時代劇名優一覧(男優編)・成田三樹夫/柳生一族の陰謀 第16話:夜霧に鬼女が笛を吹く(制作/関西テレビ放送・東映)

テレビ時代劇シリーズ「柳生一族の陰謀」で成田三樹夫先生が演じられた名物キャラクター・烏丸少将のご紹介。第3弾はシリーズ第16話「夜霧に鬼女が笛を吹く」から。
柳生の里への墓参ついでに都に立ち寄った柳生但馬守(山村聰)は、京都所司代の板倉周防守(藤巻潤)から、かつて但馬守が烏帽子親を務めたこともある、丹波篠山(ささやま)藩主にしてわずか五歳の幼君・松平忠国(上田孝則)の悪評を耳にします。二十八歳で早世した父・信吉の後を継いで篠山藩主となった忠国が、過酷な税の取り立てで領民らを苦しめているというのですが、そればかりか忠国の生母・お蓮の方(西田治子)は間男と出奔したという噂もあると聞き、不審を覚える但馬守。
実は信吉の正室・依子の方(弓恵子)は、成田三樹夫先生演じる我らが烏丸少将文麿の実の妹であり、信吉に嫁いで以来十五年、子宝には恵まれず、忠国は信吉が側室であるお蓮の方に産ませた子供でした。そのお蓮の方は三月ほど前から行方知れずになっており、霧の夜になると城中の「開かずの間」から、お蓮の方が奏でる笛の音が聞こえてくるという噂まで流れる始末。但馬守は事件の真相を確かめるべく、まずは烏丸少将に接触を図ります。
雷鳴轟く中、自邸で但馬守と相対する我らが烏丸少将。
但馬「ほほう・・・結構な調度をお揃えでござるな」
少将「貧乏公家の背伸びにおじゃりまする」
但馬「いやいや、なかなか御目利なご様子」
少将「左様でおじゃりましょうか?」
やや面倒くさそうに応える少将を前に、「ところで」と本題に入る但馬守。
但馬「お蓮の方様が行方知れずということでござるが?」
少将「・・・お蓮の方様が?」
一度、但馬守から目をそらす烏丸少将。
「このところ篠山へは、とんとご無沙汰ゆえ・・・」
再度、但馬守を見据えてきっぱり言い放つ烏丸少将。
「一向に存じませなんだ」
但馬守は、例の開かずの間から聞こえて来る笛の話を持ち出したうえで、やや身を乗り出して少将に念押し。
但馬「本当に、ご存じありませぬな?」
すると何を思ったか、突然、脇に置いた太刀に手をかける烏丸少将。
顔色ひとつ変えぬ但馬守の前で、一振り・・・
二振り・・・
そして、そのまま・・・
パチリと納刀。
しばし間を置いて・・・
ハラリと垂れ下がる御簾。
鞘に納めた太刀を静かに床に置き・・・
「ちと・・・五月蠅ぅおじゃりまする」
雷鳴に加えて「あんたもウルサイよ」って事ですかね・笑
しかし動じない但馬守、暫く間を置いてから、ぬけぬけと応えて曰く「いかにも」
そして互いの腹の内はともかく「はっはっはっはっ・・・」と笑い合う二人なのでした。
これぞいかにも時代劇、といった感じの緊迫感溢れる二人芝居のシーンなのですが、三樹夫先生の演技は例によって抜群の安定感ながら、山村氏はちょっと滑舌悪くて、たまに何言ってんのか分かんないです・・・。
さて、噂通り笛の音が聞こえて来た、とある霧の夜、侍数人を連れて開かずの間にお蓮の方を探しに出かけた忠国の乳母(山口真代)が、鬼の面を被った薙刀遣いに侍たちともども斬殺されるのですが、その様子を目撃していた御半下(おはした)のお梅(清水めぐみ)が忠国のもとへ逃げ戻り、一部始終を報告。「御方様は開かずの間に閉じ込められているので御座居ます!」と訴えます。
折しも但馬守が篠山城へ来訪。忠国は、依子の方やその兄の烏丸少将も列席する場で、「開かずの間」の事を但馬守に訴えるのですが、実はお蓮殺害計画の張本人である依子の方が「いったい誰がそのような事を?」とすっとぼける背後に我らが烏丸少将。
