時代劇名優一覧(女優編)・石倭裕子/八百八町夢日記(第2部) 第8話:うわさの伊達男(製作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)

時代劇名優一覧(女優編)・石倭裕子/八百八町夢日記(第2部) 第8話:うわさの伊達男(製作/ユニオン映画 制作協力/東映太秦映像)

グラビアや写真集での脱ぎっぷりの良さが魅力だった石倭裕子さん。ゴージャスなお身体だけでなく、その演技力もなかなかのもので、テレビ時代劇でよくお見かけするようになったのは80年代の終わり頃だったと記憶していますが、善良な百姓娘から人殺しも辞さない悪女役まで、幅広いキャラクターを自然に演じてのけることの出来る、印象深い女優さんの一人でした。

本作で演じるのは、北町の同心・八田真四郎(船越英一郎)と恋愛関係進行中の、神田須田町の筆屋、松花堂の娘・お袖。新しい筆を客に渡す前にチロチロっと白い穂先を舐めて赤い紅を付けてやる、という、おじさんキラーなサービスが巷で評判の、嫁入り前の生娘でありながら男たちのスケベ心に付けこむ程度には頭もキレるという、なかなか難しいキャラクターだと思うのですが、たしかな演技力に裏打ちされた納得の役作りによって、余人には体現しえないであろうオリジナルな筆屋の娘像を見事に完成させておられます。

 

まずはオープニング直後、八田と二人連れ添っての登場シーン。

「八田さんっていけない方ね」と初っ端からいちゃいちゃモードの裕子さん。

「美味しいものを御馳走するなんて言って私にお酒を飲ませて・・・」

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わざとかどうか分かりませんがよろめく足元。

「私ほんとに酔っちまったわ・・・」

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「ちょっと休んで、酔いを覚まして行こう」と目の前にあった出合茶屋にさりげなく誘導する八田ですが・・・

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そんなに甘くはない裕子さん・笑

「八田さん!ここ、連れ込み宿じゃありませんか!」

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「八田さんってそんな方だと思わなかったわ!」と手厳しい裕子さんと、釈明に忙しい八田・笑

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八田さんの必死の弁明にも「知らないわ」とむくれて見せる裕子さん。

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どちらかと言うとその類まれなるエロ・・・色気を押し出す役での起用が多い気がする裕子さんですが、今回は貞操観念強めのお嬢さんということで、いつもとは少々趣が違います。しかし違和感なく上手に演じ分けるなぁ、と感心・・・。

で、二人がそんなやり取りをしてるところに「きゃぁぁぁ」と女の悲鳴が聞こえたかと思うと、その出合茶屋・叶屋の主、利助(遠山二郎)が飛び出して来て「人殺しですっ!」

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「間が悪いったらありゃしねぇな」と言いながら十手を取り出して身分を明かし、「死体のあるところに案内しな」とお仕事モードに入った八田さんを見守る裕子さん。

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「すまんなぁ」と詫びる八田に「いいえ、ご立派だわ!」と嬉しそうな裕子さん。

「やっぱり八田さん、好き♪」

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やはり、気は強いが良識のある生娘、といった感じのキャラ設定ですね。ま、生娘にしては、ちょっと貫録あり過ぎる気もするけど・・・。

 

で、問題の死体は越後村松三万石・堀家の奥方付老女・浦里(鈴川法子)と判明。既に姿を消していた連れの男は役者だという女将(森あつこ)の証言から、同心・木崎(高橋浩二朗)と共に各所の芝居小屋をあたる八田ですが、手がかりは掴めません。

そんななか、御数奇屋坊主の石川宗順(菅貫太郎)が堀家の江戸留守居役・権藤小左衛門(溝田繁)の元に現れ、堀家から一千両を強請り取ろうとしている事が分かります。北町奉行の榊原(里見浩太朗)が宗順の屋敷に三郎三(風間杜夫)を潜入させた結果、役者の名前は「文之助」と判明。

で、そうした三郎三の調査結果の諸々を茶店でおつや(中田喜子)が八田に報告しているところに、怒気を含んだ口調で「八田さん!」といきなり裕子さんが登場・笑

「随分お忙しそうね」

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「あ、いや・・これはだな・・」としどろもどろの八田に追い込みをかける裕子さん。

「何よ、事件を追っていて忙しいから暫く会えないとか言っといて、こんな人といちゃいちゃして」

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八田が弁解に四苦八苦しているところに「お嬢さん、舐め筆のお袖さんですね?」とおつやが割って入るのですが・・・

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薄ら笑いを浮かべながら、とりわけ低めのトーンで言い放つ裕子さん。

「そうよ?それがどうしたの?」

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怖ぇーよ・笑

もう、この一言を言わせるためだけに裕子さんが配役されたのかと思う位、裕子さんの貫録(凄味?・笑)にどハマりのお芝居が炸裂。

一方のおつやさん。「いえね、うちの旦那が、いつも噂してるもんですから。ねぇ?旦那・・・」と悪ノリ。

後姿だけで怒りの増幅が伝わって来る裕子さん・笑

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文字通り声を震わせ「うちの旦那ですって?」の後に八田をきっ!と見据えて裕子さん。

「もう許せないわ!八田さん、今後一切お付合いはお断りします!」

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そして切れ味鋭く「さよなら!」とだけ言い残して去って行く裕子さん。

