時代劇名優一覧(男優編)・石山律雄/名奉行 遠山の金さん(第3部)第9話:尼僧に忍びよる黒い影(制作/テレビ朝日・東映)

時代劇名優一覧(男優編)・石山律雄/名奉行 遠山の金さん(第3部)第9話:尼僧に忍びよる黒い影(制作/テレビ朝日・東映)

舌の上を転がすように滑らかにセリフを紡ぎ出す「石山節」を持ち味とする名悪役の石山律雄先生。紙問屋の後妻と共にお店(たな)乗っ取りを企む楮(こうぞ)屋の主・信州屋助蔵を演じた、松方弘樹氏主演の人気時代劇「名奉行 遠山の金さん」シリーズでの出演作をピックアップ。

 

公儀御用を務める紙問屋の主・橋本屋藤左衛門(小笠原弘)が浪人者に斬殺され、跡目候補でもある実弟・治助(工藤堅太郎)も首吊り死体となって発見されます。治助が発見された現場で見かけた虚無僧の集団が怪しいと睨んだ金四郎(松方弘樹)は、尺八で阿字観の吹ける隠密同心の新吾(東山紀之)に、虚無僧同士の挨拶である阿字観を吹き返せない偽の虚無僧集団を見つけるよう命じます。

果たして、偽の虚無僧集団を発見して後を尾ける新吾。偽物たちが入って行った荒れ寺の様子を窺ってみると・・・

切り餅二つを包んだ袱紗を開きながら、虚無僧姿に扮した藤左衛門殺害の実行犯・陶東九郎(曽根晴美)に、本日はやや低音キーの威圧感漂う石山節で語りかける律雄先生。

「前渡しの五十両と、合わせて百両です・・・」

時代劇名優一覧・石山律雄

しかし金を受け取りながら「あと百両だ・・・しめて二百両」と欲をかく東九郎。律雄先生は袱紗を手にして畳みながら・・・

「はっはっはっはっは・・・そう吹っ掛けなさるな、口ほどにもなく小娘一人を消しあぐねているくせに・・・」

時代劇名優一覧・石山律雄

「では他を頼むんだ、儂(わし)の配下ほどの粒揃いは滅多に集まらんぞ」と強気の東九郎、助蔵の狙いが年に二万両を稼ぐ橋本屋の乗っ取りであることを思えば「二百や三百では法外に安い!」と主張するのですが、鼻にもかけない律雄先生。

「それだけですか?言う事は・・・」

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「みんな出て来い!信州屋とは手を切ったぞ」と交渉を打ち切る東九郎。しかしぞろぞろ出て来た仲間たちは、助蔵ではなく東九郎を取り囲みます。

「へっはっはっはっ、私と手を切るのはお前さん一人だねぇ・・・」

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さらに気迫のこもった石山節。

「お前の言うとおり粒選りの手練れだ・・・」

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「ここで死ぬか、それとも今まで通り儂(わし)に尻尾を振るか・・・どちらを選ぶ!?」

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お話の中盤も過ぎてから登場の律雄先生、のっけから重厚感に溢れつつ水が流れるように滑らかな石山節全開で「かなりガラの悪い商人」キャラを演じておられます。

 

場面変わって・・・

藤左衛門の後妻・お辰(本阿弥周子)との出会茶屋での密会場面。「いつまでグズグズしてんのさぁ、本当の狙いはお光なんだよぅ・・・」とゴネるお辰に余裕の笑いを浮かべながら。

「慌てるな・・・ファッファッ・・・」

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ちなみに、お光(蜷川香子)というのは、藤左衛門が、かつて博徒であった月光院の庵主(あんじゅ)・月心(春風ひとみ)との間に儲けた一人娘のことで、藤左衛門と治助が死んだ今となっては、橋本屋の跡取りレースのド本命。

そのお光を殺すのに手間取っていると町方や藤左衛門の親戚筋が介入して来る、と心配するお辰。「まかせておけよ」と宥めるものの「信じていいんだね?」と少々疑り深いお辰を「くどいぞ」と制しておいてから律雄先生・・・

「楽しみはなぁ、後に延ばすほど大きくなるもんなんだぁ」

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「筋書き通りお光を消して、私の末子をお前の養子に入れて、お前と二人で橋本屋の身代を好きなように料理する・・・」

