斬られ役列伝・田中浩編/ご存知!旗本退屈男VI 伊達家に討幕の陰謀!埋蔵金を狙う謎の美女!日光東照宮・恐怖の展望台!!(制作/テレビ朝日・東映)

市川右太衛門氏の当たり役・早乙女主水之介をご次男・北大路欣也氏が演じて話題を呼んだ、テレビ朝日制作の時代劇「ご存知!旗本退屈男」シリーズ第6弾となる本作。
老中・酒井雅楽頭(石橋蓮司)と結託し、奥州藤原家の隠し金・七千万両を軍資金に幕府転覆を目論む仙台藩城代家老・有馬左京大夫(長谷川明男)の手先となる藩の剣術指南役・八木典膳役で登場する田中浩名人。ほぼラス立ちのみの出番ですが、いつもながらの躍動感溢れるダイナミックな立回りを披露、大スターの欣也氏相手に互角以上の存在感を発揮しておられます。
有馬一派は、藩主・伊達綱村(下塚誠)が幕府より拝命した日光東照宮の大修復工事にかこつけて建造した望楼に仕掛けを施し、将軍・綱吉(長門裕之)と御三家の面々(波多野博/有島淳平/岡崎賢司)の暗殺を謀りますが、主水之介(北大路欣也)がこれを阻止。酒井や有馬の前に颯爽と登場した主水之介が「この主水之介、天に成り代わり上様に代わって、貴様らを斬る!」と言い放つや、酒井や有馬の号令でぞろぞろ集まって来る仙台藩士の面々。
「まだ目が覚めぬか!?貴様ら!!」と主水之介に一喝されても怯むことなく主水之介に斬りかかる藩士たち。主水之介が二人倒したところで、その背後に待ってましたの田中浩名人登場!
寄りの一コマ。
主水之介「八木典膳!剣の天才とまで謳われたお主が、謀反に与するのか?」
八木典膳「真剣にて、御前試合のやり直しが、夢で御座った・・・」
物語序盤、堺正章氏演じる早乙女家用人・笹尾喜内の説明によれば、典膳は一度、主水之介と御前試合で立ち会った際に「待った」をかけて引き分けに持ち込んだ剣客(?)で、そのとき苦し紛れに編み出した「卍殺法」が評判を呼んで仙台藩に召し抱えられたとか・・・。
「死ね!」と抜刀して・・・
真っ向斬りを仕掛けるも主水之介に躱され・・・
逆に主水之介の水平斬りを躱し・・・
再度の真っ向斬りも・・・
主水之介に受け流され・・・
青木哲也氏を斬り捨てた主水之介への水平斬りも空振り。
主水之介に詰め寄られる田中浩名人の背後から石橋蓮司氏演じる酒井雅楽頭が「斬り捨てぃ!」
「むがぁ~っ!」
一瞬、長谷川明夫氏と石橋蓮司氏の陰に隠れるのでよく見えないが、何度か天の位置で欣也氏と刀を合わせ・・・
大きく振りかぶって・・・
真っ向から斬りかかるも欣也氏に大きく躱され・・・
カウンターで繰り出される欣也氏の払い上げを・・・
慌てて躱す田中浩名人。
欣也氏同様、太刀筋にしなやかさは感じられない田中浩名人ですが、一手一手がしっかり大きく繰り出されるので、立回りが華やかに見えますね。欣也氏とはメリハリの効いた剛の者同士の対決といった感じで、見応え十分です。
さて、主水之介が他の侍たちを斬りまくる間、しばし休憩していたが、再び主水之介に対して、じわじわと間合いを詰めて行く田中浩名人。
互いに同じようなフォームで対峙するわけですが、こういう地味な演出がニクいですね。たぶん擬斗担当の菅原俊夫翁のアイデアでしょう。
満を持して水平気味に繰り出した刀を・・・
天の位置でガッチリ受けられ・・・
そのまま横移動・・・
欣也氏に押し離されて・・・
繰り出した横払いを躱され・・・
何度か天の位置で刀を合わせるも・・・
主水之介に払い上げを繰り出されて回避するのが精一杯の田中浩名人。
このシーン、引きのアングルならでは、なのですが、注意深く観察していると、名人の刀が実に多彩な角度から繰り出されている事が分かります。どこの道場でも、だいたい殺陣の先生というのは「米の字(縦・横・斜め)」の斬り方を教えてくれるものだと思いますが、その全ての角度から自在に刀を繰り出せる役者さんというのは、なかなかいないものです。
場面変わって・・・
次々に斬りかかってくる仙台藩士を主水之介が相手にしている間、さり気なく背後を取っている田中浩名人。
主水之介が一人倒したところで袈裟掛けに斬りかかる田中浩名人。
しかし躱された挙句・・・
三度(みたび)、主水之介に払い上げられ・・・
庭に飛び下りる田中浩名人(なのですが、ここは手首を返して名人を追撃する欣也氏がカッコイイ!)。
同じく庭に飛び下りた欣也氏と対峙し・・・
主水之介が・・・
二人倒したところで・・・
両腕を大きく広げたかと思うと・・・
頭上に刀を掲げ・・・
うぉ~、これが噂の・・・
「卍殺法」の構えであります!
