つ半に出立し、板橋宿から信州路をとる模様じゃ」

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じゃーん♪ 三澤さんがモテた理由が判明。要するにハニトラですね・笑

で「お願いついでに」丹兵衛を奪還後は「こちらでご厄介になりてぇんで」と申し出る丑ノ助ですが、浜路付きの武士(谷口孝史)が「図に乗るな!」と一括。

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しかし浜路は「毒食わば皿までじゃ」と、これを快諾。

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「この御恩は決して」と化粧代として千両を進呈し、退出する丑ノ助。

入れ替わりに「浜路はおるか?」と、浜路の父であり岩根藩の当主・内藤伊賀守(小笠原良知)が登場。谷口氏も、もう一人の武士(奔田陵)と共に退出。

笑顔で伊賀守を迎える浜路ですが・・・

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伊賀守が浜路の妹・菊路の縁談が決まったことを知らせると、明らかに表情が曇る浜路。

見るからに不本意な様子で「それは・・・おめでとうございまする・・・」

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「そなたには、すまぬと思うておる」と言う伊賀守に、今さら謝られても失ったものは取り戻せぬ、と浜路。

「もう妾(わらわ)の事はお気になさいますな!」

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用はそれだけか、と言われ、黙って伊賀守が踵を返すや・・・

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火鉢の蓋を投げつける浜路。

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後で分かることですが、浜路はかつて岩根藩が財政難に陥った折、借財の肩代わりを申し出た豪商に人身御供として差し出され、決まっていた縁談まで破談にされた過去があり、その時に受けた心の傷が二度と癒えることのないまま、乱行を重ねて下屋敷に幽閉されていたのでした。

 

さて、丹兵衛を奪還するため丑ノ助らが信州路へと向かうなか、「帰りましたぞ!奥方殿」と元気よく帰宅する三澤さん。女同士の話し声がするのを聞いて「客か・・」と座敷の障子を開けると、そこにいるのは浜路殿・笑

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やっぱ、この女だけは怖過ぎる・・・。

「茶会で知り合うた」という二人に三澤は絶句。早々にその場を後にし、独り自室に籠るのですが・・・

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三澤「浜路殿、正気か・・・?」
浜路「貴方様に逢いとうて・・・この切ない胸のうち・・・お察し下され・・・」

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「二人だけの秘密を守ろうと言ったのは、貴女なのですよ!」と困り果てる三澤の衿に手をかけ・・・

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肩を剥き出しにすると・・・

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「ここで抱いてください」

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「妻女は・・・眠り薬で眠らせました」

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「何を考えてるんだ・・・?」と脅える三澤の肩をガブリ・笑

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三澤さん、大ピンチ・・・!

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そこへガラリと襖を開けて弥生が登場。

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うわ~、いい表情だ・・・

さらにアップ。

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浜路のことを信用しておらず、眠り薬は飲まなかった、と言う弥生。

弥生「帰って下さい!」
浜路「あっははははは!」

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その場を後にする浜路。

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山内氏の表情がこれまたナイス・笑

浜路が消えてから、「実家に帰るなり何なりしてくれ」と白旗を挙げる三澤に「いいえ、私はどこへも・・」と答えてから「私にご不満があったのですか?」と涙ながらに問う弥生に反省しきりの三澤。

刃物が飛んで来てもおかしくないシチュエーションですが、何とも健気な奥さんでよかった、よかった、じゃなくて・・・ もう、このシーンの有紀さんは圧巻ですね。あの、肩をガブッとやるあたりと、あと弥生にバレたときの表情ね。色んな意味でゾクゾクさせられてしまいます。

 

さて、丑ノ助らを追って江戸を発った三郎三(風間杜夫)に続いて、夢さんも馬を駆り信州路を下るのですが時すでに遅し。護送コースに爆薬を仕掛け、役人を皆殺しにして丹兵衛の奪還に成功する丑ノ助一味。

再び下屋敷。

「丹兵衛。よくぞ地獄から舞い戻って参ったのぅ」

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「姫様に逢いてぇ一心で」と応える丹兵衛に包帯を巻いた指を差し出す有紀さん。

「庭木で切ったのじゃ」

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すかさず姫様の右手を手にとって優しく包帯を外し、その指を静かに咥える丹兵衛。