但馬守は「開かずの間」を開けるべし、と依子の方に迫りますが、祟りを理由に「なりませぬ」とにべもない依子の方。しかしそれでは依子の方への疑いが「深まるばかりで御座居ますぞ」と但馬守が強気にぶっ込んだところで割って入る三樹夫先生。
「お蓮の方を閉じ込めたなどと、大御台もあらぬ疑いをかけられたものよのぉ~」
「大御台、開けておじゃれ開けておじゃれ」
「後の祟りはどうあろうと、責めは但馬殿が負うて下さるわ」
そこへ、うさん臭い巫女(丸平峯子)を連れた、烏丸少将と仲良しのお公家衆(なべおさみ/大泉滉/人見きよし)が登場。場面は「開かずの間」の次の間へと移り、「我は古き縁、この地の古池の主、白鯰なりぃ~~」から始まる、丸平峯子さん熱演による(うさん臭い×2)ご託宣の結果、やはり「開かずの間」を開けると祟りがあるという事に。
どうやら今回の一件には関与していない様子の烏丸少将は、隣の依子の方にひそひそ話。
「信吉殿の御病死も、祟りのせいでおじゃろうかの?」
依子の方が無言で頷くと、「あぁ、いやだいやだ」な表情で首を振る烏丸少将。
いつもは知的で冷徹なあの烏丸少将が、白鯰の祟りを信じて縮こまってる様子がまた面白い・笑
で、白鯰に続いて丸平峯子さんに乗り移った(?)お蓮の方が、間男の子を腹に宿してしまった、などと言い出したもんだから、「嘘です!嘘でございます!」と思わず気色ばんだお梅は、依子の方の折檻を受ける羽目に。
そのお梅を救出に向かった十兵衛が縄を解いているところへ、照れされる龕灯(がんどう)の灯り。
「これはこれは。盗賊かと思いきや、十兵衛殿でおじゃりまするか?」
「このお女中にどんな罪科があるのだ?」と問う十兵衛に、神仏の名代たる巫女のご託宣を罵るなど神仏を足蹴にしたも同然、と居直る依子の方ですが、開かずの間を開ければ全てが分かる、と凄む十兵衛。
「神仏と対決とは・・・恐ろし気なことを言うものよのぉ~」
開かずの間にお蓮の方がいなければどうする気か?と反撃する依子の方に「腹を切ろう」と大見得を切った挙句、「まことでおじゃりまするか?」と念押しする烏丸少将を「切る!」と一喝する十兵衛。
さしもの少将も、お口あんぐり。
またぞろ呼び出された峯子さんによる魂のこもったお祓い(?)の様子を、余裕の色を浮かべた表情で見守る三樹夫先生。
お祓いを終えると、峯子さんは静かに退出。
依子の方に命じられて国家老の出石南條(伊達三郎)が開錠、ついに忠国やお梅と開かずの間へと入室する十兵衛ですが、お蓮の方の姿はありません。
「はっはっはっはっはっはっはっはっ・・・お約束におじゃりますれば、腹を切ってもらいまするぞ」
白鯰の祟りを鎮めるために生贄になれ、と言い放つ依子の方に続いて、言いたい放題の烏丸少将。
「磨が、二つの眼(まなこ)で見ても壁ばかり・・・はて、片目ではのぅ~」
と、そこで不意に聞こえて来る笛の音。
少将が「早ぉぅ腹を切りなされ」と急かすなか、壁に出来たヒビの中に霧が吸い込まれて行くのを見つけ、不意に刀の柄に手を掛ける十兵衛。
すかさず自身も抜刀の姿勢に入る烏丸少将。
怪訝そうに「どうなされたのじゃ?」
「腹を切る」と答える十兵衛に満足げな烏丸少将。
しかし十兵衛は抜刀するや、自分の腹ではなく問題の壁に刀を突き刺します。そのヒビから滲み出る血。
納刀した十兵衛が、続けて兜割りを何度も壁に叩きつけると、崩れ落ちた壁の裏から出現する(ご丁寧に笛まで握りしめた)お蓮の方の亡骸。
さしもの烏丸少将も、これにはビックリ。
十兵衛が「大御台、誰に殺させた?」と問い詰めるのを聞いて、ようやく状況を理解しつつある烏丸少将。
続けて十兵衛が「烏丸少将!」と詰問します。烏丸少将、扇子を振り振り、声を裏返らせて必死の訴え。
