時代劇名優一覧(女優編)・本阿弥周子/名奉行 遠山の金さん(第3部)第9話:尼僧に忍びよる黒い影(制作/テレビ朝日・東映)

本阿弥周子さんも70年代から90年代にかけて数多くの時代劇にゲスト出演されていた女優さんで、時にネクラな女、時にエラそうな大名家の側室、時に陽気な長屋のおかみさん、と幅広いキャラクターを自在に演じ分ける、まさにシリアスからコメディまで「何でもござれ」な演技派女優さんだったのですけれども、個人的には「うれしはずかし物語」の超コケティッシュな人妻役を一目みて好きになってしまった、という、割とどうでもいい話・・・。
そんな周子さんが、中洲の芸者上がりの色香漂う商家の後家さんを演じられた、松方弘樹氏主演の人気時代劇「名奉行 遠山の金さん」シリーズの一作をピックアップ。
店の大看板が落ちて来て大ケガ寸前の目に遭うなど災難続きだった公儀御用達の紙問屋・橋本屋藤左衛門(小笠原弘)が、神社への参詣の帰路、浪人者に斬殺されます。藤左衛門の一人娘・お光(蜷川香子)と共に現場に居合わせ、番屋で北町の見習い同心・楠菊太郎(内海光司)による聴取を受ける藤左衛門の後妻・お辰を演じるその人こそ、超コケティッシュな人妻役が我が脳裏に刻まれし(笑)本阿弥周子さん。
菊太郎「ヤった奴の人相風体は?」
お 辰「ご浪人さんのようでしたけど・・・気も、動転しておりましたものですから・・・」
現場を通りがかって浪人者を追い払った金四郎(松方弘樹)も「編み笠をこう深~くかぶってたもんですから・・・」と浪人者の人相風体は分からず。
菊太郎「藤左衛門は何か人に恨まれるような事はなかったか?」
お 辰「いいえ、そんな事は・・・」
と言ってから「ただ・・・」と消え入るような声が何だかとても色っぽい周子さん。そして「何でもいい!言ってくれ!」と食いつく菊太郎。
「五日前に、蔵の荷が急に崩れて・・・」
この後、柳沢慎吾氏演じる南町のお騒がせ同心・間半平が飛び込んで来てギャーギャー騒ぎ立てるのですが、その間も終始、意気消沈した様子の周子さん。
可愛らしさと大人の色気の両方を惜しみなく兼ね備えた、元祖・美魔女とも称されるべき本阿弥周子さん、まずは儚げでつい支えてあげたくなってしまうような未亡人像を体現。
続いて藤左衛門の葬式も終わり、娘のお光が「お父っつぁん・・・」と仏壇に語りかけながら物思いに耽るシーン。
人影に気付いたお光が振り返ると、夕焼けをバックに微かな笑みを浮かべて佇む周子さん。
なぜか立ってるだけでエロい周子さん・笑 「どうしたんです?」と完璧な所作でお光の側にしづしづと座りながら・・・
「またお父っつぁんのご供養をしてたんですね?」
「私も、あなたみたいに一日中ここにいたいけど・・・」
「それじゃぁお店の方が奉公人任せになってしまうでしょ?」と周子さん。
「悲しさを堪えてお店をみる私の気持ち・・・」
「分かってくれますね?」
お辰が部屋を去ってから、藤左衛門が生前、何かあったら月光院の庵主(あんじゅ)さんを頼れよ、と言っていた事を思い出したお光は、藤左衛門の実弟・治助(工藤堅太郎)の助言もあり、お店を出て月光院の庵主・月心(春風ひとみ)のもとへ。
数日後、月光院へお迎えに来る周子さん。「言ってくださいな、黙っていなくなった理由(わけ)を・・・」とお光に優しく問いかけるのですが、答えられないお光。ふぅと一息ついて周子さん・・・
「理由(わけ)は後でゆっくり聞きます・・・とにかく帰りましょ?」
「お父っつぁんを殺した下手人が捕まり、あの家で、私が夜はぐっすり眠れるようになったら帰ります」と、お辰の申し出を丁重に拒否するお光。
「眠れる・・・?」
「お父っつぁんが殺される二、三日前から、私・・・夜もおちおち眠れませんでした」とお光。
お光「私の我儘、許してください・・・」
