斬られ役列伝・福本清三編/柳生一族の陰謀 第2話:美女のいけにえ(制作/関西テレビ放送・東映)
- 2020.09.30
- 福本清三(東映剣会)
- 斬られ役, 柳生一族の陰謀, 殺陣, 福本清三

今回ピックアップするのは、萬屋錦之介氏主演、深作欣二氏が監督を務め、78年に公開されて東映による久々のヒット作となった時代劇映画「柳生一族の陰謀」に続いて、東映と関西テレビによって制作された同タイトルのテレビ時代劇。映画に続いて柳生十兵衛を演じる千葉真一氏が主演。その脇を、(映画ではヨロキンが演じた)柳生但馬守を演じる山村聰氏や、映画と同じく松平伊豆守役の高橋悦史氏らが固め、映画にはないオリジナルのストーリーを中心に全39話が放送されたのですが、第1~3話までは、映画版で描かれた、後の三代将軍・徳川家光(田村亮 ※映画版:松方弘樹)と、駿府城主で家光の実弟にあたる忠長(西田健 ※映画版:西郷輝彦)との間で繰り広げられる、将軍職を巡る骨肉相食む争いのお話。
家光方についた但馬守ら柳生一族は、関ケ原で滅ぼされて以来、流浪を余儀なくされ、いまは柳生の庄に住まいする根来一族の頭領・左源太(小池朝雄)に助力を要請します。その根来衆のなかで、頭の左源太、二番手のフチカリ(矢吹二朗)に次いで三番手となる男・黒丸を演じるのが、若かりし頃(三十代半ば)の福本清三名人。その後「エビ反り」を始めとする妙技で「斬られ役」として脚光を浴びることになる我らが福本名人ですが、本作(第2話)では、少年時代に故郷の山谷を駈け巡り鍛え抜かれたとされる驚異的な運動神経を活かしたアクションを披露、敵方の役人集団との乱闘シーンで大暴れなさいます。
舞台は、家光や伊豆守らとの対決に備え、忠長が母・お江与の方(木暮実千代)と共に戻った駿府の城下町。忠長を将軍職に推す元筆頭老中・酒井備後守(渡辺文雄)の命によって不審者の取締りが厳しくなるなか、福本名人演じる黒丸は、同じく根来忍者のハヤテ(春田純一)と共に城下に潜入、露店で飲み屋を営んでいます。
酒が切れたので仕入れに行くようハヤテに頼みつつ、一言添える黒丸。
「警戒が厳しくなってるから、気をつけろ」
しかしヤバいのは黒丸の方でした。ハヤテがその場を離れた直後に駆け付けて来た役人の一団に囲まれる黒丸。
我らが福本名人はすぐさま反撃。桶の蓋を投げつけ・・・
斬りかかって来た一人の腕を掴んで、さらに別の役人にまぁまぁの高さのハイキックを繰り出し・・・
腕を掴んでいた方の役人を投げ飛ばす福本名人。
さすがはJAC仕込みのアクションシーンです。展開が速過ぎて、一度見ただけでは何が起きてるのかよく分からない(笑)
助けに行こうとするハヤテをフチカリが制止するシーンを挟んで、柄杓を得物に立ち回り・・・
さらに柄杓を投げつけ・・・
素早く移動して、その辺にあった荷物を投げつけ・・・
役人がひるんだ隙に、履物屋の台に飛び乗り・・・
掴めるものを掴み、足を掛けられるところに掛けて・・・
あっと言う間に屋根に・・・
上ってしまう・・・
福本名人。
すげー・・・
前から現れた役人が・・・
斬りかかって来るその腕を受け止め・・・
捻り・・・
刀を奪い取って・・・
斬り上げ・・・
さらにもう一人を・・・
刀を振り下ろして追い払い・・・
後ろから迫って来た一人には・・・
時計回りからの横払い。
たまらず逃げる敵を・・・
追撃・・・
体勢を立て直し、斬りかかって来た相手の刀を払い上げ・・・
さらに後ろから斬りかかって来た敵の刀を受け・・・
力比べの末、敵を地面に突き落とすのですが・・・
何とそこで、吹替えもなしに自らも地面に飛び降りる福本名人(唖然・・・)。
着地するなり・・・
一人の刀を払い・・・
一人に抜き胴を浴びせ(しかも逆手?)・・・
さらに前から斬りかかって来る相手の刀を・・・