ありゃりゃ、はしたない・・・笑

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二人の会話によれば、どうやら二人は丹兵衛が捕り方に追われて屋敷に逃げ込んで来た際に浜路が匿ってやったのをきっかけに、切っても切れぬ仲になったようです。

「妾が好きか?」と改まって少女のような質問をする姫様。

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「姫様のためなら・・・この命、惜しくはありません」と応えるのは、こちらももう、いいおじさんの浜田晃氏なんですが・笑 さほど違和感を感じないのは、やはり相手役がいかにも男を狂わせそうな「魔性の女」がそのままこの世に舞い降りて来たかのような怪優・蜷川有紀さんであればこそでしょう。

 

さて、三澤への復讐に燃える丹兵衛一味。三澤の役宅を強襲して弥生を拉致するのですが、駆け付けた夢さんに弥生を奪い返されます。一味は下屋敷に集結。

「丹兵衛、何とする?」

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丹兵衛の「機密を漏らしたのが三澤だと奉行所に密告する案」に「ほー、それは面白い!」と浜路が喜んでいるところに榊原奉行が登場。

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独特のイントネーションで「何やつ?」

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名乗りを上げた榊原によって罪状が諳んじられますが

浜 路「町奉行ごときが何を申す!」
谷口氏「ここは大名屋敷。町方が入る処ではない!」
奔田氏「そうだ!証拠もなしに何を申す!」
丹兵衛「ここはてめぇなんぞの手出しの出来る処じゃねぇんだい!」
丑ノ助「おぅ!とっとと出て行きやがれ!」

と各々が口々に悪態をついた処で、ようやくお奉行の「いい加減にしねぇか、悪党ども!」からの鉄扇が炸裂。

谷口氏「おのれは!」
奔田氏「姫様!こやつが夢之介でございます!」

からの

浜路「なんと・・・!」

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続けてお奉行の「人の命を弄んだ貴様らに、もはや見る夢はないのだ!観念せぃ!」に続いて奔田氏の「出会えぃ!出会え出会えぇぃ!」で丹兵衛の子分や岩根藩士らがぞろぞろ登場。そして有紀さんは絶叫。

「町奉行とて構わぬ!殺すのじゃぁぁ!」

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細川純一氏ら賢い岩根藩士らはさっさと逃亡するなか、丑ノ助以下、丹兵衛一味のゴロンボ、谷口氏、奔田氏とバタバタと斬り捨てられ・・・

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「下がれぇぇぇ!」

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これもいい表情だ・笑

最後は内掛を榊原に投げつけて隣室へ逃亡。入れ替わりに襖の陰から榊原に遅いかかるも返り討ちに遭う丹兵衛。

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直後に上がる「ぎゃぁぁぁぁ!」と言葉通り闇を切り裂くような鋭い悲鳴。

最後は父・伊賀守に成敗されてしまう哀れな浜路さんなのでした。

時代劇名優一覧・蜷川有紀

 

8~90年代のテレビ時代劇における目覚ましい活躍ぶりが記憶に残る一方で、時代劇がどんどんつまらなくなって行った90年代も終盤に近づくに連れ、徐々にそのお姿をお見かけしなくなってしまった蜷川有紀さん。数ある出演作の中でも、最も印象に残っているのは、やはり本作でのお芝居ですね。そもそも浜路というキャラが、もうとにかく全てにおいて妖しげな魅力全開なんですが、演じる有紀さんのにっこり微笑む表情ひとつとっても底知れず薄気味悪いし(笑)、かと思えばちょっとした仕草、ちょっとしたセリフに感じさせる「悪女の色気」は生唾もの。登場するキャラの魅力と演じ手の魅力が見事に融合した、稀有な一作だったと思います。

そう言えば、先日取り上げた第14話に続いて、本作の脚本も和久田正明氏なんですねぇ。とにかく脇役と言えども徹底的に掘り下げた人物描写をされますから、そこに演技力のたしかな役者さんが起用されると、一気に物語が趣深いものになりますね。本作においては、有紀さん、山内氏だけでなく、三澤の妻・弥生を演じる日下由美さんも実にいいお仕事をされていると思います。