お辰「でも・・・それではこちらの庵主様に、いよいよご迷惑がかかる事になりますよ?」
それでも「もう暫くここに居させて下さい・・・お願いします!」と頭を下げるお光。
「・・・」
この表情でワル確定ですかね・笑 しかし、とにかく終始美し過ぎる周子さんであります。
さて、治助の首吊り死体が発見されたり、その現場に現れた偽の虚無僧集団を尾行した北町の隠密同心・水木新吾(東山紀之)が、虚無僧集団のリーダー・陶東九郎(曽根晴美)と事件の黒幕である楮(こうぞ)問屋の主・信州屋助蔵(石山律雄)との密会現場をキャッチしたり、と事態が進展するなか・・・
その助蔵と出会茶屋でしっぽり飲んでる周子さん、甘えた口調で「いつまでぐずぐずしてんのさぁ」と助蔵にクレーム。
「本当の狙いはお光なんだよぉ」
お光は、藤左衛門が女博徒時代の月心との間に儲けた娘で、この時点における橋本屋跡取りレースのド本命。
で、周子さんは「慌てるな・・・へっへっ」と余裕をカマす助蔵から御猪口を奪い取って・・・
「色々邪魔が入ってるらしいけど、いつまでも手間取ってると、町方だって嗅ぎ回るだろうし、橋本屋の親戚だって、乗り出しかねないよ・・・」
それでも「まかせておけよ」と意に介さない助蔵に、ややブリッ娘気味に・笑
「信じていいんだね?」
お光を殺して自分の末子を養子に送り込む事で橋本屋をそっくり乗っ取るプランを詳しく話して聞かせる助蔵ですが、それにはあまり関心がない様子で、ゴ~ンと鳴り響く鐘の音に「五つだよ・・・」と呟く周子さん。
からの・・・
「さ、ゆっくり出来ないよ・・・」
自ら寝間に向かって・・・
「お光の始末、早くつけておくれよ、んっふっ・・・」
ここはもう女優と言うより「女」本阿弥周子の魅力が凝縮された名シーン!(笑)
で、「東九郎軍団」の一員であり、その身軽さを活かして蔵の中の荷を崩れさせたり看板を落っことして藤左衛門を殺そうとした相州無宿の三次(黒部進)が数名のメンバーと共に月光院を襲撃、月心はお光を庇って三次に殺され、ひとり月光院を脱出して逃げるお光の行く手には東九郎軍団を引き連れた周子さん(と助蔵)。
「お光、何処行くんだい?・・・あっ、そうかい、地獄かぁい・・・」
実に楽しそうに悪魔のようなセリフを吐く周子さんがまた、とってもプリティー・笑
「あんただね!?お父っつぁんを殺したのは・・・!」と叫ぶお光に涼しい顔で周子さん。
「治助もやったよぉ?」
「藤左衛門が早く来いって・・・」
「お前を待ってるってさ・・・んっふっふっ」
んー、嬉々として人殺しを自慢げに告白する悪女を演じていても、やはり何処までもキュートな周子さん、このギャップが堪らん・・・笑
で「儂(わし)が送ってやる」と、お辰の背後から前に出て来た東九郎が抜刀したところで胡桃の根付が飛んで来て東九郎の顔面を直撃し、金さん登場。
「・・・!」
「こらこら悪党!てめぇらにとっちゃ、ここが地獄の一丁目だ」と啖呵を切る金さん。
助蔵「くっそ~~~・・・」
お辰「やっておしまい!」
で金さんに襲いかかるも、悉く金さんにシバかれる東九郎軍団。「汝(うぬ)らの悪行暴くため、季節を問わねぇ江戸桜、竹の林に、こう咲くんだぃ!」と金さんが桜吹雪を御開帳。
お辰「・・・」
そして次から次に倒されていく東九郎軍団。東九郎まで倒した金さんにキッと睨まれて、思わず後ずさる周子さん(と助蔵)。
残る東九郎配下も全滅すると同時に遠くから聞こえて来る捕り方の「御用だ!御用だ!」の声。金さんにぶちのめされるまでもなく、行き場を失って、その場にへなへなとヘタり込んでしまう周子さん(と助蔵)なのでした。
そしていよいよ、お白州の場面。お奉行様が「一同の者、面を上げぃ」
「調べによれば、橋本屋後妻・お辰、信州屋助蔵、其の方ら・・・」に始まってツラツラと諳(そら)んじられる自身への容疑を、黙って聞いている周子さん。