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この後おつやさんは「はっははははは!」と手を叩いて大喜び(ひでぇ・・笑)。踏んだり蹴ったりの八田さんでした。

 

さて、浦里を殺害した役者の柏木文之助(有光豊)は、お袖の幼馴染みで菓子問屋・鶴屋の女房、おひで(桂川京子)とも姦通。それをネタにおひでは、宗順や旗本寄合席の矢代民部(内田勝正)と結託している岡っ引崩れ、薬研堀の源次(工藤堅太郎)に二百両を強請り取られます。文之助と縁を切る決意をしたおひでに相談を持ちかけられるお袖。

「二百両ですって!?」

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「馬鹿なことするからよ」とお袖にたしなめられ、旦那が病弱でどうたらこうたらと弁明したうえで「分かってよ」と自身の軽率な振舞いの正当化を試みるおひでを突き放すお袖さん。

「分かんないわ。私はまだ娘ですからね」

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めげずに、食事に誘ったら酔わされただの、最初は無理やりだっただの、この場で展開する必要性の判断に苦しむガールズトークを一通り終えてから、自分に代わって文之助に手紙と手切れ金を届けてくれ、となかなか図々しい申し出をするおひでに、当然のクレームを入れるお袖嬢。

「自分で渡せばいいじゃないの」

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しかし「今度、文之助と会ってるところを、あの岡っ引に見られでもしたら、それこそ無事に済まないわ」というおひでの言い分もご尤も。

「だからって何で私が・・・」

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しかしついには、こんな事は他の者には頼めない、と手を合わせて頭を下げながら懇願するおひでの粘り勝ち。

「で、その文之助って役者、どこにいるの?」

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お袖さん、男前っ!・笑

 

で、舞台は浅草紅勘横丁の文之助邸。ひと足早く源次が駆け付け、町方に目を付けられてしまった文之助を口封じのために殺害した現場にのこのこ現れてしまったお袖さん。

「文之助さん、いますか・・・?おひでさんに頼まれた者ですぅ」

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奥でこちらに尻を向けて転がってる文之助(の死体)を認めて、底抜けに明るい声で。

「寝てるんですか?ちょいと上がりますよっ?」

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「文之助さん、ちょっと起きてくだ・・・ひゃぁ!」と見事な間合いのノリ突っ込み・笑

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物陰に隠れていた源次が絶妙のタイミングで「神妙にしろぃ!」

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「お前ぇが殺したんだな?」と迫る源次。

「い・・・う・・・あたしじゃ・・・ありません!」

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もちろん、そんな言い分が通るはずもなく、そのままお縄を受けて連行される可哀想なお袖さん。

時代劇名優一覧・石倭裕子

何でもないシーンなんですが、裕子さんのセリフひとつひとつに「作られてる」感がないと言うか、実にナチュラルなままに裕子さんの口から言葉が紡ぎ出されるんですね。やはり女優さんとして(エロいだけでなく)実力派だと思うのですが・・・。

 

で、連行の現場を目撃していた、お袖を見知る大工二人(高井清史、稲泉智万)が文之助の死体を発見、番屋に駆け付けた八田は、お袖が下手人として岡っ引に連行されたが、それっきり行方不明と木崎に聞いて逆上。番屋を飛び出したところへクールに登場した三郎三とコント紛いのやり取りの末、三郎三がお袖を救出するため宗順の屋敷へ。

土蔵で縛られ猿轡(ぐつわ)まではめられていたお袖を助け出した三郎三、屋敷の裏口までお袖を連れて行き「早く行きな。いい人が待ってるから」と送り出す。

ただ振り返ってるだけなんですが、やっぱその表情がエロ・・・色っぽい裕子さん。

時代劇名優一覧・石倭裕子

「お袖さん!」と八田に声をかけられるや否や、「八田さん!」と駆け寄るお袖。

時代劇名優一覧・石倭裕子

「やっぱり来て下さったのね・・・!」

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「あだず・・・とっても・・・恐かたのほぅ・・・うほぉいおぅおう(泣)」と、最後はバッチリこれでもかと言うほどの三枚目芝居で〆る裕子さんでした・笑

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さて、このお話の脚本担当は鈴木生朗氏。本シリーズに加え、長七郎江戸日記や三匹が斬る!の各シリーズでも活躍。軽妙なテンポで展開するコメディタッチなお話を得意とするライターさんというイメージがありますが、本作もまた「御多分に漏れず」の素晴らしい仕上がり具合。それもあってか、最後の泣きのシーン始め、裕子さんのお芝居も全般を通じて、あえて「喜劇調」にアレンジされているようにも思えます。

また注目すべきは、その豪華な脇役陣で、御数奇屋坊主の石川宗順を演じる時代劇悪役の第一人者・菅貫太郎氏、他を寄せ付けない完璧な所作・セリフ回しで岡っ引崩れの源次を演じる時代劇界の大ベテラン・工藤堅太郎氏のほか、「松平右近事件帳」へのレギュラー出演を始め、80年代前半から東映京都で活躍されてはいるが、「まだ娘」の裕子さんに明らかに貫録負けしてしまっているおひで役・桂川京子さんも、却って「軽はずみな若妻」役が見事にハマっていて要注目です。