しかし刀を左腕一本で前方に突き出した主水之介にグイッと一歩前に詰められ、思わずたじろぐ田中浩名人。
ちなみにさっきの構えから引いた刀を右バッターのアッパースイングの要領で大きく払い上げるのが「卍殺法」の神髄のようです。
しかし空振り・・・
続けて頭上に振りかぶって・・・
真っ向から斬りかかるも巻き落とされ・・・
そのまま主水之介の左サイドを抜けてターン・・・
二人倒した主水之介に斬りかかるも・・・
天の位置でガッチリ受けられ・・・
しかし、この位置までは押し込む田中浩名人。
力比べのまま・・・
互いの左手に回り込む二人・・・
グリグリ・・・
グリグリ・・・
先に仕掛けた田中浩名人に反応して欣也氏が大きく田中浩名人の刀を押し上げる!
押し上げられた刀を振り下ろそうとするも、一瞬空いた胴をすかさず抜かれ・・・
さらに返す刀で、もう一太刀・・・
胴を抜かれる・・・
田中浩名人。
刀を振り下ろすのが一歩遅れた田中浩名人のアップ。
「・・・・!」
最後の力を振り絞り刀を振りかぶるも・・・
左・・・
右・・・
左・・・
右・・・
左と切り刻まれ、ついに最期を迎える・・・
田中浩名人でした。
そのダニー・トレホばりに彫りの深い強面とドスの利いた演技で時代劇、現代劇を問わず大活躍、名悪役の名を欲しいままにしたほか、丸大ハムのCM出演でも知られた田中浩名人ですが、もともとは三船プロ系の殺陣集団「七曜会」に所属されていた、由緒正しき流派の流れを汲む立ち回りの名手でもあります。
粘り気のある足腰を武器に安定感抜群の姿勢から小気味よいテンポで変幻自在に複雑な手をこなして見せたかと思えば、時には頭上から有無を言わせぬ豪快で鋭い一太刀をブンッ!と繰り出す。一方で(本作では披露されていないものの)斬られた瞬間に鋭く回転してみたり、イナバウアーのように大きく仰け反った姿勢で静止してみたりといった、運動神経の良さや身体の柔軟性を匂わせつつ、器用で多種多芸な一面も見せて下さいました。
一手一手の動作が大きく伸びやかな反面、刀の振りが速過ぎて、ともすれば刀が軽く見えてしまうきらいもあったのですが、何分あの「剛腕」とか「怪力」なんて言葉がよく似合いそうな、いかにも「屈強な武士」といった態の風貌と体格ですから、まぁそれはそれで却って腑に落ちると言うか、キャラにピタリとハマっていたかもしれませんね。
さて本作の殺陣師さんは、「ご存知!旗本退屈男」シリーズ全編を通じて擬斗を担当されていた菅原俊夫翁。オープニングからラス立ちまで、ややトリッキーな手も交えつつ、完成度の高い立ち回りで観る者を毎度のように楽しませてくれるわけですが、本作の立ち回りは、「卍殺法」に留まらず、その手順からカメラ位置、コマのつなぎ(編集)にいたるまで、シリーズ他作品と比べても特によく作り込まれていた感があります。
ラス立ちの終盤では、老中・酒井雅楽頭を演じる石橋蓮司氏と欣也氏の一騎打ちのシーンが用意されているのですが、シリーズ第2作に続いて蓮司氏の吹替えに福本清三氏を起用したこのシーンなんて、もう剣会史上、最強レベルにカッコイイ! 何と言うか・・・必見です!