最後に金四郎が「左様、相違ないか」と〆たところで周子さん。
「ただいま仰せの罪科(つみとが)、わたくしには何んんんの関わりも、覚えもない事でございます」
罪状を否認してても本ッッ当に可愛らしい周子さん・笑
お辰に続いて助蔵も否認。東九郎は「我らは普化宗の虚無僧、支配は寺社奉行!」と町方による拘束の不当性を主張し退出しようと試みるのですが、金四郎の前で虚無僧なら当然吹けるべき尺八(阿字観)が吹けずに失敗。
続けて、藤左衛門の殺害現場近くに落ちていた治助の矢立について、治助の留守中に盗み出したであろう、と三次を追及する金四郎。三次は「知りません、存じません!」ととぼけるのですが、不意に自身が常用していた手裏剣を金四郎に投げつけられ、思わずそれを宙返りで躱してしまい、身の軽さが露わになる三次。
すかさず「それです!それでこの人が、庵主さんを刺しました!」と証言するお光に即反撃してみせる周子さん。
「おぉだぁまぁり、お光!」
「出鱈目言うな!」と助蔵も乗っかるのですが「いいえ!たしかにわたくしは見ました!」と譲らぬお光。そこで金四郎に訴え始める周子さん。
「お奉行様ぁ!」
「このお光は虫も殺さない顔をして・・・」
ここは特に気持ちを込めて・笑
「心は本んんん当に恐ろしい娘でございますぅ!」
続いて、お光は月光院で元博徒の月心が当座の生活資金稼ぎに開いた賭場(もちろん違法です・笑)の手伝いなどしていた事実を持ち出す助蔵。しかし「違います!あれは拠所(よんどころ)なく庵主さんが・・・」と反論しかけ、さらに「そうです、金さんて人が何もかも知ってます」と新たな証人の存在を主張し始めるお光。
「へ~~ぇ、金さんて誰だい?」
「お前の間夫(まぶ)かい?」
またしても「そうかぁ!んぁ、間夫かぁ!」と乗っかる助蔵。「間夫共々賭場付衆の手伝いをする」「いやっ!たいしたタマだぁ・・・」と大仰に驚いてみせる助蔵ですが、負けじと言い返すタフなお光・笑
お光「そ、そんなんじゃありません、金さんて人は・・・」
お辰「じゃぁその金さんてのが生き証人かい?ここへ出しなよ!」
三次が「そうともよぅ、とっとと出しなぃ!」と続き、さらに後ろの人たちも騒ぎ始め、容疑者全員でお光を総攻撃。そして手を緩めず最後の仕上げにかかる周子さん。
「そこまで性悪とは気づかなかったよ・・・」
決め台詞は吐き捨てるように!
「このバチ当たりがっ!」
助蔵以下、容疑者の皆さんが揃って「バチ当たり」「バチ当たり」と連呼しているところで、ようやく金さんが「喚くんじゃねぇよ木っ端ぁ!」と一喝、静まり返る一同。
「そんなに会いてぇ金さんなら、桜ともどもたった今、会わせてやるから目ん玉おっ広げてよぉくぅ!拝みやがれ!」と桜吹雪を御開帳。
「・・・?」
そしてお光が「金さん!」を声を上げるとともに周子さんのこの表情!
いいよ、いいよ、サイコー!笑
最後は魂を抜かれたような(それでいて可愛らしい)表情で〆る周子さんでした。
やや厚化粧なのはさておき・・・笑 終始お人形のような可憐さを振りまきながらも、ところどころで年増女の貫録を見せつけてくれる、メリハリの効いた演出(?)が憎い周子さん、その所作まで大変美しく、まさに「時代劇女優のお手本」のような女優さんです。
しかし、最後のビックリ顔がまたいいですね・・・ 作中一貫して醸し出されていた、落ち着き払った女盛りの後家さんが漂わせる「程よい色気」を全部ブチ壊しにしてしまう暴挙にしか見えないのですが(笑)悪役としては最後までお澄まししてるより、やはりこっちの方が面白いですね!
尚、本作の脚本担当は本田英郎氏。氏の素晴らしいシナリオに、名悪役・石山律雄氏と周子さんの熱演が加わり、この作品、10年余り続いた本シリーズ随一の秀作に仕上がっていると思います。