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「ハッ、そこはそれ紙屋と楮(こうぞ)屋、万事うまくつながるって寸法だよぅ」

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表情豊かに繰り出される石山節が堪えられないシーンです。

 

で、「東九郎軍団」の一人で手裏剣を使う相州無宿の三次(黒部進)が数名のメンバーと共に、お光が橋本屋を飛び出て向かった月光院を襲撃。月心はお光を庇って三次に殺され、ひとり月光院を脱出して逃げるお光の行く手には東九郎軍団を引き連れたお辰と律雄先生。

お辰「お光何処行くんだい?・・・あっ、そうかい、地獄かい・・・」
助蔵「地獄なら、ここだよ」

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コンビネーションばっちりな二人。て言うか、どっちも粋なセリフだねぇ~・笑

で、「儂(わし)が送ってやる」と東九郎が抜刀したところで胡桃の根付が飛んで来て東九郎の顔面を直撃し、金さん登場。

お辰・助蔵「・・・!」

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金さん「こらこら悪党!てめぇらにとっちゃ、ここが地獄の一丁目だ」
助 蔵「くっそ~~~・・・」

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お辰の「やっておしまい!」で金さんに襲いかかるも、悉く金さんにシバかれる殺し屋集団。

ひとしきり暴れた金さんは「竹ん中から生まれるのは、かぐや姫とは限らねぇぞ・・・ 汝(うぬ)らの悪行暴くため、季節を問わねぇ江戸桜、竹の林に、こう咲くんだぃ!」と桜吹雪を御開帳。

助蔵「・・・!」

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立回りの開始と共にバッタバッタと倒されていく殺し屋集団。東九郎もヤラれてしまってマジびびりの律雄先生。

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東九郎軍団の生き残りも全滅すると同時に遠くから聞こえて来る捕り方の「御用だ!御用だ!」の声。金さんにぶちのめされるまでもなく、腰を抜かしてその場にへたり込んでしまう助蔵(とお辰)なのでした。

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律雄先生演ずる助蔵さん、荒れ寺での東九郎とのやり取りとか「地獄なら、ここだよ」の行(くだり)とか、常人の何枚も上手(うわて)の悪人っぽさが突き抜けてて、めちゃカッコイイんですけど、ここのへたり(ビビり?)方もまた素晴らしく突き抜けてて、大物なんだか小物なんだかよく分からない・・・笑

そしてお白州の場面。お奉行様が「一同の者、面を上げぃ」

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「調べによれば、橋本屋後妻お辰、信州屋助蔵、其の方ら・・・」に始まってツラツラと諳(そら)んじられる自身への容疑を、凡そ10年続いたこの「名奉行 遠山の金さん」シリーズに出演した全ての悪役が束になっても叶わないレベルの不貞腐れた表情で聞いてる律雄先生・笑

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「ただいま仰せの罪科(つみとが)、わたくしには何んんの関わりも、覚えもない事でございます」と、淀みなく否認したお辰に続いて、少々エラそうに・笑

「わたくしもっ、あ全く同様で御座りまする」

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「余の者はいかに?」と問う金四郎に、まず東九郎が「我らは普化宗の虚無僧、支配は寺社奉行!」と町方による拘束の不当性を主張し退出しようと試みるのですが、金四郎の前で尺八(阿字観)が吹けずに失敗。

続けて、藤左衛門の殺害現場近くに落ちていた治助の矢立について、治助の留守中に盗み出したのであろう、と三次を追及する金四郎。三次は「知りません、存じません!」ととぼけるのですが、不意に常用していた手裏剣を金四郎に投げつけられ、思わず宙返りで躱す三次。

その様子を見ていたお光、すかさず「それです!それでこの人が、庵主さんを刺しました!」と口を挟むのですが・・・

お辰「お黙り、お光」
助蔵「で・た・ら・め言うな!」

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相変わらずナイス・コンビネーション・笑

「いいえ!たしかにわたくしは見ました!」と引かないお光ですが、それまで静かにしていたお辰が、この娘は虫も殺さぬ顔をして心は本当に恐ろしい娘でございます、とお奉行様に対して魂のこもった訴え。