鳥居受け・・・
からの・・・
押し込まれて、からの・・・
いなされて・・・
からの・・・
時計回りでの・・・
横払い。
さらに斬りかかって来る相手に・・・
後ろ蹴り。
転倒した敵の・・・
腹を掻き切る・・・
福本名人。
役人が駆け付けてからここまで、わずか四〇秒足らず(うち約五秒はハヤテとフチカリのシーンなんで実質三〇秒チョイですね)で展開しています。いや、もうこれ身体能力以前に、ここまで複雑な手順を覚えて、このスピードで繰り出せるだけでも超人的だと思う・・・。
場面変わって・・・
追手から逃げる福本名人。
角を・・・
曲がって・・・
あれ?いないぞ・・・
と、何かすんごい高い所から飛び降りて来る・・・
福本名人。
飛び降りついでに斬り下ろして一人倒したようです(ちょっと分かりにくい)。
続けざまに、さらにもう一人を・・・
時計回りに横払い。
最後の一人も腕を受け止め・・・
腹にブスリ。
刀を抜いて・・・
振りかぶり・・・
袈裟斬りでフィニッシュ。
残心。
周囲の様子を見渡して・・・
その場を後にしようとする福本名人。
「!」
立ちはだかる托鉢僧の集団。
大活躍後、一転して福ちゃん絶体絶命!
この托鉢僧集団を束ねるのは、新陰流の祖・上泉伊勢守の流れを汲む剣術家、小笠原玄信斎(南原宏治)。自らが開祖となる真新陰流こそが新陰流の正当な後継であることを天下に知らしめるため、忠長が将軍職の地位を得た暁には「将軍家御指南役として御取り立て下さること」を条件に備後守を通じて忠長に接近、その手土産代わりに柳生の手練れの一人=黒丸を拘束したのでした。
忠長に家光暗殺を命じられた玄信斎は江戸に向かおうとするのですが、「その前にこの地にて、今ひとつ手柄を立てていかんか?」と備後守にそそのかされる玄信斎。
で、知る人ぞ知るこのシーン。
柳生の仲間をおびき寄せる餌として、猛暑のなか首から下を土中に埋められてしまった福本名人。
左源太を始めとする根来衆は十兵衛共々、現場に集結するのですが、根来復興のため家光に力を貸すことを決めた左源太は無用な流血を避けるために、非情にも黒丸を見殺しにする決断をします。
日が傾いて来た頃にはヘロヘロになってしまう福本名人。
ここで我慢できずに飛び込んで行った黒丸の二人の弟(大矢敬典/高橋健二)があえなく斬り死に。
「たった二人っきりか・・・」と成果にご不満の玄信斎に・・・
あっさり首を刎ねられる・・・
哀れな黒丸。
力ない悲鳴と共に宙を舞う生首・・・
いやはや、いかにも70年代って感じの映像だ・笑
ちなみに福本名人の著書によれば、このシーン、就学前の娘さんがテレビで見ていて「パパが死んだ!パパが死んだ!」と「気が狂ったように」泣き叫んだのだとか・笑
稲田龍雄氏や青木哲也氏など、JACで活躍されていたスタントの方が、いつの間にやらしれっと太秦の斬られ役に転じるパターンはしばしば見かけますが、東映専属の大部屋俳優がJACの面々に混じってスタント紛いのアクションシーンで大暴れというのは、後にも先にもこの福本名人ただ一人なのではないでしょうか。それにしてもこの余人とは桁ハズレの身体能力・・・斬られ役として名声を欲しいままにした福本名人の神髄を垣間見た気がいたします。
さて、そんなわけで福本名人演じる黒丸は死んでしまったのですが、このテレビ版「柳生一族の陰謀」、その後、十兵衛と根来衆の精鋭で結成された「裏柳生」の一員・キタノとして福本名人は復活。春田純一氏、斎藤一之氏らJACのメンバーに混じってセミレギュラーとして大活躍なさいます。殺陣の名手・福本清三の、いつもとは一味違った魅力が堪能できる、このテレビ版「柳生一族の陰謀」、一見の価値ありです。
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