「ま、磨ではおじゃらぬ!磨では・・・!」
逃げ出した依子の方を追う十兵衛の前に、例の鬼面の薙刀遣いが立ちふさがります。鬼面と斬り合う十兵衛の背後に忍び寄る烏丸少将。
切られる鯉口。
しかし今度は、烏丸少将の前に立ちふさがる十兵衛の弟、左門(目黒祐樹)。
「お抜きなされ!」と迫る左門を前に、名優・成田三樹夫先生のこの表情。
手出しが出来ぬ烏丸少将の前で叩き割られる薙刀遣いの鬼の面。その正体は、篠山城に流罪となり、座敷牢に閉じ込められていたはずの元大納言・万里小路充房(木村元)。忠国に次いで信吉の二人目の子を宿したお蓮の方への憎しみを募らせた依子の方は、かねてより理(わり)ない仲となっていた充房を唆(そその)かし、お蓮の方を殺害せしめたのでした。
十兵衛と充房の斬り合いは(既定路線通り)十兵衛に軍配が上がります。充房の遺骸に駆け寄った依子の方に、静かに歩み寄る烏丸少将。
依子「充房殿は言うておじゃりました。お蓮を殺すは徳川を殺すも同じ・・・」
依子「斬ってたもれ!柳生を斬ってたもれ!柳生を殺すは徳川を・・・」
抜き放たれる烏丸少将の太刀。
依子「・・・うっ!」
十兵衛、但馬、左門が厳しい視線を注ぐ中、静かに納刀し、その場から立ち去る烏丸少将。
「流人を仲間にして悪行を働いた妹は・・・」
「兄、烏丸少将が成敗したと・・・」
「所司代にはお伝いしてたもられよ・・・」
今回、悪事には加担していなかったとは言え、やはりいつも通り最後の最後まで圧倒的な存在感を放つ我らが烏丸少将なのでした・笑
さて本作、例によって成田三樹夫先生のお芝居の素晴らしさは言うに及ばずですが、巫女さん役で登場する丸平峯子さんの活躍もまた特筆に値します。もうとにかく一介の大部屋女優とはまるで思えない、本当に何か悪いモノが乗り移ってしまったかのような、「そこまでやらんでも」と言いたくなるほどの鬼気迫る熱演で笑わか・・・お話を盛り上げてくれます・笑 基本的には長屋のうるさいおば・・・おかみさんのような役がお似合いの女優さんだと思うのですが(悪口ではありません)、こちら系を演じる才能にこれほどまで恵まれていた方だったとは・・・いやはや脱帽、恐れ入りました。
そして本作の脚本担当は山田隆之氏。「柳生一族の陰謀」シリーズでは、烏丸少将が登場する最後のお話となる第36話「烏丸少将の最期」や、シリーズ最終話「さらば!柳生」など、他にも重要な節目となる作品を含む何本かのシナリオを担当しておられます。
本作については、お話の展開上、最重要人物とも言うべきお蓮の方が死体となって「開かずの間」の、しかも壁の中から発見されるという、なかなか強烈なオチが用意されているわけですが、クライマックスに至るまでは、お蓮の方の生死も分からなければ、もちろん犯人(=悪)が誰であるかも分からないようにシナリオが構成されており、観る者はついつい最後まで目を離せなくなってしまうという、まさにサスペンスドラマの要素をふんだんに盛り込んだ、非常に完成度の高い秀作だと思います。
あえて言えば、結末に向けての伏線の張り方が繊細過ぎると言えば繊細過ぎるため、例えば、なぜ丸平峯子さん演じる巫女さんは(烏丸少将やお仲間の公家たちは事件に関係ないと思われるのに)あそこまで依子の方に都合の良いご託宣をしてしまうのか、なぜ三月前に行方知れずになったお蓮の方の遺体があぁまで瑞々しい(かつその死体から液状の血が流れ出る)のか、そもそもあの笛は誰が吹いていたのか(やっぱ幽霊?)等、色々と解釈に苦しむポイントが出て来るわけですが、ま、そのへんは目を瞑るほかありません・笑
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