そしてその隣で、役者界広しと雖も恐らく他に会得した者は誰もいないであろう(いるの?)必殺技「左眉だけメロ~ンと吊り上げフェイス」を惜しみなく披露して下さる律雄先生。※右眉はいると思う・・・

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そして、ここから怒涛の石山節全開で、律雄先生の一人舞台・笑

「そのとぉぉぉぉりで御座ります」

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「いゃ、黙って家を飛び出しぃ・・」

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「散々心配をかけたと思いましたらぁ・・」

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「選ぉりぃに選ってあの尼寺に隠れ・・」

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「ぇあ、そればかりか・・・」

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「博打場の手伝いまでして・・・」

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しばしば挿入される一人合いの手がまた絶妙な律雄先生・笑

そこで「金さんて人が何もかも知ってます」と言い出すお光ですが、またしてもコンビによる攻撃を繰り出すお辰と律雄先生。

お辰「へぇ~、金さんて誰だい?」
助蔵「・・・」

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お辰「お前の間夫(まぶ)かい?」
助蔵「!」

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「そうかぁ!んぁ、間夫かぁ!」

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「えぁ、あー間夫共々賭場付衆の手伝いをする・・」

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「ふぅぅぅ恐ろしい!いやっ!たぁいぃしぃたタマだぁ・・・」

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「そ、そんなんじゃありません、金さんて人は・・・」とあくまで戦うお光ですが、少々カブせ気味にお辰が「じゃぁその金さんてのが生き証人かい?ここへ出しなよ!」と毒づくのをニヤニヤしながら聞いている律雄先生。

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三次が「そうともよぅ、とっとと出しなぃ!」とお辰に続いたのを皮切りに、後ろの人たちが騒ぎ出すのに釣られて「出ぁせぇ出ぁせぇ」とヤジを飛ばしてから律雄先生。

「さぁぁぁあ、お光ぅ!うんとかすんとか返答しなさぁい」

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こりゃただのイジメだ・・・笑

そして「そこまで性悪とは気づかなかったよぉ!このバチ当たりが!」とお辰にトドメを刺されて黙り込むお光。律雄先生も皆さんと一緒に・・・笑

「うんんバァチ当たりぃ・・・バァァチ当りぃ・・・」

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ここで突然、金さんに「喚くんじゃねぇよ木っ端ぁ!」と凄まれ、怪訝そうに金さんを見上げる律雄先生。

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続けて金さん、「そんなに会いてぇ金さんなら、桜ともどもたった今、会わせてやるから目ん玉おっ広げてよぉくぅ!拝みやがれ!」と桜吹雪を御開帳。

「・・・?」

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もちろん右眉も自在に操る律雄先生・笑

そしてお光が「金さん!」を声を上げるとともに事態を飲み込み、目一杯驚きの表情を浮かべる律雄先生。

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律雄先生、観念するの図。

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そして、お辰、東九郎、三次ともども「市中引き回しのうえ磔獄門」の判決を言い渡される律雄先生でした。

 

実はこのシーン、個人的には、凡そ10年続いたこの「名奉行 遠山の金さん」シリーズ通じて、お白州シーンの「ベスト・オブ・ベスト」。律雄先生と本阿弥周子さんという二人の名優が織りなすコンビネーションの素晴らしさは言うに及ばず、「うんとかすんとか」だの「バチ当たり」だの、飛び交うセリフもなかなか斬新で趣深く、編集の妙によるテンポの良さ、BGMのセンス、あとコマ割りも引きの映像が多目で、シーン全体が丁寧に作り込まれている印象を受けます。

ま、この錚々たるメンバーの中にあって、お光役の蜷川香子さんの演技(力)については様々な意見があるかもしれませんが・笑 個人的には、寧ろ無理にお芝居してないところが却って好感度上がっちゃったりしますけどね・・・。

 

脚本は誰かと思ったら、この作品に続いて本田英郎氏ですね。そう言えば、お店乗っ取りを企む後家さんのお話だったり、手裏剣遣いが出て来たり、筋立てもちょっと似てるかな・・・笑 「お光何処行くんだい?あっ、そうかい、地獄かい」「地獄なら、ここだよ」のとことか、あとお白州の場面もそうですが、悪役のちょっとしたセリフひとつひとつにも情緒が行き届いていて素晴らしいです。